始まりの大地と終末の都市 Initium Terra et Finis Urbs
司之々
第一章 大断崖を超えて
1.どうなさるおつもりですの?
人類の祖先が誕生した大地、フラガナ大陸の南に、
大陸中央部が火山活動で
その、まさに
男は三十代ほど、筋骨たくましい
「アーリーヤ王女、しっかりつかまっていろ」
「あの、ベ、ベルグさま? どうなさるおつもりですの?」
アーリーヤと呼ばれた女は、十代半ばの少女だった。黒い肌に派手な色彩の民族衣装を
「飛び降りる」
ベルグと呼ばれた男が、平然と答えた。アーリーヤの、少し厚めの唇が引きつった。
「いえ、その! ベルグさまには、確かにお世話になっておりますが! 恥ずかしながら、
言葉の最後が、絶叫になった。
ベルグがアーリーヤを小脇に抱えたまま、
その、一瞬前まで二人が立っていた場所に、大小無数の
飛び散った岩石を、さらに粉々に
やがて落下速度が追撃速度を上回り、攻防の衝撃で断崖の壁面からも離れて、二人は天地のまっただ中に取り残された。
ただ、暴力的な風圧と風切り音が、落下速度を忘れさせてはくれなかった。
「あのぉぉおおおっ! も、もぉ一度、おうかがいいたしますがぁぁあああっ! どうなさるおつもりですのぉぉおおおっっ?」
アーリーヤが声をふりしぼる。ベルグは変わらず平然と、
「大丈夫だ。アーリーヤ王女の体重は、自分の半分以下と推測している」
「なにを、おっしゃられているのか……
「投げ上げる」
「は……はあっ?」
「着地の直前に投げ上げて、落下速度を
アーリーヤが
現実的には、同じ速度で落下する二つの物体が、垂直方向に
「ベルグさま……ベルグさまは、その! お
「妻にも言われる」
ベルグがアーリーヤを抱え直して、
軽快な破裂音がして、
「冗談のつもりだった」
「さ……最低でしたわ……っ!」
「
「まだ底がございましたのっ?」
自由落下よりは破格の好条件でも、かなりの速度で、平野部のまばらな森が急接近する。目を閉じたアーリーヤを胸に包むようにして、ベルグが木々に突っ込んだ。
ぐるぐると目が回り、猛烈な衝突を繰り返して、最後に何度も地面を
「生きてるって、素晴らしいですわ……」
「同意しよう」
ベルグが、こともなげに立ち上がり、胸の中のアーリーヤを解放する。
「だが、状況は良くない」
「……底の底ですわね」
「
ベルグが、海岸線の方角を指し示した。
「この先の港町インパネイラは、ヴェルナスタ共和国の
「ヴェ、ヴェル……なんですの?」
「ヴェルナスタ共和国、北方のオルレア大陸の西内海にある海洋交易国家だ。国の本土以外に、このフラガナ大陸、大海を超えたアルティカ大陸の海岸線にも、飛び石のように港町を領有して交易の中継拠点にしている」
ベルグが、アーリーヤの目をまっすぐに見る。
「市街に入れば、
「ベルグさまは……」
「足を骨折した。ここで時間をかせぐ」
ベルグの右足が、言われてみれば少し曲がっている。ベルグ自身はそうとも見えない無表情で、腰に
縛りつけた
「ベルグさま……わたくしのことを、そこまで……」
「否定しよう。妻が怒る」
分厚い肩越しに、ベルグが初めて無表情を崩して、
「自分は異国の特務部隊に所属し、任務で行動している。気にする必要はない、アーリーヤ王女……幸運を祈る」
アーリーヤは
そして唇を結んで一礼し、ベルグが指し示した港町インパネイラの方へ、走り出した。
平野部の森は、
ベルグは、すぐに木々に紛れて遠ざかる足音を、見送るように聞いていた。そして一呼吸を置いて、無造作に
金属音が響いて、ベルグの足元に、一本の
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