〈10〉【託されし下準備】
『──ねぇ〜え〜! やっぱり、引き返しましょうよ〜! 【蒼】の人〜!』
何者かによって既に切り拓かれた跡が残る。
森の一本道。
そんな見るからに怪しげな道を、なぞるように直進していたのは……。
二人の若き男女達である。
「コレ、絶対に【灰】の人達が通った道じゃなくて、熊の通り道か何かですよ〜……!! 鉢合わせちゃったら、どうする気なんですか〜!」
加えて、後方より鳴り止まない文句ばかりを飛ばしているのは、金色の髪を持つ煩わしい少女。
通称──【黄】の少女であった模様。
頭の片側にて垂らされた、金髪の尻尾。
ソレに合わせてブンブンと上下に振り回される、どこかで拾った短い木の枝。
そして、明らかに不機嫌そうな表情と文句の声。
どうやら、先頭を歩く人物に対して。
再三による進路変更を提案していた最中であるらしい。
すると、そのタイミングで。
ようやく、一向に立ち止まる気配がない先頭の人物が、欠伸ついでに顔だけを振り向かせてくれたようだ──
『──まぁまぁ。落ち着きなよ、【黄】色ガール』
背後の少女に放たれたのは……。
端正な顔立ちが作り出す、甘い笑顔。
その通り。
彼女の前を歩いていた人物は……。
空色の髪を持つ、チャラついた青年。
通称──【蒼】の青年である。
……そう、実は彼ら。
つい先程までは、ここから真逆にある森の別方向側の探索を担当していたのだが……。
どういう訳か。
現在は、【紅】の少年達が探索しているであろう方角にまで、その足を伸ばしていたらしい。
差し詰め、一足先に集合地点である例の小川へと帰還したは良いモノの……。
次第に暇を持て余した青年が、持ち前の放浪癖を再発させてしまったのであろう。
いつまで探索から帰還しない少年達を探しに行くという口実で、再び少女ごと捜索の旅に踏み出したという訳だ。
「仮に勘違いだったとしても、それはそれで熊肉ゲットって話じゃん?」
「……え、なんで熊に勝てる前提で話を進めてるんですか? 私達、手ぶらですよ?」
イマイチ考えの読めない青年の言動に対して。
冷や汗混じりの表情ばかりを返している、【黄】の少女。
「まっ、こんだけ長いこと帰らないってことは……、何か面白いモノを見つけましたって証拠でしょ? 流石に行かない手は無いよねー」
どうやら、青年の軽い歩みは……。
もはや誰にも止められないらしい。
彼は、お得意の冗談で有耶無耶にした後に。
また再び、前を向いて鼻歌を奏で始めてしまったようだ。
……が、しかし──
「ん?」
──意外にも意外。
なんと、少女が諦めの沈黙を済ませた直後に。
突然、【蒼】の青年がその歩みをピタリと停止させてくる。
……もしや、何か見つけたのであろうか?
「どうしたんですか、急に立ち止まって……? あっ! もしかして、やっと戻る気になってくれました?」
進行方向にある空を細い目で見上げながらも。
その場で暫く、「ん〜……」と首を傾げ続ける、青年。
すると、彼は次第に。
隣に並んできた少女に対して。
このような台詞をぶつけてきた模様──
「……ねぇ、【黄】色ガール。ちょっと、しゃがんでみてくれない?」
「え? しゃがむ?」
なので、少女は少し不審に思いつつも……。
とりあえず、彼の指示通りに。
その場でちょこんと両膝を畳んでみることに。
「こ、……こうですか?」
……。
加えて、彼女が膝を曲げ切ってから。
