第13話 オンラインゲーム5

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 一年前。


(レモン)【え? オフ会ですか……うむむ、どうしよっかな】


 それは突然の誘いだった。そろそろまた誘われると予想がついていたのだが、行くわけにはいかない。当然だ。


 そこで断る時の文言も複数用意していた。だが、ここ数ヶ月間で数回の誘いがあり、それを全て断ってきている。万策尽きた感が否めない。


 ある中級者ネカマさんは『彼氏がやきもち焼きだから』という理由で押し通している。


 また別の初心者ネカマさんは『オフ会は行けない。だってお酒飲めない』などと言ってしまい、誘い主にすかさず『ああ、一応最初はお酒無しの会にするから問題ないよ』と返されてしまい、言葉が無くなってしまっていた。


 だがここで登場するネカマは違った。ライバルネカマのモエちゃんだ。奴は驚いたことにこう言ったのだ。


(モエ)【うそぉぉいくいく。すんっごい楽しみぃ】


 俺はもちろん絶句した。その文字を見た時は、もしやとも思った。だが、奴は複数の布石をすでに打ってあり、行かないで済むように計らっていたのだった。


 その話題から数ヶ月前にチャット欄に表示された文字、


(モエ)【頭が痛い……今日はもうログアウトするぅ】


 更に数週間前、


(モエ)【ダメだぁ……インフルエンザっぽい】


 奴はそう言ってログアウトしたが、俺は奴のサブ垢〈現在のキャラクターとは別に使っているキャラクターの呼び名〉を知っている。モエがログアウトした直後、そのサブ垢はログインする。いつものことだ。


 そしてその後も奴はのらりくらりとかわす。まるで会社を休んだり、早退する時の理由のように。

 一体、奴は何人の親戚を殺したのか。そして何種類の病気を乗り越えて来たのか定かではない。


 とは言え、俺のやり方も奴に匹敵するほどの行為なのも事実。

 そしてそんなことをあれこれ考えている時に、チャット欄を見ていた全レベルのネカマが震える言葉が男性プレイヤーから吐き出される。


(男性プレイヤー)【来れないのならせめてボイスチャットで話そうよ】


 放たれた強烈な大砲を目視した数名のネカマちゃん達が、右往左往して慌てふためいているのが自身の胸の内を知るよりも容易く見える。


 特に上級者ネカマになればなるほど、大砲の命中率は格段に上がる。

 一人二人と蜘蛛の子を散らすようにワラワラとログアウトして行く。


 モエちゃん〝必殺パソコン電源引っこ抜き〟を華麗に披露して強制ログアウト。


 雲行きの怪しい状況に追いやられた俺はというと、その日、家に来ていた彼女の瑠璃に土下座で頼んで〝変わり身ボイチャの術〟を敢行した。


 変わり身ボイチャの術は諸刃の剣。ゲーム内での立ち位置を明白なものにして貰える反面、現実の自身の汚点になり、この先、彼女が向けてくれるかもしれない敬意と言ったものを受ける権利をドブに捨てたようなものなのであった。


 そしてそれからのネカマライフは〝蛇の道は蛇〟という言葉の下、楽しいネカマライフとは縁遠いものとなって行った。


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