第41話 関羽の忠義 Ⅳ

 「お願いです、命だけは助けてください!」


 彼は俺に命乞いをする。


 劉備の一件を目撃してしまった彼、司馬懿は

一切他言しないのを条件に助けてくれと言ってきた。


 (まぁ、言わないのであればいいか)


 と俺は安易に考えて彼を解放したが、曹操配下の下っ端である

司馬懿は出世を企んでこのことを曹操に報告してしまう。


 「・・・なに、風魯が劉備を逃がしたって・・・?」


 報告を受けた曹操はいつもなら怒号を発するところなので、

彼の重臣らもそれに備えて耳をふさぎ構えていたが・・・


 「・・・う、ううむ。風魯に任せた俺が馬鹿であった」


 「・・・・・・?」


 今日はなぜか曹操が怒らない。

そばに控える重臣らも聞こえるべき怒号が聞こえてこないので、

鼓膜が破れたかと心配するほどであった。


 「風魯は相当、劉備が好きだと見受けられるな」


 「は、はぁ」


 その場の者たちは曹操の真意を探りかねていたが、

いずれにせよ俺は助かったのである。



 さて一方の劉備だが、手紙に書いた通り豫州の汝南へと辿り着き

関羽の到着を待った。

 そして、遂に再会の時を迎える。


 「あ、兄者・・・・・・っ!!!」


 「おお、関羽!!」


 二人はその瞬間に抱き合う。

関羽は男泣きし、劉備ももらい泣きをする。


 決して何かを話すというわけではないが、

二人の喜びを表すのに言葉など必要なかった。


 「関羽、よくぞここまで来てくれた!」


 「兄者こそ、よくぞご無事で!」


 と二人が会話をしだすと、横の草むらから物音が。


 「・・・・・・!」


 その男はサプライズを考えているのか頭を隠して近づいてくるが、

その巨体は伸びきった草でも覆いきれずお尻が飛び出している。


 「頭隠して尻隠さずか・・・、いや隠せずだな。張飛」


 「ばれました?兄者っ!」


 ここで噂を聞きつけてやってきた張飛も加わり、

桃園の誓いの面々がここに集結したのである。


 「しかし、張飛はどうやって生き延びていたか」


 関羽の問いに張飛は、


 「それより、関羽こそ曹操のもとで私腹を肥やしていたのでは

ないのだろうな!?」


 と話を関羽の経緯に移す。


 「いやいや、お腹は以前より引き締まったぞ、ほれ」


 関羽は張飛の手を自らのお腹の上に持ってくる。


 「確かに、疑ったわしが馬鹿だった」


 「ハハハ、おぬしはもともと馬鹿だからな」


 「な、なにを!?」


 というように二人の掛け合いも復活したわけだが、

さて今後どこを拠点にしたものか。


 「兄者、一先ずわしの城に来てください」


 「古い城ですがもてなす準備はできてまっせ」


 張飛が言うわしの城とはいったい何だ、と思いながら付いていくと

何やら昔のお城が姿を見せる。


 「こ、これは・・・」


 劉備が見上げる山の山頂付近には廃城の遺構を繕ってできたお城が。


 「実はわしは山賊に紛れていたのですが、この自慢の腕で

賊の主将にまでなりまして。それでこの廃城を拠点に活動しておりました」


 こうして劉備一行はその城に入り、宴を満喫。

さらに、一行はその周囲を探索しているとある男に出会った。


 「そ、そなたは・・・!」


 「おお!劉備殿、お久しぶりです」


 その男の名を趙雲、字は子龍。

聞くところによれば公孫瓚に仕えていたがその滅亡後は浪人になっていたとか。


 公孫瓚にいたときに面識のある二人はこれまでの経緯をしばらく話していたが、


 「劉備殿、一つお願いがあります」


 と趙雲が急に改まるので、劉備も何事かと顔を引き締める。


 「この趙雲、劉備殿に仕えたく存じます!」


 「・・・!」


 趙雲の申し入れに驚きを隠せない劉備だが、

断る理由などない。


 「わかった、こちらこそよろしく頼む」


 こうして桃園の三人に趙雲などを加えて、

いよいよ彼らも再出発なのである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る