第6話【日本刀 敷島一刀】
候補に問われ答えた〝五人〟、あと枠は一人だ。そして俺を含めて五人もいれば召還円を分割印刷した165枚ものA4コピー用紙などすぐ並べ直せる。
さてと、呼び出されたくもないのに勝手に呼び出され別に特別な力を与えるでもないとくれば呼ばれた方は当然怒る。呼び出しておいてナンだけど、俺がどこかに勝手に召還されたら召還した奴にキレる。
だが奇跡が起こった。銀髪クンとライフルちゃんは、なんと俺に感謝してくれてる! 『呼び出してくれてありがとう』、と。
しかし、だ——銀髪クンは正真正銘の異能だけど懐中電灯にしかならないし、ライフルちゃんは戦いたくない人だし、まあ誰かを狙撃して欲しいとは思わないけどさ。
この二人に比べると候補はどっちかって言うと体育会系だし、僧兵はガタイが良いし、なんか〝向こうの方〟が強そうだよな。最後なんだからこう、〝戦えるシンパ〟みたいのが欲しいよな。
多種多様な魅力を持つ男性キャラクターたちが入り混じるトコまではできた。だが戦えるトコまでは来てないと思う。
よし。次に召還する者のイメージ、固まってきたぜ! 詠唱を始める。
「拝啓、異能なイケメンの皆さん、私は一超イケメンです。さて、方々、きっとこの召還に面食らうことでしょうが貴男は応じるべきです。なぜならば、我々はイケメンでありしかも異能の持ち主。これをどう人生に生かすか、イケメンである者の本音がこの召還によって明らかになるからです」
もはや候補も僧兵も無表情のまま何も言わない。銀髪クンだけが生き生きとした表情でただ見つめてくれている。ライフルちゃんは今自分が見ているものがなんだか解らないという顔をしている。そしてお約束、ぶわああああーっと舞い上がるA4コピー用紙。
姿を現したのは——抜き身の日本刀を手にした優男なイケメン。いや、優男という表現が適当かどうか、下手すりゃ女に見える。それも美少女に。後頭部で結ってあるその髪は沖田総司を気取っているのかもしれないがさすがに月代を剃ってはいない。それに月代無くても〝侍〟って基本オールバックだろ。だけどこの優男なイケメンは髪が数条、デコの上に落ちている。だからポニテにしか見えない。しかしその手首は女のそれでは到底なく、着やせするタイプなのかもしれない。
そして当然の然で抜き身の日本刀持った奴が現れれば残り五人全員一斉にグランドピアノのところまで後ずさりするのも無理はねぇ。日本刀がなんだか、解っているのか解っていないのか解らないライフルちゃんまでが下がっていた。この中で唯一まともに得物を持っている僧兵まで下がっていた。
つまり最大な欠陥がある。侍の装束で日本刀を持っていてくれたらたぶんここまで恐怖は感じねぇ。逆に侍のコスプレしてて刀を持ってなかったらヘンだろっていう。要はこういう事。カジュアルな格好で抜き身の日本刀持つなよ!
「ああ、失礼しました。突然なもので」
そのイケメン、声までが女の声のようだった。美少女風イケメンは言いながら抜き身を鞘にぱちんと収めた。突然訳の解らない所に移動したというのになんとも落ち着き払っている。感情が平常心しかないのか。
なんだろう、礼儀は正しそうだがこのそこはかとなく漂う狂気は。その狂気がつかつかと遠慮無く近づいてくる。
「あなたですね、わたくしを呼んだのは」
一発で俺が召還者だと見破られた。身体が硬くなる。
「そ、そうだが」
「今度はあなたが失礼ですね。呼んでおいてそれはないでしょう?」僅かに微笑みを浮かべながらそんな事を言ってきた。確かに理屈としてはそうなのだが——
「いや、なんで刀むき出しなの? そんなの見りゃ誰だってビビるって!」
「ああ、居合の稽古の最中だったもので。でもそこの僧兵な方の手にしている薙刀だって本物の刃が入っているのでしょう?」
あれ? そーいや、
「僧兵ではない。薙刀の師範だ!」
思わず吹き出しそうになった。やっぱ誰が見ても僧兵にしか見えないだろ。顔は見てなかったがたぶん奴の顔は一瞬で変わったろうな。しかし僧兵のおかげで一気に緊張感が抜けた。しかし考えてみればおかしな事だ。あの薙刀が刃入りだったのなら僧兵相手にはなぜ〝怖い〟とは感じなかったものか。やっぱコスプレ効果なんだろうか。
「じゃあ自己紹介だ。僕の名は
それを受け即座に美少女風イケメンは名乗り返してきた。
「わたくしの名は敷島一刀(しきしま・いっとう)」そこまで言うと今度はメンバー全員の顔を一人ずつ順々に、記憶に深く刻み込むかのように見ていく——そして言った。
「一廉の者をここまで集めるとは。そしてここにわたくしを入れて下さるとは冥利に尽きる」
確かに顔だけは一廉の者を集めた。しかしこの美少女ちゃんはそんな事は言っていないような気が激しくする……。そしてこれを言ったらどういう反応で戻って来るのかと、そう思ってしまい、定番のアレを口にしてみた。
「元の世界に執着しなければならないモノが無い者、そういう者ほど召還されやすいんだけど、君の場合もそう?」
「今ので解りました。わたくしが此処へ来たのは運命であると」
ヲイヲイヲイヲイ!
「
〝様〟ってなんだ? 〝神酒三郎様の志〟ってのはなんだ? イケメン集めてその中でリーダーやって目立とうとかそんな〝目的〟美少女ちゃんには今さら公言できねーっ!
「では。」と突然美少女ちゃんは話しを切り替えると「わたくしの実力を見て頂きましょう」と言ってすすと後ろに下がり召還され現れた辺りまで離れていった。そしてやおら抜刀の構え。
ひうっ! と抜いたと思ったらひゅひゅひゅと空気を切り裂く音。あっという間に抜き身は鞘の中に収まっていた。俺がやったら自分で自分の親指落としていたかも——
「ちょっと見せてくれ」と僧兵が勇敢にも美少女ちゃんの方へ近づいていく。「それは竹光ではないのか」と。
竹光ってのは竹でできた模造刀のことだよな。確かに言われてみればずいぶん軽そうだった。
「どうぞ」と言って美少女ちゃんは刀を僅かに鞘から抜き刀身を僧兵に見せている。僧兵が一歩後ずさりした。
「真剣だ……」僧兵は口にした。
うわーっ、本格的にヤベー奴召還しちゃった! もうこうなったら美少女ちゃん担当は僧兵に全て任せた。俺は候補とバカやり合っていた方が気が楽だ。
だが美少女ちゃんが再びこっちへつかつか寄ってくる。
「神酒三郎様、常にわたくしが護衛に付きます」
「日本刀持ったまま護衛しないで! 銃刀法違反になるから!」
隣で日本刀持っていられると怖いんだけど!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます