第35話 白翼落とし

「試運転だな」


 ブランカを落とす手段を調整するためにラウンド卿から時間をもらった。とりあえず10日というところらしい。


 修練場も貸切で使わせてくれるとは流石に領主と言わざるを得ない。


「どうする気でしゅ? 考えはあるでしゅ?」

「もちろんある。まずは試しだ」


 取り出したのは【星】だ。これの使い方は分かるが、どれくらいのものかはまだ未知数だ。


「オーダー、エネルギーを譲渡せよ」


 【星】が淡く光った。


「ぐ……!?」


熱が流れ込んでくる感覚、いや、これは熱というか痛みだ。


「いだだだだだだ!? 中止だ!!」


 全身が痛む……!? なんだこれ。


「大丈夫でしゅ!?」

「あ、ああ。問題ない」


 おそらくこれは俺の問題だ。【星】から供給される力に俺の身体が耐えられない。痛みで動きが鈍っては意味がない。前は体力が空っぽのところに入れたから問題なかったみたいだな。


となれば取れる手段は2つ。


①力を別の媒体に流す


②俺の身体を強くする


①も流した先の強度が足りなければ壊れてしまうだろう。だが、問題はない。


「オーダー、アルカにエネルギーを譲渡せよ」


 アルカの潜在能力は桁外れだ。俺が一時的にでも耐えられるくらいのものなら問題なく耐えるはずだ。


「これは……」

「でっかくなったでしゅ」

「アルカが育った、のか?」


 普通の武器とはかけ離れたアルカならこんな事もあるのかもしれない。体感の重さがそのままに大剣に見えるほどの大きさになってしまった。


 とりあえず備え付けの鎧人形に向かって振り下ろす。


 当たった瞬間、アルカが爆ぜた。


「く……」


 踏ん張ってなんとか耐えた。凄まじい風が発生したが鎧人形はどうなった?


「跡形もないな」


 恐らく切り込んだ瞬間に溜め込んだ力を炸裂させたんだろうが、これが人間だったらと思うと恐ろしい。傷口から入り込んだ風が内側から破壊するだろう。


 あまりにも凄惨な状況を生み出すから対人戦ではよっぽどの事がない限りは封印だろうな。


「こうなるのか……」


 次は②だ。俺の身体を強化する。具体的に言えば。


「紫炎を使えばいけるか」

「それはなんでしゅ」

「そういえば使ってた間は気を失ってたな。体内と体外の鬼火を掛け合わせてできるのがこの紫炎だ」

「また傷を作ってるでしゅ……」

「あ、あんまり使わないようにするから」

「乱用したら怒るでしゅ」


 紫炎を使っている間はいつもより動きが良い。具体的にどこまでのものかは分からないが。それでも少しくらいは許容量をあげてくれるはずだ。


「オーダー、エネルギーを譲渡せよ」

 

 流れ込む感覚、さっきよりはマシだ。多少痛むが問題ないレベル。これなら。


「なんだ、目が、熱い、ような」


 なぜか熱が集中していくような感じが。あ、これ、ダメなやつかもしれない。


「ぐおぉおおおお!?」


 目から力が迸っているような感じだ。


「目から炎が出てるでしゅ、ぷっ……なんか面白いでしゅ……ぷぷっ」

「目から火が!?」


 どうなってるんだ、見たいような見たくないような。


「ぶふっ、こっち見ないで欲しいでしゅ」

「くそう、そんなに面白いのか。鏡だ、鏡はないか」

「生憎ないでしゅ。さっさと引っ込めるでしゅ」


 力の許容量は増えたが増えた分を留めておくのが難しい。集中しやすい視覚に集まってしまったようだな。


 ゆっくりと、熱を全身に回して行くようにコントロールしなくては。


「お、収まったでしゅ」

「本当か?」

「今度は口から火が出たでしゅ」

「なんだって」


 なかなか難しいな。これじゃあ穴という穴から紫炎が。


 いや、それで良いのか。思いっきり燃え上がらせてしまうのも手か。


「うぉおおおおおおおお!!!」

「ああ!? 炎が!?」

「上手く、いったか」

「いや、今度は頭から一直線でしゅ」

「難しいなこれ!!」


 そのあと何度も試して見たが、なんともならなかった。


 練習が足りないようだ。


「つまり、アルカに力を集中させる方向で決定したわけだ」

「残念、威力と射程が足りないでしゅ。どんなに誘導してもブランカが剣の間合いに入る事はないでしゅ」

「射程? アルカの射程は時間さえあれば視界の先までだぞ」

「そんな馬鹿なこと、あるわけ……」


 アルカを振りながら伸ばして見せる。一振りするごとに長くなる刀身は修練場を埋め尽くす勢いだ。


「ええ……なんでしゅこれ」

「アルカだ、神樹鋼からできているから普通の武器じゃないぞ」

「その、重さとか」

「俺が持って振れるくらいだぞ」

「どうなってるでしゅ!?」

「さあな、分からん。そういうものだと思ってくれ」

「そういうものでしゅ……?」


 理解できないという顔だな。俺も説明できないからこう言うしかないんだ。


「じゃあ、射程は良いとして。威力はどうするでしゅ? さっきくらいじゃとてもとても足りないでしゅ」

「抜かりなしだ。この【星】はそもそも力を貯める容器だ。ならば、今よりもっとずっと貯めておいて一気に解放すれば問題はない。感覚的なものもあるが今の容量から20倍くらいは入りそうなんだ」

「にじゅ……!? それはすごいでしゅ。どうやって貯めるでしゅ?」

「とりあえず【星】に干渉すれば良いらしい。俺としてはあの滝に2日くらいに撃たれて貰えば良いと思っている」

「今の20倍、それなら行けそうでしゅ!! 早く試すでしゅ!!!」

「ああ、早速持っていこう」


 パチリ。


 弾ける音。


 聞き逃すはずのない。


 小さい雷が弾ける音。


「楽しそうだねシンちゃん」


 そこにはデーレ姉さんが居た。

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