5

 さてさて、年月が過ぎるのは早いもので、ワシらは八歳になった。今日も今日とて魔法の授業(という名の訓練)中である。


 ある程度まで魔法を操れるようになれば教師役も終わりかと思いきや、ミネルの向上心は底なしだったらしく……。ミネル、ミネル父、ミネル母三人からの強い希望により、ワシは未だにミネルの魔法教師をしている。


 と言っても、最近はもっぱら近所にある森に行って──ああ、ちゃんとミネル父に許可は貰っている──お散歩しているのじゃが。


「お、またベアが出てきたぞ。」

「美味しいやつ! 私が殺るっ!」


 今はといえば、森の中を散歩していたところにベア……あの、ええと……そう! ビッグベアだ。それに遭遇した。


 ワシが家を追い出された日に出会ったあのビッグベア。冒険者ギルドの職員のエンジーやグリンによるとベアはAランクの魔物らしいが、今のワシらにとっては脅威ではない。ベアに出会った瞬間、ワシらの目はキラキラと輝く。お腹も空いてきたような気にもなってくる。


「~~~、~~~、生麦生米生卵、ぽん!」


 ミネルが風魔法を使ってベアの首を刎ねる。


「お肉、お肉っ!」


 森でお散歩し始めた頃のミネルは魔物の殺傷に抵抗があったようで時間も精神力も多量に使っていたが、最近ではそれに慣れたらしく『お肉お肉』と連呼しながら狩りに行く程じゃ。


 そもそもどうやらミネルの前世生きていた国では魔物なんて一匹もおらず、普通にのほほんと過ごしていたら動物を狩ることなどほぼないに等しいらしい。それ故に最初は一匹倒すのにも苦労していたからな。


 そう考えるとすごい成長したな。実に逞しい。


「レタアちゃん、私の成長度合いすごいでしょ!」

「そうじゃな。」


 ミネルはこの二年間で魔法を安定して出力出来るようになってきたし、そろそろレベル二に移行して行くのも良いかもしれん。


 まあ、ミネルが望むなら、じゃが。


「……ミネル。」

「ん?」


 この前教えた収納魔法を使ってベアを仕舞うミネルに向かってワシは話しかける。


「ミネルはこれ以上を望むか?」

「……というと?」


「今のミネルはレベル二も扱えそうな所まで来ている。だからそうなるようにワシが教えることも可能じゃが、しかしそうすると前世のワシラールルの二の舞にならないかと心配で……な。」


 ワシは魔法の才能がありすぎたからこそ、あんな森の中に引きこもっていたのじゃ。ミネルもそうなる可能性がなきにしもあらず。


 だからこそ、ここでステップアップなどせずにレベル一で終わらせることも出来る。


 さて、ミネルはどんな答えを出す……?


「レタアちゃん、私は……」

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