MoUse/chU/MoUth
一章
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海岸に女の子が流れ着いたのは、島の桜が満開に咲き誇る頃のことだった。
その女の子の名前はイルカという。それ以外のことは何も覚えていなかった。
彼女を見つけたのは、僕の友達だ。ミナトというその女の子は浜辺を散策して、漂着物を集めるのが趣味だった。それがまさか人間の女の子を拾うことになるとは思いもしなかっただろう。
「最初は死んでいるのかと思った」後にミナトはそう証言する。「わたしが連想したのは、オフィーリアの死に顔だった。海水で濡れた髪やほっぺたに桜の花びらが張りついて、それが名高い絵画みたいにきれいだったの。でも、わたしは現実の水死体がそんなにきれいなものじゃないってことも知ってた。こんなに美しいものが死んでいるわけがない。そう思ったの」
ミナトはそこから先のことをあまり話そうとしない。どうせ、島中の人間が知っているっていうのにね。
「どうしてわたしに人工呼吸をしてくれたことを言わないんだ?」
イルカが不思議そうに訊く。すると、ミナトは顔を真っ赤に染めて俯いてしまう。
「ミナトはわたしの命の恩人だ」イルカは胸を張った。「そのことをもっと誇りにしてもいいのに」
「それはほら、ミナトちゃんが謙虚なんだよ」
ミオがそんなフォローをはさむ。
「なるほど」とイルカ。「やはりミナトはわたしの最高の友達だ」
イルカがそう言って笑うと、ミナトはますます赤くなった。
イルカは太陽のような女の子だった。彼女が微笑むだけで周りの空気がパッと明るくなる。彼女の保護者役を買って出たミナトの両親にもよく気に入られていた。
きっと、その存在が眩しすぎたのだろう。神様は彼女を地上から取り上げてしまった。
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