第25話 ヒカリ3
そうして私は涙を流しながらいつの間にか眠っていたみたい。マーリンが部屋に入ってくる音で目が覚めた。
「ヒカリ様、おはようございます」
「マーリン、おはよう」
マーリンは淡々と朝の準備をしている。初夜だというのにいつものように朝の準備、マーリンは知っているの?
「マーリン。昨日、オディロン様とは何も無かったわ」
「存知ております。ヒカリ様は結婚式も終えられたので今後、公務もなく後宮でお過ごし頂くように申しつかっております」
私はマーリンが朝食を運ぶために部屋から出ようとしている所を引き止める。
「マーリン!マーリンは知っているの?オディロンの事。何であんなにオディロンは怒っているの?これ以上人生を狂わせないで欲しいって言われたの」
マーリンは私に向き直り、言うべきか迷っている様子。
「話して頂戴。何があってもちゃんと受け止めるから」
「… 殿下は、オディロン殿下の女神の絆はヒカリ様ではありません。幼少期に殿下の絆の相手が見つかり、そのご令嬢とすぐさま婚約し、長年仲睦まじく過ごしておりました。
ご令嬢は既に妃教育を終えて、殿下との結婚式は半年に迫っておりました。ヒカリ様が勝手に女神に願われ、全てを台無しにしたのです。
ヒカリ様がすぐに結婚式を挙げることが出来たのも全てそのご令嬢との結婚式のために準備されたものだったのです」
「う、そ…」
「嘘ではございません」
マーリンは頭を下げて部屋を出て行く。まさか、私は邪魔者だった、の?
嘘よ!
物語では聖女は望まれて異世界に来て、望まれて王子様と結婚するの。テンプレなんだから。信じたく無い。
でも、マーリンの話が本当だったらどうしよう。相手の女にマジで恨まれてるよね。怖い。
そうこうしている間にマーリンは朝食を運んできた。
「マーリン、女神の絆が切れたその子はどうなるの?」
「… 女神の絆はこの世界では皆持っていると言われています。絆が切れた場合、新たに誰とも絆を結ぶ事は出来ません。過去に絆と出会い、不慮の事故で相手を亡くした方の話では半身をもぎ取られるような痛みを伴い、後を追うようにすぐに亡くなったそうです。
絆を断たれたご令嬢は何かしらの痛みを伴っているのではないでしょうか」
「それってもうすぐ死ぬって事?」
「ただ、伴侶が亡くなったわけではありませんから亡くなるかは分かりません」
半身をもがれる痛み…。
絆を結んだ今なら分かる気がする。私はその令嬢に酷い事をしていたのね。謝りたい。謝って許される事じゃないと分かっていても。
「マーリン、その子は誰かしら?会って謝れる?」
「… それは無理だと思われます」
「なんで?」
「ヒカリ様はこの後宮から出る事は出来ません。それに今更謝られたくないと思いますよ」
「… そう、よね。あまりに都合が良すぎるわよね。これからは気持ちを入れ替えて立派な王妃になるわ」
「… 」
マーリンは無表情になる。
そして朝食の準備を終えたマーリンは無言で私が食事をしているのをジッと眺めていた。
それからの毎日、先生だけは今も変わらずに来てくれる。何かあった時のためなのだと思うけれど、私は真面目に勉強するしかない。
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