<69> 会食の成果
女子会と言う名の会食から解放された時には、香織はヘロヘロになっていた。
(こんな女子会なんて、二度とご免だ・・・)
きっと、第一課の女性三人だけだったらとても楽しい女子会になっただろう。
だが秘書の二人のお陰で散々だった。
第一課の女性も最初の方は、秘書室にいる二人から陽一の情報を面白そうに聞いていたが、終いには飽きてきた。
自然と、世間の若い女性たちに漏れず、恋バナに話題が流れて行く。
しかし、彼氏持ちは香織と第一課の一人の女性の二人だけ。
もう一人は現在攻略中で、勝機有りのようだ。
だが、陽一に本気モードの秘書二人は当然いない。
それが、その場の雰囲気を変えてしまった。
傍から見ると、第一課の三人より、秘書室の二人の方がビジュアル的に上だ。
男が10人いたら、10人とも秘書室の二人の方が美人と答えるだろう。
その二人を差し置いて、浮かれた話がしづらくなった。
その上、秘書室二人は世間の普通の男には興味ないとばかりに、再び陽一の話に戻っていく。
人の恋人も、自分の男でもない陽一と比較する有様だ。
香織に至っては、陽一を陽一と比べられてもどうにもならない。
適当に自分の男はそこら辺の底辺の男だと言っておいた。
店を出て解散した後、秘書二人を見送りながら、
「今度は絶対三人で飲もうね・・・」
そう言って、三人並んでゲッソリしながら駅に向かって歩いた。
女子会の不調が回復しないうちに、マンションに辿り着いた。
ぼーっとエレベーターを待っていると、丁度、陽一が帰ってきた。
「お前、今日遅かったんだな。残業だったのか?」
「あ・・・、お疲れ様です・・・。おかえりなさいまし・・・」
「なに疲れてんだよ?」
「あなたのせいで、疲労困憊です・・・」
「は?」
「陽一さんを陽一で比べられたら何て答えればいいですかね・・・」
「何言ってんだ?酔ってるのか?俺がいないところで、酒飲むなって言ったろ?」
陽一が怪訝な顔して香織を見て、額を指でチョンと押した。
そこへエレベーターが降りてきたので、二人並んで乗り込んだ。
☆
「へえ、そりゃ、災難だったな」
香織の話を聞いて、陽一は可笑しそうに笑うと、リビングのソファに背広を放った。
「笑い事じゃないですよ、こっちは寿命が縮まりましたよ・・・」
香織は恨めしそうに陽一を見た。
そんな香織をなだめる様に、
「ま、それで機嫌直せ」
陽一はテーブルに置いた紙袋を指差した。
その紙袋をよく見ると高級果物店のマークが付いている。
香織は目を輝かせた。
「どうしたんですか?これ!」
紙袋から箱を取り出すと、中身はゼリーのようだ。
「会食の手土産。先方さんから頂いた」
香織はゼリーの入った箱に頬擦りすると、
「これで少し寿命が回復しそうです。ありがとうございます」
ふふふと目を細めた。
そして早速、箱を開けると、
「陽一さんも一緒に食べましょうよ。いまコーヒー淹れますね~」
そいう言って鼻歌交じりにキッチンへ向かった。
「現金な奴」
陽一は笑うと、ソファに座って、香織が戻ってくるのを待った。
☆
翌日、会長室では陽一と会食を同席した専務の伊東が、正則に会食の報告をしていた。
「お陰様で、終始、和やかに終えることができましたよ。先方は社長も同席されておりましたから、私なんぞでは分不相応と思ったのですけど」
「急に頼んで申し訳なかったね」
「いえいえ、とんでもございません!それにしても、副社長はお若いのに大したものですね。とても堂々として、まったく、お恥ずかしながら、私の方が助けられましたよ!」
伊東は昨日の会食の手ごたえに満足していたようで、にこやかに報告続ける。
「金田社長にもご満足いただけたようで、安堵しております。なんせ、ここ最近、なかなか一席設ける機会がなかったものですから」
「そうか。それは良かった」
正則はそう言うと、暫く仕事の話をした後、伊東を下がらせた。
独りになった正則は軽く溜息を付いた。
結果として、昨日の自分の会食も、仕事面では良い感触で終わったのだった。
内々で示し合わせていた、ご令嬢の見合いがなくなり、先方の会長も渋い顔をしていたが、それも最初のうちだけだった。
息子と孫がしっかりとカバーしてくれたおかげで、最終的には穏やかな会食になったのだ。
陽一の方も首尾上々ならば、呼び出したところで、文句の付けようがない。
「まったく、可愛げのない奴だ」
正則は苦々しく呟いた。
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