出会い11
「大丈夫」
「……え?」
「心配しないで。俺が何とかするんで」
未曾有の危機に直面した脳味噌は盛大に混乱しているが、女子の前で男として情けない姿なんか見せられない。
そんな見栄と意地で表面上では冷静を装うことに何とか成功した輝は、その次に負傷した少女とおどろおどろしい人影を交互に見比べた。
そして幾分か逡巡した後、覚悟を決めた表情でつばを飲み込むと、いきなり明後日の方向に猛スピードで走り始めた。
『?!』
輝の予想だにしない行動に、少女だけでなく影までもが暫し呆気に取られて輝の遠ざかる姿を眺めていた。
しかし、輝は一人と一体の戸惑いなど、お構いなしに風を切ってぐんぐん走っていく。
少女の居る木陰から数十メートル先といったくらいか。
ふいに立ち止まると、おもむろに振り返って口元に手を当て大声で叫んだ。
「おーい! こっちだ! こっち! 俺の声が聞こえてんなら、ここまで来やがれ! 化け物!」
それまでぽかんと呆けたように立ち尽くしていた影は、輝の放った大声に弾かれるように反応して、のろのろとターゲットの照準への軌道修正を始めた。
(……きた!)
無事、奴の視界から少女を切り離すことに成功した輝はその場で小さくガッツポーズを取ると、そのまま影を引き連れて再び全速力で駆け出した。
輝の思惑通り、おぞましい影は地面を這うようにして後方を追い掛けてきている。
輝は何度も木の根や小石に躓きそうになったが、舗装のされていない凸凹した地面にはただ無心に足を動かすしかなかった。
一方で何とかこの状況を打破すべく、考えろ。考えろと、努めて冷静に脳を働かせた。
(言葉が分かるなんて、ほぼ人間と同じじゃん!)
これまで黒い影を見たことは何度もある。
しかし、黒い影から明確な意思を持って攻撃されたことは今まで一度もなかった。
それが、まさか腕のようなものまで造りだして、あんな風に攻撃してくるとは。
様子を見ようと背後をちらっと盗み見て、輝は驚愕した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます