バレンタインなので両想いの義妹にチョコをねだってみた

kattern

義妹チョコ(ビター味)

 今日はバレンタインデー。

 勇み足で家に帰った僕はリビングで義妹の帰りを待っていた。


 毎年この時期は死んでいる僕だが、今年は違う。

 今年の僕には義妹がいる。


 しかもただの義妹じゃない。咲ちゃん(義妹の名前)は、義妹で僕のセフレで未来のお嫁さん。毎晩一緒にいちゃいちゃするようなイケない仲なのだ。


 チョコレート貰えないはずがない!


「えへへー、楽しみだなー、咲ちゃんのチョコレート」


 僕はソファーに座るとぱたぱたと脚を振った。


 どんなの用意してくれてるのかな。

 やっぱり定番のハート型チョコレートかな。


 もじもじと恥じらいながら後ろに隠していたのを、さっと僕に出してきて――。


『はい、お兄ちゃん。ハッピーバレンタインデー。あとでいっぱいキスでお返ししてね♪』


 とかかなぁ。


 いや、もしかすると僕に黙って手作りチョコ作ってるかも。

 友達の家で作ってきたのをサプライズで持って来たり。


 こう、タッパーに詰めたのをひとつ摘まんで、おそるおそる僕の唇に押し込んで、それから不安げな感じで上目遣いに聞いてくるんだ――。


『美味しい? 愛情いっぱい込めたけれど甘くなってるかな?』


 とか!


 美味しいに決まってるじゃないか!

 咲ちゃんが作ったものが美味しくない訳がない!

 お兄ちゃんに義妹が作った手料理はなんだってご馳走なのよ!


 いや、待てよ。

 意外に悪戯っ子な所があるからな咲ちゃんって。


『お兄ちゃん、そんなに義妹からチョコが欲しいの? だったらぁ、もっと誠心誠意込めてお願いしてくれないと――』


 とか言いながら、脚の指先にチョコレート挟んじゃったりなんかして。

 黒いタイツにぐじぐじと熱で溶けたチョコレートが染みて――。


 な、なんてフェチズムなんだ。(はぁはぁ)


 いや、待て、あのエッチな咲ちゃんが脚チョコ(謎)なんかで妥協するはずがない。いつだって僕の義妹は、兄のスケベ心を軽く上回ってエッチなんだ。


 彼女ならきっと。


『お♡に♡い♡ちゃん。義妹チョコフォンデュだよ♡ さぁ、好きな所にチョコをつけて食べてね……♡』


 とか。


『やだ、お兄ちゃんってばそこはショートケーキじゃないんだよ?』


 なんて。


『あっ、あっ、お兄ちゃん! ダメだよ、そこはチョコレート入ってないよ!』


 くらい――あるかもしれない!


「ダメだ! バレンタインデーなのにホワイトデーになってしまう!」


 僕は立ち上がって叫んだ。

 家のリビングで棒立ちになって叫んだ。

 いろんな意味で棒立ちだった。


 エッチなJK義妹と同棲して、毎晩いちゃいちゃな生活をしてるとツレーわ。体力と精力がもたねーわ。バレンタインが月曜日とかホント困るわ。


 明日の学校サボっちゃおうかな!


