に
買われてからすぐに分かったのだけど、瞳ちゃんは結構な泣き虫だった。それでも僕をぎゅーっと抱きしめると笑顔になってくれて、その笑顔が僕はとても大好きだった。
そんな瞳ちゃんは成長して、確か……高校生だ。それになった。その時にはもう瞳ちゃんは僕を連れて外に出なくなったから、僕は毎日瞳ちゃんの部屋で座っていた。それでも、毎日瞳ちゃんの笑顔を見られたから、この時も幸せだった。
「テディー、見て見て! 高校の制服だよ!」
そう言って僕の目の前で瞳ちゃんはくるくる回った。僕は声を出すことも出来ない普通のテディベアだったから、可愛いの一言も伝えられなかったけれども。それでも心の中では『可愛いよ!』って何度も叫んだ。
でね、高校に入って一年が過ぎた辺りからかな、瞳ちゃんの笑顔が減ってきたんだ。
相変わらず僕は動けないし喋れない普通のテディベアだったから『どうしたの?』って聞くことも出来なかった。暗い表情の瞳ちゃんをただただ見ているしか出来なくて、僕はとても遣る瀬無かった。
瞳ちゃんは泣きながら僕の前で何度か呟いていた。『辛い』『味方がいない』『怖い』と。
そんな泣き虫な瞳ちゃんに『大丈夫だよ、僕が味方だよ』と言えれば良かった。それでも僕は動くことも喋ることも出来ないただのテディベア。やっぱり瞳ちゃんに伝えることは出来なかった。
この時に僕が動けたら、喋れたら。そんなタラレバを言っても……ね。
泣いてばかりいた瞳ちゃんはそれからしばらくして、ぱったりと部屋に戻ってこなくなった。
今の僕がこの時に戻れたら。今でも一日に何度も何度も考えてしまう。後悔してもしきれないよ。
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