第22話一度食べてくれたら


皇に恋人とは何たるかを力説され、俺の脳みそはぐちゃぐちゃに掻き乱されていた。


考えれば考えるほど、俺と西条の間に出来た溝がどんどん広がっていき、もはや埋めようがない――そんな感じがしたからだ。


でも一つだけはっきりとしていることはある。


「……あの、さ」


「はい! 何ですか?」


「答えは出ましたか?」と言わんばかりに、食いついて反応する皇。


俺は、ゆっくりと、慎重に、息を吸い込んで、


「……その、確かに皇の言う通り、俺は西条とは対等な関係、じゃないのかもしれない。……いや、違うんだろうな。皇に言われてそんな気がして来ている。今だって、パ、パシられている訳だしさ……」


「……それで?」


「でもさ、それとこれは違うというか……。西条にフラれたからって、皇とつ、付き合うのは、別だと思うんだ。だってそうだろ? そんな気持ちで、皇と付き合ったらそれって……」


そこで言葉が詰まってしまった。


皇はというと、さっきまでの緊張に張り詰めていた雰囲気からは一転して、冷めた表情になった。


そして、「はあ」とため息を吐いて、


「私に失礼、ですか?」


「う……」


全く持ってその通りだ。


あーだこーだ言われた所で、俺は、西条が俺に対して恋愛意識を持っていないのと同じように、皇に恋愛感情を持ってない。


「西条先輩にフラれたから、私と付き合う。別にそれでいいじゃないですか。浮気でも何でもやましい事をしようって訳じゃないんですし。それに、私も良いって言ってるんですよ? 何も問題ないじゃないですか」


「いや、そう言う事じゃなくて……。俺は」


「何も悪くないです!」


「お、おぅ」


強引に押し切られた。


俺が言いたい事と、皇が思ってる事は微妙に食い違っているような気がするが気のせいか?


頭がごちゃごちゃしすぎて、よく分からない。


「まったく! まあ、でも昨日よりは前向きに検討してくれているようなんで、今日はこの辺で良しとしましょう……あ! もうこんな時間ですね! 時間取らせてすいませんでした。はやく売店に戻ってください。あんまり、遅くなると先輩に迷惑掛かっちゃいますよね。でもそれは受け取ってもらいますよ?」


早口で捲し立てる皇。


あざとっぽく首をカクッと傾けて、最後には俺がまだ手に持っていた弁当を指差しながら、話を切り上げようとしてきた。


「弁当はいいって」


「ダメですよ。先輩の為に作ったんですから、返品は拒否します。受け取ってください。……ダメですか?」


「う……分かったよ。でも今日だけだからな」


(……一回ぐらい弁当貰ってもいっか……)


こう言わないと皇は引き下がってくれないだろうし。


……一回ぐらいはいいだろう。一回ぐらいは。


自分に言い聞かせて、無理矢理納得させている様な感じがして嫌だったが、皇は屈託のない笑顔で、


「はい、それでいいですよ! 一度食べてくれたらそれで!」

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