〈19〉【灰の創造】
「──な、なんだ……。あの建物は……?」
少年達が見上げた先は……。
防壁の中央地点。
その通り。
少し目を離した隙に、『謎の巨大な家屋』が出現していたのである。
見たところ。
面積は丁度、昨日に崩れた『神殿』とほぼ同等の広さであろうか?
流石に、高さはその半分ほどまでにしか満たさない様子であるが……。
それでも、二階建てほどの大きさはある。
「う、嘘……。さっきまで、あそこには何も無かったよね……!?」
しかも、よく見ると……。
先程まで存在していたハズである、神殿の残骸達どころか。
今朝から大量に用意していた丸太達までもが、忽然と姿を消している。
一体、何が起きているのであろうか?
すると、そんな疑問を抱いている少年の隣で。
辺りをキョロキョロと見渡している【蒼】の青年が、次のような言葉を呟いてきた模様。
「つーか、【灰】のオッサンだけいなくね?」
「……なに?」
そんな青年の気づきを受けて……。
同じく防壁内を見渡してみる、他三人。
しかし、どこを見渡そうとも。
彼の姿が、どこにも見当たらない。
……。
……おかしい。
つい先程までは、彼も中央付近でせっせと地道に建築作業へと勤しんでいたハズだが……。
一体、どこへ消えてしまったのだろうか?
ただ、そんな疑問も自然と……。
次第に、とある一つの建造物へ収束することとなる。
「まさか……」
そう、残る怪しい場所と言えば……。
いきなり目の前に出現した、この正体不明の家屋のみ。
なので、暫く顔を見合わせる彼らは……。
とりあえず、その建造物の正面側へと足を運んでみることに。
……。
建造物の横をなぞるように迂回しつつも、防壁正面側である対面の方へと顔を覗かせる、彼ら。
すると、その向こう側には……──
「わぁ、綺麗……」
──なんと、寂れた正面門の先に続く。
汚れ一つない、清潔な『
「……」
夢でも見ているのであろうか?
正面に現れし謎の『豪邸』の姿に。
思わず彼らも、暫く困惑の表情を見せてしまう。
まさか、昨晩での出来事のように。
何か得体の知れない超常現象にでも、再び巻き込まれてしまったのであろうか?
人一倍に警戒心が強いせいか。
冷や汗混じりに、目の前の豪邸を強く睨みつけている、【紅】の少年。
……が、しかし。
そんな少年とは真逆に……。
あろうことか。
【蒼】の青年と【黄】の少女だけは……。
ズカズカと揃って中への侵入を試みた模様。
「すごーい!? 何ですか、この大っきいおウチ〜!!」
「え、僕が森で遊んでる間に、こんなヤバいの作ったの? 流石に本気出しすぎじゃない?」
先陣を切るかの如く。
堂々と玄関口の扉を開けて中に入ってゆく、【蒼】の青年。
加えて、そんな彼に続くかのように。
同じく笑顔で入ってゆく、【黄】の少女。
「あっ!? ちょっと二人とも、勝手に入っちゃダメだよ!」
すると、そんな二人を引き留めようと……。
遅れて、【紫】の乙女まで中へと消えてしまったらしい。
……。
よって、その場に残されたのは……。
【紅】の少年のみ。
「……」
おそらく、何も考えていない彼らの行動を見て。
彼も一人、難しく考えていることが馬鹿らしくなってしまったのであろう。
どうやら、彼もまた。
彼らの背中へと、無言で続くことにしたようだ。
「……ふむ」
既に開いたままである扉を潜り抜けると……。
そこは、美しい中庭。
なるほど。
見たところ、建物の間取り事態は昨日の神殿とほぼ同じく。
『手前側にある間』と『奥にある間』の二種類によって構成されていたらしい。
・まずは、手前側の間から……。
入り口を潜った先には、等間隔に並ぶ柱廊下でぐるりと周りが囲われている中庭。
いわゆる──『列柱廊付きの中庭』が存在していた模様。
これは屋根の存在しない中庭を真ん中に設けることによって、外気や光を周囲の個室に取り込むことができる構造となっており……。
左右対称の位置にある計六つの個室に、新鮮な空気が送り込まれる仕組みとなっているようだ。
「わー、広ーい! ……あっ! ここ、私のお部屋にしよーっと!」
【黄】の少女も、太陽が拝めるこの開放的な空間を気に入ったのか。
適当な内の一部屋を、既に占領し始めているらしい。
・続けて、奥の間……。
ここは先ほどとは違って、全域に屋根のある一つの大部屋とした造りとなっていた模様。
まるで、集会や食堂に適していそうな広々とした空間である。
仕切りのない広い部屋の側面には、二階へと続く階段が用意されていることから、上にも更なる部屋が用意されているのかもしれない。
そして、双方。
どちらの間にも言えることは、やはり……。
「……うわー、家具とか何もねーじゃん」
「うん、柱や壁も綺麗すぎるよね」
そう、乙女達の言う通り。
特に目立った汚れやひび割れなどが、嫌に存在していない点である。
しかも、造り立て同様の清潔さと美しさがあるにも関わらず、どの部屋の中身も塵一つ存在しないほどに空っぽ。
人が住んでいた痕跡どころか。
物すら見当たらない所を見る限り……。
おそらく、まだ誰も立ち入ったことすらない空間であるのかもしれない。
「……」
太陽を浴びながら中庭を通り過ぎ、そのまま奥の間との境界線上にある廊下の日陰へと移動を済ませる、【紅】の少年。
すると、中庭を直進した先にある奥の広間にて、とある男性の後ろ姿が確認できた模様。
その通り。
それは、四人が探していた人物。
──【灰】の大男の大きな背中である。
「……〜〜。…………〜〜」
「……?」
何やら、奥の間のど真ん中にて一人。
ブツブツと独り言のようなモノを呟いている、【灰】の大男。
何かに集中しているせいか。
少年達の存在にすら気付いていない様子であるが……。
一体、この様な所で何をしているのであろうか?
