第5話 マホイエローとマホグリーン

 女の子みたいな男の子のことをなんて言うんだっけ。

 お隣のお姉さんが好きなキャラクターがそういうキャラで、おとこのこって言うんだよって言っていたんだけど。

 おとこのこの最後の文字を、子どもの子じゃなくて……そうだ、むすめにするって言ってたんだ。


 男の娘、ミュリエラと共に手続き待ちをしながら話していると、寮の話になった。


「え? 二人とも寮に入るの?」

「うん、俺たちの村遠いからさ。宿屋にずっと泊まったり、家を借りたりするより安いだろ?」

「だったら、ボクの家に住みなよ。ここからはちょっと歩くけど、王都に一軒家あるんだ」

「いいのか⁉︎」

「いいよー。本当はオジさんと住む予定だったんだけど、アクセサリー仕入れに行った先で運命の人を見つけたから移住するとか言い出しちゃってさ。ボク一人じゃ持て余すし、かといって人に貸すのもな〜って思ってたところだったから」

「それすげー嬉しい! シュルツもいいよな?」

「ああ、節約するに越したことはないからな」


 そんなことを話していると、シュルツの背後から黄色い塊が飛び出してきた。


「それ、俺も噛ませてくれ」


 サラリとした金髪の男が、目を爛々と輝かせて俺たちの間に入ってくる。

 ミュリエラの前まで来たかと思うと、右手を自然に手に取り、その手の甲に口付け……ようとして止まった。


「お前、男か」

「なぁんだ、面白くないの。キスしてくれたら一緒に暮らすの考えてもいいと思ってたのに」

「ホントか⁉︎」


 言うなりチュッと手の甲に口付け、満面の笑顔でミュリエラの前に立つ。


「オレ、エヴァンス。よろしく頼むぜ」


 突然の出来事に混乱しつつも、エヴァンスがマホイエローになってくれる可能性を考えて属性を尋ねた。


「オレ? 雷だけど」

「やったー! 雷最高! シュルツ、ミュリエラ、彼は“マホイエロー”だ!」

「は? まほいえろぉって何?」


 自己紹介をしながらマホレンジャーについて話すと、初めは興味なさそうに聞いていたエヴァンスの目が真剣になっていく。

 やはりマホレンジャーの魅力は別世界の人間にも届くものなのだ。

 だが、エヴァンスが興味を持ったのはヒーローそのものについてではなかった。


「めっちゃ金儲けの匂いがする……!」


 エヴァンスはカレーではなく、カネが好きなのだった。

 ちょっとガッカリしたけど、自分から仲間になりたいと言ってくれる人間はありがたい。

 しかも髪の毛も瞳も金色で、見た目が完璧だった。


 残すところはグリーンだが、果たして緑の髪と瞳の色を持った木属性魔法の使い手なんているのだろうか。


「ミュリエラの家って、あと一人住むスペースある?」

「あるよ〜」

「じゃあ、木属性の魔法使いで髪の毛も瞳の色も緑の男の子を仲間にしたいんだけど……」


 寮に入る手続きをする前に誘えれば、無駄な手続きをしなくて済むだろうと思っての発言だったが、部屋の中を見回してみても緑の髪の人は見当たらない。

 エヴァンスが列に並んでいてくれるというので、少し室内を歩いてみることにした。


 ぐるりと室内を一周してみても、緑の髪の人間はおらず、少しだけ緑がかって見えなくもないかな?ってくらいに暗い髪色の男の人は、シュルツと同じ氷属性の魔法使いだった。

 しょんぼりしながらエヴァンスの元に戻ろうと歩いていると、ミュリエラが突然俺の腕を掴んだ。


「カイル! あれ見て!」


 ミュリエラが指差した先には、ツタや木の枝が絡まったみたいな大きな塊が転がっていた。


「なにアレ……」

「たぶん、木属性の魔法なんだと思うよ、濃い魔素感じるもん」


 俺たちは塊に近付き、様子を伺ってみる。

 つんつんと指でつついても、何の反応もない。

 中を覗こうとしてみたが、真っ暗で何も見えなかった。

 耳を近付けると、寝息のようなものが聞こえてくる。


「寝てるのかも」

「入学手続きもせずにか?」


 ごんごんと強めに叩いてみても、反応はなかった。


「ねぇ、これ燃やしてみてよ」

「えっ⁉︎」

「だって叩いても起きないんでしょ? そしたら燃やすしかなくない?」

「いや……そうかもだけど……」

「安心しろ、適当なところで消してやる」

「シュルツまで……分かった! やるよ!」


 俺は塊に手のひらを添え、小さな炎を出した。

 ツタたちが結構湿っていたのか、なかなか燃えなかったが、少しすると煙が立ち上ってくる。


「換気はまかせて〜」


 ミュリエラがその煙を部屋の外に流してくれたので、ギリギリ問題にはなっていないみたいだった。

 塊の上部が燃え尽きると、中には男の子が丸くなって眠っていた。

 緑の髪の毛は天然パーマなのか、くるくると自由に飛び跳ねている。


「ん……なに……? 朝……?」

「おはよーん、ねぇキミって目の色何色ー?」

「目……? みどり……」

「だって! やったねカイル!」

「や、やったー?」


 いいのか、コイツで?


 もぞもぞと身体を動かしたあと、目を擦りながらゆっくり上半身を起こした彼は、不思議そうな顔で俺たちを見た。

 糸目みたいな細さだったから、その目が緑かどうかは分からなかった。


「キミもボクの家に一緒に住まない? タダでいいよ」

「木……ある?」

「木? 中庭に一本生えてるけど」

「住む。ぼくオリバー。よろしく」

「よろしく〜! えーと、オリバーは……何だっけ? まほぐ……」

「”マホグリーン”」

「まほぐりぃんだから! ボクはまほぴんく!」

「……何の話?」


 エヴァンスの元に戻りながらマホレンジャーの話をすると、よく分からないけど別にいいよとのお返事をいただけた。

 やる気は皆無だが、そういうキャラがいてもいいだろう。


 ともあれ、なんと入学前にして五人の仲間が揃ったのだった。

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