風車と瞳の奥



 カラカラカラ


 軽く回る風車の音がかすかに聞こえる部屋の中。

 無音オシロスコープがともこの心臓を感知していた。

 ともこが投薬治療を受けてから3日。

 外見は完全に修復され、今日の午後にCTでどれくらい修復されたのかを確認する。


 同意書を書くためにけんせいが来ており、さくらも一緒にお見舞いに来ている。


 包帯も取れたともこの手を擦りながら、穏やかな顔で眠るともこをじっと見つめる。

 午前の面会可能時間が終わり、一度けんせいとさくらで昼食を取りに出ていった後。


 ふと、ともこの目が開く。

 寝そべったまま眼球だけをキョロキョロ動かし、周囲を確認するとムクリと起き上がる。

 黒髪をサラサラと撫で、頬をムニムニと動かし、サイドテーブルに置いてあった風車を手に取ると息を吹きかけ回す。


 カラカラカラ


 その様子をみて笑うと、立ち上がろうとして足がないことに気がつく。

 ムッと不満げな顔をするとナースコールを探して見つけ、押す。

 呼び出しの音の後



「どうされました?」



 看護師の声が響く。



「ん、んええ、あ…」



 どうしようか何を伝えればいいか。

 少し考えてともこは告げた。



「みぇ…め、が、さ、さささ…め…ました。」


「…?はぁ。」


「め、が…が!さ、めま、し…しした!」


「ええっと、おはようございます?」


「お!はようご、ざ、っす!」


「それで、どうされました?」


「ぇと、き、ききき!て!く、だ、さい!」


「えっと、しばらくお待ちいただけますか?」


「ん!」


「はぁい、失礼します。」



 3時間後



 ともこのことを普通のVIPルーム利用患者と思っていた看護士がいつものように業務をしたおかげで、目覚めから面会可能時間までともこはゆったりくつろいでいた。

 サービスの消化に良いお茶を出され、昼食は野菜と穀物を薄味のシチューに溶けるまで煮込んだスープシチュー。

 デザートにはレモン汁のかけられたスモモが出された。


 貴重品入れからスマホを出してもらうと、充電しながら漫画を読む。

 そんな優雅な時間が過ぎ、午後の面会可能時間になると、さくらとけんせいが何も知らずに入室してきた。


「ともちゃん、入るね」


「姉さんお邪魔しますね」


「ん!」


 スポーツ系の漫画がいいところまでいっていたともこは入口に目もくれずに返事をした。


「ん?」


「え?」


「( ,,`・ω・´)ン?」


「とも、ちゃん?」


「姉さん?」


「ん!おは、うよう!」


 呆然としていた二人は次第に我に返ると、大粒の涙を流しながらともこによる。

 さくらからは飛びつくような抱擁があり、けんせいはともこの手を握り、額に押し当てて静かに涙を流していた。


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