第42話 洗脳戦闘!!
「っ!ヴァン!!」
急いで教会を出て、ヴァンを探す。幸いヴァンはすぐに見つかった。そこは、例の廃墟の庭だった。そう、時間が巻き戻る前にイチイちゃんが殺されていた場所だ。そこで何事かをヴァンとイヴォンさんが話していた。ヴァンはかなり気が立っているようだ。
「ちびっ子!?俺を探しに来たのか!?もしかしてあの首飾りを持っているのか!?」
私の声に驚いた、というより焦った声を出したヴァンに首を傾げる。何をそんなに焦っているのだろうか?よく分からなかったが、私は首飾りをヴァンに見えるように差し出した。
「そう、ですけど‥‥。ヴァン、これ、魔導具なんです!!」
「馬鹿っ!それは分かっているから早く捨てろ!!」
「え、え‥‥?」
厳しいその声に困惑して私はたじろいでしまった。
これを、捨てるの‥‥?
「ほら、言ったじゃないですか。ねえ、そこの貴女。《少しその人を黙らせてくれるかしら》?ね?」
__あなたの復讐の邪魔なんでしょ?
イヴォンさんの言葉が、そう言っていた。言っている。言っている。『私の復讐の邪魔をしているのはヴァンだ』って言っている!言っている!!言っている!!!
その言葉がストンと腑に落ちた。神様から予言を与えられたかのような気分だ。ああ、そうか。私は、ヴァンを黙らせなきゃいけない。勇者への復讐を邪魔するのはコイツなんだ!!
「チッ!ちびっ子!その魔導具を捨てろ!」
「っ!やめて!!」
そう言って、私のネックレスを奪おうとする
何をするの?ヴァンは。これが、このネックレスが私に正しい道を教えてくれるの。邪魔しないで。
ああ、そうだ。黙らせなきゃ。ヴァンを黙らせなきゃいけない。これは神様のお言葉だから。
私はヴァンの髪の毛を瞬時に掴んで、抵抗するヴァンを床に叩き込んだ。今まで戦争に参加してきたのだ。このぐらいの武術はいとも簡単にできてしまう。
「ちびっ子!?っ!?おい!!」
「無駄ですよ。あなたの言葉は魔導具を持つ彼女には効きません。なんせ、今の彼女は欲の奴隷ですから。」
「チッ。こんな効力のある魔導具は聞いたことがねえ‥‥!」
「そう。私は神様に出会ったのです!あの方は私に力を教えてくださった。イチイに才能を奪われた私に!!救いの道を教えていただいたのです!!」
もう彼女たちが話す言葉が聞こえない。私に聞こえるのはヴァンに対してへの殴打音だけだった。
何を話しているかなんて興味はない。ただ、私はヴァンを黙らせなきゃいけない。
「やっぱり《モルフォ》と繋がってやがる‥‥。くっ。こうなったら‥‥、《狐火》!!《粉塵散華》!!」
私とヴァンの間で炎がいきなり爆発した。その青みを帯びた炎を咄嗟に避ける。その刹那でイヴォンさんが青白い炎に迫られていたらしい。彼女はヴァンを睨みつけたかと思うと、その険しい表情のまま私を見た。
「私を助けなさい!」
__私を助ければ、あなたは復讐の手がかりを掴めるのよ!
そのイヴォンさんの言葉に私は走って、彼女の代わりにその炎を受けた。
「あぐッ!!」
「ちびっ子!?てめえ!!」
「あはは!いい気味だわ!イチイもイチイに与するものも!!全部、全部、全部消えちゃえ!!」
イヴォンさんを咄嗟に庇ったはいいが、直接受けてしまった代償が大きすぎる。ヴァンの炎が服を燃やしている。熱い。皮膚が焼けている。痛い。火が他の場所に燃え移っている。苦しい。
助けて‥‥。嫌だ嫌だ嫌だ‥‥。怖いよ‥‥。
「あああっっ!!!」
「くそっ!炎よ消えろ!!み、水か!?‥‥くそ。水!おい、水が出ろ!!」
やめてよ。助けようとしないでよ。ヴァン。
「死ぬなよ!!」
「やめてよ!!」
「やめねえよ!ばーか!!俺にはな!お前がいないと、もう立ち直れねーんだよ‥‥。」
うるさい!聞きたくない!私は‥‥、私は‥‥!
そうこうしているうちに、ヴァンに水を掛けられて消火していってしまう。更には握りしめているネックレスを奪い取ろうとするのだ。
この首飾りがないと、駄目‥‥、なの!神様の言葉がないと‥‥。だから取り上げないで。
そう思って一生懸命振りほどこうとしているのに、なかなかうまく行かない。
「だから、目ぇ覚ませよ!俺の前から次々と消えようとするな!人族!!」
「あっ!」
なんてことだ。ネックレスが奪い取られてしまった。どうしよう、どうしよう‥‥。あれが、ない、と‥‥?
「‥‥ヴァン。わ、私‥‥。」
「‥‥やっと、起きたか。お姫様。」
姫扱いされた私は軽い一発をヴァンの頬に叩き込んでから立ち上がった。どうやらさっきまでのネックレスで意識を操られていたようである。なんてことだ。そのせいで犯人を取り逃してしまったらしい。
「私としたことが‥‥、魔導具の影響を配慮していませんでした。すみません。」
「いや、それは俺が警告しなかったせいっていうのもあるからいいんだが‥‥、俺をナチュラルに殴るのやめてくれないか?一応命の恩人なのだが。」
「そういえば妖術の影響は大丈夫ですか?」
「話を無理やり変えるなよ。はあ‥‥。ちょっと使いすぎたかもな。ったく、一族でもこんなに頻繁に術を使ったのは俺ぐらいだぞ?こほこほっ。」
咳き込んで血を流すヴァンに少しの罪悪感を持つ。私のせいで無駄に血を流させてしまった。
「そんなことより、‥‥こほっ、取り逃がしたみたいだな。」
「今すぐ追います。」
ヴァンの視線の先には先程までいたイヴォンさんの姿がなかった。私が騒いでいる間に逃げたのだろう。苦々しく思いながら私が駆け出そうとするのを、ヴァンが私の手首を抑えることで止められた。
「待て。まずはあの女の子のところに行ってこい。」
「イチイちゃんのことですか?」
「ああ、さっき話していた感じではあの子にものすごい嫌悪感を抱いていたみたいだからな。あのイチイっていう子を殺すまで死ななそうだ。なら、その子の近くで待機していたほうが捕まえやすいだろ。」
「確かに、そうですね。ですが、ヴァン。あなたがイヴァンさんを捕まえる義理はないのでは?」
少し思っていたことを尋ねると、ヴァンはいつもの笑いではなく薄っすらと微笑んだ。
「ちょいとばかし《モルフォ》っていう組織に興味があってな‥‥。それにお前がこの組織に殺されかけたわけだし借りも返したいし。ま、そういうわけだ。お前がやりたくなければ俺一人でやるから無理してする必要はないぞ?」
「いえ、私も彼女に少し借りがありますから。」
ヴァンのその言葉に首を振って、元北場所に戻ろうと踵を返した。だが、ヴァンがいつまでもついてこないため、振り返るとヴァンは手で穴を掘っていた。
「どうしたんですか?」
「ああ、すまん。このネックレス型の魔導具について調べたかったんだが何分、今は時間がないからとりあえず埋めとこうかなって。今持っているとエリースみたく大変なことになるかもしれないしな。先に行っていてくれ。」
「はあ、そうですか。」
まあ、ヴァンがしたいようにすればいいと思う。とりあえず私はイチイちゃんのもとに急がなければならない。
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