出会い14

(選択肢が全然選択肢になってないんですけど!!)


 輝は男の勢いに最初こそ怯みかけていたものの、次第にむくむくと苛立ちが湧き上がってきた。


(つぅか、見ず知らずの人間にいきなり怒鳴られなきゃなんない程、ここは入ってはいけない場所だったのか……?)


 神社の私有地とはいえ、まともな参拝客もいなく、とっくに廃れたようなものなんだから、ちょっと遊びで忍び込むくらい大目に見てくれったっていいじゃないか。


 ついそんなしょうもない言い訳が頭の中で首をもたげた。


「……さっきまで」

「?」

「さっきまで別の連れと神社に来てたんだけど、そいつらとははぐれたんだ」


 けれども、男の気迫に負けた輝は、大人しく質問に答えることにした。


「ここに来たのもたまたまで、悪気はなかったんだんだよ」

「……」

「だから、決して何か壊そうとかしたわけじゃねぇから安心してくれ。ほんと、邪魔して悪かったな。すぐ消えるからぁ……っ?!」


 その証明として今すぐこの場を立ち去ろうと背中を向けた途端、急に輝の右手首に激痛が走った。


 見れば、男にしては白く滑らかそうな手の甲に筋が浮かぶくらいの強い力で掴まれている。


「ちょ、痛ぇんだけど! 何だよ?!」

「……」


 理解が及ばないことに、何故か男は無言を貫いたままだ。


 けれども、その配下では先程の黒い人影に首を掴まれた時以上の力で握り締められて、ミシミシと骨が不穏な音を鳴らした。


「ほんと、マジ、ギブギブギブ!!」


 これ以上は真っ二つになりかねない。身の危険を感じた輝は惜しげもなく悲鳴を上げた。


(何なんだよ、もう! 俺が何したってんだよ!!)


 呪いの神社にやって来たら、和真達とはぐれるわ、変な影に襲われるわ。


 今度は助けられたと思ったら、男に現在進行形で絡まれるわで踏んだり蹴ったりだ。


(俺は男に手を握られる趣味なんて一切持ってねぇんだけど、もしかして……もしかして、これこそが呪いなのか?!)


 そろそろ容量キャパシティも限界だ。他人に聞かれれば、鼻で笑われてしまうような馬鹿げた感想しか浮かばない。


「……お前は」


 男がようやく腕の力を緩め、形の良いその薄い唇を開いた時、彼の背後にあるものが見えた。


「おわぁ、ストップ! ストップ!」

「……あ?」

「後ろ! 後ろ見ろって」


 良いところで自分の話を邪魔された男がドスを効かせてくるが、正直輝にはそれ所ではなかった。


 だって今まさに、赤黒くうねうねとした触手が目の前の獲物を刈り取らんと迫っていたのだから。

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