僕にとって、それはほとんど日課だった。


 家族が寝静まるのを待ってから、足音を殺して階段をおりる。


 台所に行って、シンク下の収納から包丁を取り出す。


 ゆっくりと深呼吸して、今日こそ終わらせると手首に押しあてる。


 だけど、そこから刃を引けたことは一度もない。


 明日も明後日も、同じことのくりかえしだろう。


 何も変わらないし、何も変えられない。


 臆病者は、絶望から逃れられない。

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