第12話 共闘
「……このジャケットの代金は覚えておくからな?」
翔は言いながら、落ちていた呪符を数枚拾い上げた。
「忘れたな」
焔は鼻で笑いながらも、刀を構えた。
そのまま、だっ、と焔は走り出した。
翔は何も言わない。
手にした呪符を、改めてしっかりと握りしめた。
シュルシュルと、無数の樹の根が、焔に向けて迫る。
焔はそれらに向けて、刀を一閃させた。
焔に迫っていた樹の根が、次々と切り飛ばされ、ぼと、ぼと、と地面の上に落ちる。だが、すぐにまた別の根が伸びてきて、焔の行く手を遮ろうとした。
ぼうっ、と音がする。
炎の弾が、巨大な根に向けて飛んで行く。
それは、翔が投げつけた呪符が変じたものだ、それらが焔の火炎弾と同じ様に、樹の根を燃やし、さらに他の根にその炎が延焼していく。
それでも数本の根がさらに伸びる、だが焔が、そこに火炎弾を叩きつけた。
爆発音と、樹の根が燃える音、そして……
辺りに広がる、焦げた臭い。
沢山の樹の根が、びた、びた、と、次々と地面の上に倒れる。
焔は黙って、『妖怪』の本体の前。
大きな桜の樹にしか見えない『そいつ』の前に立つ。
その横に、翔も立つ、巨大な樹の『妖怪』は、それでも、二人に『近づくな』とでも言う様に、幹から伸びている枝を動かしていた。
「枝は、僕が何とかしよう」
翔が、手に持った呪符をひらひらとさせながら言う。
「良いのか? あいつは、お前が始末を付けたい相手、なんだろう?」
焔は肩を竦めて言う。
「……構わないよ、それにこの場で、奴の本体に直接ダメージを与えられるのは、僕より君の方が良さそうだからね」
翔が言う。
「そうか」
焔は、軽く笑って刀を構える。
「それじゃあ、行くぜ」
翔が言い、そして。
びゅっ、と翔の右手が動き、数枚の呪符が投げつけられる。
投げつけられた呪符は、翔の手を離れた瞬間に、眩い輝きと共に、金色に輝くブーメランのような形の光の刃へと変じる。
陰陽五行の理の一つ、『金』の力を秘めた呪符だ、『火』の呪符では、燃え上がった炎が、焔の身体を燃やしてしまいかねない、だからこそこうして別な呪符を投げつけた。
投げつけられた呪符から産まれた刃が、『妖怪』の樹の枝を次々と切り落としていく。
ぼとん、ぼとん、と。
沢山の樹の根が、焔の周囲に落ちる。だが焔は気にした様子も無く、『妖怪』の本体に肉迫する。
焔は黙ったままで、そいつに向けて……
刀を、一閃させた。
ぎし……
ぎし……
ぎし……
と。
樹が倒れる様な音が、辺りに響き……
次いで……
大きな樹が、ゆっくりと傾いて行く。
そして……
ずううん……
大きな音が響いて。
巨大な桜の樹が、その場に倒れた。
「……」
翔は何も言わない。
焔も、黙って倒れた樹の幹を見ていた。
一分。
二分。
三分。
何も起こらない。
だけど……
焔も翔も、刀と呪符を、それぞれ下ろそうとはしなかった。
何か……
何か、違和感がある。
こいつは今、確かに倒れている。見た目は樹だけれど、人間であれば、首を切り落とされたも同然だ。それなのに……
それなのに、まだ……
まだ、『消えていない』。
『妖力』が、消えていないのだ。
「……」
焔は黙って、刀の柄を握りしめていた。
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