 その時、玄関の方で鍵が開く音がした――。


「たーだーいまー! つーかれーたよー、おにーちゃーん!」


 のそのそとリビングに入ってきたのは僕の大きくて小さなシスター。

 身長180㎝台のモデル体型。黒くて艶のあるショートヘアー。男も女も黄色い悲鳴をあげる王子様フェイス。


 ちょっと貧乳なのが玉に傷。

 おっきなお尻でそれをカバー。


 えちえちクール系JKサキュバスな僕の妹の咲ちゃんだ。


 けど、ちょっといつもの元気がない。

 どうしたんだろう。


「あ、咲ちゃんお帰り……って、どうしたのその大きな荷物」


 肩に学生鞄をぶら下げて、咲ちゃんは胸の前に大きな紙袋を抱えている。

 僕が声をかけるとぐしっとその顔が涙顔に変わった。


「お兄ちゃぁん。バレンタイン、もうやだぁ」


「うぇっ⁉」


 どういうこと⁉

 やだって、もしかして僕にチョコをあげたくないってこと⁉


 戸惑う僕の横にとぼとぼと歩いてくると咲ちゃんが隣に腰掛ける。

 ソファー前のローテーブルに紙袋をおけば、ばさりとその中から水色の箱がこぼれおちた。それは銀色のリボンがあしらわれたチョコレート――本命っぽい奴。

 よく見ると紙袋の中にはそんな箱がぎっしりと詰まっていた。


 これはまさか――。


 唖然とする僕の横でくすんと咲ちゃんが鼻を鳴らす。


「ほら、私ってこんなだから、学校で王子さま扱いじゃない?」


「あ、うん。そうだね」


 僕の義妹は高身長でイケメン(そして貧乳)。

 なので、咲ちゃんは通っている学校で王子さまキャラをしている。


「だからね、毎年バレンタインになると、学校の女の子からあり得ない量のチョコを送られるの。今年は、これまでで一番多くって」


「うわぁ、大変だね」


「……バレンタインなんて滅べばいいのに」


 ぶすうと不細工顔で義妹は頬を膨らませた。

 これはなんというかお気の毒だ。


 万年モテないチョコゼロ男の僕にはちょっと羨ましいけれど。


 って、ちょっと待って。


「それじゃ咲ちゃん、もしかしてチョコの準備とか?」


「バレンタインデーって、チョコを貰う日でしょ?」


「え?」


「え?」


 きょとんとしてからすぐに口の前に手を当てる。

 やらかしたって顔で彼女はすぐに「あっ!」と声を漏らした。


 そんな義妹もサイコーに可愛い。

 けど、今はやめてそれは楽しみにしていた僕に効く。


 はい。


 今年もチョコレートございません!

 バレンタイン終了! 滅びろ! 絶滅しろ世のバレンタインカップル!


 僕は力なく肩を落とした。

 真っ白に燃え尽きて、一足早くホワイトデーだった。


 燃え尽きちまったぜ――。


「ごめんお兄ちゃん! すっかり忘れてた! やーん、どうしよう!」


「……いいんだよ咲ちゃん。僕は大丈夫。お兄ちゃん、こういうの馴れてるから」


「大丈夫な顔じゃないよね! えっと……」


 そうだと何かを閃いた咲ちゃん。

 ローテーブルに置いた紙袋から、本命チョコをひとつ取り出すと彼女はその包装をちょっと乱暴に解いた。


 せっかく贈ってくれた人に悪い。

 というか、それを僕に渡す気だろうか。


 妹のお下がりがファーストバレンタインチョコとか諸行無常が過ぎるよ……。


 なんて思っていると、咲ちゃんがその可愛らしい口の中にトリュフをぽとり。

 もにゅもにゅと口を愛らしく動かして咀嚼しはじめた。


 えっと。


 まさか、これって――。


「ふぁぃ、おひーひゃん! めひあーがれ!」


 瞼を瞑ったまま咲ちゃんが僕の方を向いた。


 瑞々しい苺色の唇が鮮やかな茶色にコーティングされている。それだけでも美味しそうだというのに、義妹は――さらにそれを上下に開く。


 義妹の愛と熱で溶けた甘いチョコレートが桃色の穴の中で揺らめく。

 白い歯に載ったアーモンドの欠片。

 怪しくうねるピンクの舌先。


 むせ返るような甘い義妹の吐息。


 身体を芯から揺らすような熱っぽい痺れが、僕の身体をすぐに駆け巡った。


「なにしてるのさ咲ちゃん」


「んー、ははふー!」


「いやいや、ダメだってこんなハレンチなバレンタイン」


「んごーっ!」


 戸惑っているうちに僕の唇が甘くコーティングされる。

 口の中に煮えたぎるような愛情を丁寧に注ぎ込まれた僕は、茫然自失のまま義妹のその行為を受け入れた――。


 待ってよ。

 これじゃ、まるで逆だ。


「ぷはぁっ!」


「……さ、咲ちゃん」


「……やっぱり、バレンタインデーは私が食べる日みたい」

 

 兄チョコレートを食べ終えて満足したのだろう、僕の愛しい義妹はにっと唇の端をつり上げた。その動きに釣られて口から零れたチョコレートを親指で拭う。


「……食べる?」


 悩ましげに咲ちゃんが首をかしげる。

 彼女は僕の唇の端にチョコで濡れた親指を突き出したのだった。


「ハッピーバレンタイン、お兄ちゃん」


「……ハッピーバレンタイン」


 はじめてのバレンタインチョコは――甘く苦く義妹の味がした。


【了】


◇ ◇ ◇ ◇


本作は、以下の作品のスピンオフです。

こんな感じのいちゃあまNTRスケベ小説なのでよかったらどうぞー。


○両想いだった女の子が義妹になったんだが同棲したら毎晩のように僕を誘惑するようになった件について。そしていつの間にか親友に寝取られてしまった件について。

https://kakuyomu.jp/works/16816927859951817331


◇ ◇ ◇ ◇


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