……約数秒。
まもなく、低い位置に置かれた少女のすぐ真上にて、正体不明の飛来物が現れる……──
「ぎゃぁぁぁー!?」
──その通り。
なんと、先程まで少女が置いていた頭付近……。
そこに『謎の物体』が、勢いよく過ぎ去っていったのだ。
「え!? えっ!? 何っ!? なんですか、今のっ!?」
唐突に襲ってきた謎の飛来物に対して。
思わずその場で腰を抜かしてしまう、【黄】の少女。
尻餅をつく彼女は、慌てて自身の真後ろを確認してみると……。
そこには──『一本の細長い槍のようなモノ』が、背後の太い木にて深く抉り込むように突き刺さっていた様子である。
「わぁーー!!!?? や、槍だぁー!?」
無論のこと。
その場で酷く慌てふためく、【黄】の少女。
「きっとコレ、この辺りに住んでる森の民達からの警告ですよ!? ……ほら、【蒼】の人っ!! 早く、さっきの川まで引き返しましょっ!?」
しかし、そんな風に狼狽えている少女とは異なり、隣にいる青年の方はケラケラと愉快そうな笑いを見せていたらしい。
「森の民……、ねぇ? ソレにしては、えらく上の方から飛んできた気もするけど」
キョロキョロと辺りを見渡した後に。
木に刺さるその棒状の凶器へと近づいてゆく、【蒼】の青年。
どうやら、早くも。
その凶器をジロジロと目視のみで調べ始めていたらしい。
「……ん、何コレ? 本当に槍……?」
そう、それは……。
槍のように伸びる、鉄製の細い棒であった。
螺旋状に伸びる長い棒状の凶器は、木に抉り込む先端部分を鋭く尖らせていた模様。
極限にまで殺傷能力が高められている為……。
おそらくは、武器の類いであることに違いはなさそうであるが……。
槍にしては妙に細く、矢にしては少し長すぎる気もする。
「なんか、ヤケに細くて使い辛そうな槍だね。……もしかして、投擲用に作られた特殊な手槍か何かだったり?」
しかし、中でも気になる部分は……。
やはり、柄の部分に連結して巻きつけられていた、この『異なる色を持つ三枚の布切れ』となるだろう。
その通り。
その凶器には──【紅】、【紫】、【灰】の色を持つ、三色の布片が意味深に装着されていたのである。
「んー……?」
その布の存在に気がつくや否や。
付近で頭を抱え込んでいる【黄】の少女に手招きをしてみせる、【蒼】の青年。
「ねぇ、【黄】色ガール。……この棒に巻かれてる布切れなんだけどさぁ。なんか、どっかで見た組み合わせじゃない?」
「……へ? ぬ、布きれ……、ですか?」
すると、青年の発言が気になったのか。
次第に【黄】の少女自身も、その場を立ち上がって、木から生えるその凶器を恐る恐ると覗き込み始めたらしい。
「あ、……これ、【紫】の人達のだ!! 私、同じやつ持ってますよ!」
そう、少女がポケットから取り出したのは……。
自身の鼻血を付着させた、【紫】色の布切れ。
すなわち、川で手当てしてくれた際に【紫】の乙女が渡していた、彼女の腰布の一部だ。
槍に巻きつけられたモノと同様の材質か見比べている様子だが……。
おそらく、間違いはないだろう。
「そっかー! 私達、色違いの同じ腰布を身につけてますもんね! 間違いないです! 【紫】の人達のですよ、コレ!」
「ふーん? じゃあやっぱり、飛んできた方角に【紫】レディ達がいる訳だ〜」
……しかし、何故。
自身達を襲ってきた凶器などに、こんなモノが揃って巻きつけられているのだろうか?