なので、目の前にある大きな背中に向かって。
少年は言葉をぶつけてみることに。
「……おい」
「いやぁ、もうちょい広くするべきだったか? でも、それだと……」
しかし、彼は広間の床を見下ろしながら、いつまでもそんな風に独り言を呟いてくるばかり……。
一向にコチラ側へと顔を見せてこない。
「……」
ピクリと片頬を上げたのちに。
いつもの蹴りを喰らわせる、少年。
すると、そのタイミングでようやく。
【灰】の大男も、背中を押さえながらコチラに振り返ってきたようだ。
「うおっ!? な、なんだっ!?」
続けて、背後に立つ少年の存在を確認するや否やを
その場でホッと胸を撫で下ろしてくる、【灰】の大男。
「って、なんだ少年かよ。……全く、驚かせないで欲しいねぇ」
「よく言う、それはコチラのセリフだ」
加えて、建物の間取りを十分に確認したのか。
次第に、二人のいる大広間へとやってくる、他三人。
すると、その内である【紫】の乙女が……。
背中を押さえている【灰】の大男に向かって、このような疑問をぶつけた模様。
「もしかして、この豪邸……。【灰】さんが作ったの?」
「は? 豪邸って、何の話だ?」
まるで『何を言っているんだ?』と言わんばかりに、きょとんとした顔を見せてくる、大男。
続けて、彼は呆れた表情を作りながらも……。
改めて、室内をじっくりと見渡し始める。
「いまオレが作ってんのは、丸太を組んで作る簡単な木造だぞ? 資材や道具もねぇのに、こんな立派な豪邸が作れる訳……──」
しかし、コンコンと壁をノックしながらそう説明する大男であったが……。
次第に、何かに気づき出したのか。
暫く、無言で辺りを見渡したのちに。
ようやく、驚愕し出した模様。
「──うおっ!? な、なんだよ!? この馬鹿デカい豪邸は……!?」
驚きのあまり。
つい、手にしていた【宝玉】を床にカツンと床に落としてしまう、大男。
「……ツッコむ所ですかね?」
「ど、どうだろうね。本気で驚いてるようにも見えるけど……」
コソコソと耳打ちしてくる少女に。
首を傾げた返答を返す、【紫】の乙女。
しかし、そんな時でも。
少年は至って冷静である模様。
彼は静かに腕を組みつつ……。
驚愕の表情を見せている大男にこう尋ねる。
「……このような短時間で、ここまで立派な豪邸を用意できる訳がないだろう。……説明しろ。どんな手を使ったんだ?」
おそらく、自身が目を離した隙に怪しい行動を取っていた大男に、大なり小なりの不信感が芽生えているのであろう。
少年はかつてないほどに。
彼のことを鋭く睨みつけている様子である。
「参ったねぇ、どっから話せば良いのやら」
無論。
そんな少年の視線に対して。
少し悩ましい表情を見せてくる、大男。
「……いや、見せた方が早ぇなこりゃ」
ただ、そんな表情も束の間。
腕を組んでいた彼は、次第にそう小さく呟いたのちに。
先ほどに落としてしまった床にある【宝玉】を、そっと拾い直すのであった。
「……?」
加えて、ガラス玉を片手にしたままの体勢で。
突然、もう片方の手を空に突き出し始める、【灰】の大男。
何やら、目を瞑りながら、何も持たない手の方に意識を集中させているようにも見えるが……。
一体、何を始めるつもりなのか……?
