第2話 シュルツさまさま

 魔法学院。

 それは王都にある魔法使い養成機関の名称である。

 世界中に生息している魔物たちや、それを束ねる魔王の存在。

 自らの身を、家族を、仲間を、国を護るために強くなりたいと願う者たち。

 王国としても守護兵団の魔法レベルが上がることは喜ばしいわけで。

 成人の儀を終えた後、生まれ故郷に帰らずに魔法の腕を磨きたい者たちに向けて、魔法学院の扉は開かれているのである。


 とはいえ、全員が全員入学できるわけではない。

 入学テストに合格しなければ、入学は認められないのだ。

 テストの結果によってクラス分けがなされ、特待生ともなれば学費も免除されるらしい。


「カイルくん、お金持ってるの? あたし、帰りの食料の分しかお金持ってないから貸せないよ?」

「え? ここでちょっと”アルバイト”すればいいのかなって思ってたんだけど」

「また知らない単語喋ってるし……入学テストにもお金かかるみたいだけど?」

「げ、俺いま金なんてねーよ」


 入学テストにお金がかかるとは予想外だった。

 学費は王都で何かしらして稼げばいいと思ってたし……まさか詰んだ?

 冷や汗をかく俺を見て、シュルツが盛大な溜息を吐き、俺の前に麻袋を掲げた。


「そんなことだろうと思って、用意してあるよ。お前と俺の入学テスト代」

「シュ、シュルツ様ーーー!」

「さすがぁ……」


 麻袋の中を確認すると、入学テスト代だけとは思えない金額が入っていて、俺は首を傾げた。


「宿代だってかかるだろ。入学できれば寮に入れるらしいが」

「あ、そっか」

「お前って、ホント馬鹿だな」

「うっ」


 言い返せない。

 それにしても、一体いつの間にこんな金を用意したんだろう。

 こいつ、実は俺みたいに前世持ちな上に、元々の人生おじいちゃんになるまで生ききった人なんじゃないか?


「キリナは一人で帰れるか? 行きは何事もなかったから大丈夫だとは思うが……心配ならここで人を雇っていってもいい」

「あ、大丈夫だよ! 道は覚えてるし、周り土ばっかりだったから襲われても馬ごと土で囲んじゃうくらいはできそう」


 キリナが地面に手をかざしてムググ……と力を込めると、足元の土がむくむくと立ち上がって壁のようになった。


「練習したら、壁を作るスピードも上がりそう」

「おお! すげーなキリナ」

「ありがと。村に帰って二人のこと言っておけばいい?」

「ああ、頼む。俺は一応言ってあるが」

「分かった!」


 そう言うと、キリナは俺たちに笑顔で手を振って、預けていた馬の方へと去っていった。

 俺たちはさっそく魔法学院まで行ってみることにする。


 すぐに入学テストが受けられるのかと思ったら、今日の受付は終了していたらしく、すでに門は閉じていた。

 村では見ることのない巨大な鉄の門。

 その向こうにはまるでお城みたいな建物が。

 魔法学院でこれだけ豪華なのだとすると、本物のお城はどれだけすごいのだろう。


 王都とかんたんに言っているが、とんでもなく広い。

 鑑定のために開かれた広場や魔法学院は王都の南の入り口からほど近くに位置しているのだが、王様たちの暮らす王城はもっとずっと北の方にあるのだという。

 そっちの方角を見ると、確かに何か高い建物が見えはするのだけど、遠すぎてきちんとは見えない。ぼやぼやだ。


 まぁ、しばらくは王都にいるだろうし、近くで見る機会もあるかもしれない。

 その時を楽しみにしていよう。


 俺たちは近くの宿に行くことにした。

 この時期だからなのか宿屋はすごく混んでいて、何ヶ所か周ってようやく一部屋の空きを見つけることができたのだった。


 一階部分が食堂になっている宿屋で、宿泊費に夕食・朝食代が入っていたのでありがたくいただくことにする。

 豆のスープに、鶏肉と野菜の炒め物、パンはどれも美味しかった。

 もう酒が飲めるのだと気付いたが、酔っ払った結果入学テストに合格できなかったりしたら悲しいのでやめておいた。

 もっと落ち着いた時に一緒に飲んでみようとシュルツと約束する。


 次の日、誰に起こされるでもなく目が覚めた。

 ベッドが一つしかなかったから譲り合いの話し合いを繰り広げた結果、そこそこの大きさがあったベッドに二人で寝たおかげで、目覚めて早々イケメンの寝顔である。

 うーん、見た目がいい。


 普段は井戸の水を温めて体を拭くくらいなんだけど、王都にはなんと公衆浴場があるらしい。

 今日は入学テストで行けないが、今度行ってみたい、めっちゃ。

 お風呂がないってことがこんなにつらいと思ってなかったんだよな。

 前世の頃はお風呂が嫌で仕方なかったのに。


 宿屋のおかみさんにお湯の入ったタライをもらい、部屋に帰るとシュルツも目を覚ましていた。

 二人で身体を拭いている途中、ほとんど水になってしまったから魔法で温め直そうとしてシュルツに止められた。


「タライ壊したら弁償だぞ」

「あ、はい」


 入学テストで本気出して何が壊れても弁償とかないもんな、確かに。

 俺たちは食堂で朝ご飯(昨日とは違うスープとパンだった)を食べ、再び魔法学院に向かった。


 昨日は閉じられていた門が開き、入り口は大勢の人でごった返していた。

 入学テストに合格できなくても、次の年には再びテストを受けることができるらしく、俺たちよりもどうみても年上の人とかも結構いた。


 使える属性ごとにテスト内容が異なるらしく、それぞれの属性ごとに係の人が案内をしていた。

 俺たちは頷きあい、炎と氷のテストを受けに行くのだった。

 

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