「あれ? ちょっと待って下さい……」
……。
暫く、その場で顔を見合わせながらも。
それぞれで頭を巡らせる、二人。
すると、次第に。
彼らは、このような結論に至る──
「……え? もしかして、コレ……。私達以外の全員、森の民にいかれちゃったパターンですか?」
「あーあ、一人残らず森の裁きを受けたか〜。まぁ、どんな環境でも弱肉強食は基本だし。負ける方が悪いって話だよねー?」
──おそらく、直前の要らぬ憶測が、彼らの考えに余計な介入を見せてしまったのであろう。
自身達以外の三人は既に、何者かの手によって全滅したものだと、勝手に決めつけているらしい。
当然、そのような考えに至った少女は。
次第に滝のような汗を流し始めた模様。
「ん? どうしたの、【黄】色ガール? 急に黙り込んじゃって」
すると、暫しの沈黙の後に。
汗を流す少女の様子を見て何かを察する、青年。
ようやく自身達を取り巻く状況に気づいたのか。
ポンと手鎚を打ちながらも、呑気な口調でこう口にしてくる。
「あ、そっか! ……てことは、僕達もこんなことしてる場合じゃないじゃん!」
「そ、そうですよね!! ……よし、【灰】の人達の事は死ぬほど残念ですけど、そろそろ私達も行きましょうか!」
……という訳で、向き合う少女と青年は。
互いに揃って、その場から踵を返すことにしたらしい。
その通り。
方角を変えて。
各々で森の中を無言で直進し始めたのだ。
……。
しかし、『互いの方を向き合ってた彼ら』が。
そんなことをすれば……。
言わずもがな。
距離を遠ざけ合うのみ。
無論、途中で隣に誰もいない事に気づいてしまった【黄】の少女は、慌ててその場を振り返ってくる。
「……って!? 違う違うっ!! そっちじゃないでしょ、【蒼】の人!!」
意気揚々と更に森の奥の方に突撃してゆく青年の肩を、必死で追いかけてガシッと掴む、少女。
「いやいやいや!? どう考えても、今のは満場一致で引き返す流れでしょ!! どこ行く気なんですか!?」
すると、次の瞬間。
目の前にいる彼の口から、驚きの一言が……──
「いや、普通にやり返しに行こうかと思って……」
──当たり前だと言わんばかりの表情で。
平然とそのように返してくる、【蒼】の青年。
当然、そんな彼の言葉を耳にした少女は。
その場で目をパチパチとさせるばかり。
「いやー、他はどうでも良いけど、デカチチ美女の【紫】レディがいるなら話は別でしょ。……あんだけ美人だったら、ワンチャン一人だけ生け捕りコースかもしんないしね」
そして、ついには……。
この奥に危険な存在があると踏まえた上で……。
青年は、森の更に奥深くへと指を示してくる始末である。
「ほら、【紫】レディがエロいことになる前に、早く行くよー」
「えぇ……。もはや、この人の方が一番怖いんですけど……」
青年の言動がまさしく本気であるとを見て。
次第に乾いた笑いを吐き出してしまう、【黄】の少女。
……が、しかし。
そんな二人の両極端な会話は……──
「……!」
「……ひっ!? な、何!?」
──まもなく、向かい側から訪れる謎の気配によって、終わりを見せることとなる。
そう、彼らが眺めている進行方向にて。
突然、とある異変が起き始めたのだ。
風もなくザワザワと揺らぐ、前方の木々。
雪崩のようにドタドタと響く、不穏な足音。
青年が目指していた進行方向より。
謎の大きな存在が、こちらに差し迫る。
「わ、わわっ!? 何の音ですかっ!?」
「……おっ? さては、向こうからのお出ましかな?」
とてつもなく、大きな足音。
一体、何人の兵を出撃させたのであろうか……?
恐怖を感じたのか。
ブルブルと震えながら青年の背中に隠れようとする、少女。
「ひ、ひぃぃ……、もうお終いです……!」
すると、そのような泣き言を呟く少女の存在に気がついた青年は、自身の背中側にある木に向かって、ビシッと親指を差してあげたらしい。
「そんなに怖いなら、木の上にでも隠れとけばいいじゃん」
「あっ、そっか!? その手がありました!!」
【蒼】の助言をすぐに採用したのか。
槍が刺さったままの木に走った少女は、一目散にその木へとよじ登り始めたようだ。
「あれ? ……ていうか普通に、【蒼】の人も一緒に隠れて、二人でこの場をやり過ごせばいいだけなんじゃ……?」
「え? やだよ、そんなの」
槍を足場にしながら木の枝をよじ登ってゆく少女を見届けたのちに、遅れて自身も木の前へと移動を済ませる、青年。
すると、そんな青年は。
木に刺さる槍へ片手を伸ばすや否や。
横に薙ぐように、ソレを引き抜いたらしい。
「な、なんで……? 危険ってわかってるのに……。どうして、わざわざそんなことするんですか!?」
まるで手遊びをするようかのように。
クルクルとその武器を手に這わせながらも。
青年は答える。
「なんでって、そんなの決まってるじゃん──」
加えて、彼の左手に収められし槍が睨むは……。
迫り狂う、前方の気配。
そう、例え。
それが熊になろうと……。
森に住む猟奇的な人間達になろうと……。
それ以外の存在になろうと……。
『──……危険以上の暇つぶしなんて、この世に存在しないからだよ』
危険を与えてくれる存在であるのならば。
青年にとっては、平等に大歓迎であるのだ。
*
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