すると、次の瞬間。
彼らの目の前で、にわかに信じがたい出来事が繰り広げられる。
『──とりあえず、立ち話もなんだし。ゆっくりしようぜ?』
その通り。
彼の手の平から飛び出てきたのは……。
キラキラと光り輝く、白の粒子。
やがて、その粒子が『とある物体〉のシルエットを形成したのちに。
それは、彼の手中からゴトリと現れる。
「……っ!?」
「え? な、なに……!?」
そう、彼の手から現れたのは……。
長方形のカタチをした、大きな木製テーブルであった。
「……よっと、一丁上がり!」
しかも、それだけではない。
なんと、彼は同じ要領で……。
それに合わせた木製の椅子を、更に五つほど追加で出現させてくるではないか。
……。
信じられない。
無論、彼の有り得ない行動に。
その場にいた四人は、眼を揺らすばかりである。
「えぇぇぇ!? 手から何か出てきたぁぁーーー!?」
「す、すごい! どうなってるの……!?」
「うっわ、ガチでキショすぎっ!」
「……化け物が」
「アレ? 後半の方は普通に悪口になってねーか……?」
何はともあれ。
【灰】の大男が、このような芸当を隠していたとは驚きだ。
「ははっ。……まぁ、驚くのも無理ねぇわな」
しかし、動揺を見せていたのは……。
どうやら、当の本人である彼も同じであったらしい。
改めて見る自身の繰り出した技に。
冷や汗混じりの表情を浮かべている、大男。
すると、そんな彼は……。
取り出したテーブルに椅子を並べていきながらも、そこの一つにドカッと腰を下ろしてきたようだ。
「実はさっき、少年と話し終えてから『この不気味な技』を使えるようになっちまったんだ。……賢いお前さんなら、ここまで言やぁ分かんだろ?」
加えて、テーブルを挟んだ先にいる対面側の少年を見つめながら、ニヤリとした笑いを見せてくる、【灰】の大男。
ただ、少年も一つ。
それについては既に、小さな心当たりを持っていたのか。
すぐさま、その場から視線を落とした模様。
そう、彼が予め目を付けていたモノ。
それは、ズバリ……──
「……なるほど、その【宝玉】の力か」
──その通り。
現在、大男の片手に握られし【透明なガラス玉】である。
その言葉に対して。
「え?」っと声を挙げてしまう、【紫】の乙女。
「【宝玉】……? それって、昨日の子から貰った、あのガラス玉のこと?」
「そう、オレがこの家を一瞬で建てられたのも、実はコイツが力を貸してくれたおかげなんだ」
すると、【紫】の乙女が発する確認の声に合わせて、大男もまた……。
テーブルの上に、コトンとガラス玉を置いてきた様子。
「ほら、あの子も言ってただろ? この【宝玉】に、神の力を込めておいたってよ。……あの話は、嘘っぱちなんかじゃなかったってことさ」
「え、マジで!? ……この玉、何でも出せんの!?」
しかし、そんな大男が語る真実を聞いた瞬間。
何やら、酷く慌てながらテーブルに置かれたガラス玉に手を伸ばしてくる、【蒼】の青年。
すると、彼は両手で砕いてしまうのではないかという勢いで、掴み取ったガラス玉に強く力を込め始めたらしい。
「……ちょ、女、女、女っ!!」
「ふんぬぬぬー!! お菓子ー!! この大陸で、一番おいしいお菓子ぃぃーーー!!!」
加えて、そんな青年の後を続くかのように。
同じく、隣でその真似をし始める、【黄】の少女。
なので、欲深き彼らの行動を無言で眺めている少年は……。
とりあえず、自身の隣にいた【紫】の乙女の方にも冷ややかな視線をぶつけてみることに。
「……どうした、お前はやらんのか?」
「やらないよ……」
なるほど。
どうやら、前述の二人とは違い……。
欲に溺れる様な真似をする彼女では無かったらしい。
……。
さて、ソレはさておき。
神の力を使用して、この建物を完成させたと証言している、【灰】の大男。
彼の使った神の力とは……。
一体、具体的にどのような力を差す言葉なのか?
少年はその謎を解き明かすべく。
大男が座っている椅子の隣側へと静かに移動する。
「……良い機会だ。このまま、今後の方針について議論を交わすぞ」
そして、椅子に体重を預けるや否や。
他の色達にそのような提案を出す、【紅】の少年。
そう、森で目覚めた直後に行った、あの初対面での議論から約一日。
これから、二度目となる彼らの議論が始まるようだ。
*
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