〈4〉【五色邂逅】
〈──ガサッ! ガサッ!!〉
背後から接近せし……。
草木を掻き分けてくる謎の異音と、強い存在感。
それに勘づいたと同時に。
紅を纏いし、謎の記憶喪失者……。
改め──【
「……っ!?」
加えて、【
すぐさま、付近に生える大きな木の裏側へと素早く身を潜め始めた模様。
どうやら、お得意の無言で……。
この場をやり過ごすことに決めたらしい。
さて、あの茂みから飛び出してくる相手の選択肢として考えられる候補は……。
──〈人間〉、もしくは森に生息する〈獣の類い〉かのどちらかが、最も有力である。
いずれにせよ、今は武器らしきモノを一つも携帯していない状況。
万が一、あそこから出てくる相手が獰猛な猛獣ならば、一貫の終わりと言えるだろう。
……いや。
例え獣ではなく、人間であったとしても……。
それが善人であるという保証はどこにもない。
日頃から悪事に手を染める事に厭わないような輩ならば、それもまた危険対象となってしまうのだ。
「……」
故に、ここは隠れてやり過ごすことが得策。
そして、願わくば──双方の意味で『話が通じる相手』であることを祈るしかない。
すると、そんな【
『〜〜! 〜〜〜!!』
そう、ガサガサと鳴り揺れる草むらの中から。
ひょっこりと──『ソレ』は姿を現した──
『ぷはぁ〜〜っ……!!!』
──……。
結論から言うと……。
生い茂る草むらからスッポリと顔のみを現してきたのは、一人の少女であった。
『ん? あれ、あれれ……?』
加えて、そんな少女は……。
顔のみを草むらから現す体勢のまま、キョロキョロと付近を見渡し始めた模様。
……何かを探しているのだろうか?
すると、次の瞬間。
そんな少女は、実に驚いたような表情を浮かべつつ、以下のような言葉を大声で吐き出してくる──
『──……あれっー!!!? 【
酷く慌てた様子で、草むらからバッと飛び出し。
周りを必死に見渡し続ける、少女。
外見や身長から察するに……。
推定年齢は、木の裏に隠れている【
頭の片側にて一纏めにされた、金色の髪。
活力に満ち溢れる、太陽のような瞳。
どこかで見かけた刻印の入る、黄を基調とした衣装。
……と、見るからに天真爛漫そうな雰囲気の【黄】を印象付ける少女が、煩わしく登場してきたようである。
すると、そんな【黄】の少女の発言を耳にした【紅】は、身を潜めたままの状態でピクリと眉を顰めた模様。
「……?」
……『【紅】い子、どこ』──。
そう、あの少女は先程……。
確かに、そう発言したのだ。
【紅】は、彼女の発言に該当する色を持つ、自らの衣服にゆっくりと視線を落としつつも……。
木の向こう側をウロつく彼女と、自身の身に付けている衣服を遠目から見比べてみる。
酷使する布の材質や細部の造り。
加えて、各種装備品に小さく刻まれている同様の紋章。
……間違いない。
おそらく、あの少女が探している人物とは、自分自身のことなのだろう。
……果たして、ここは素直に顔を出すべきなのだろうか?
しかし、ただ身に付けている服が同じというだけで、彼女が自身の味方であるという確証はない。
そして、【紅】が自身の衣服の裾に視線を落としながら、木陰で深く思考を巡らせている……。
まさに、その時であった──
『…………だ〜れだっ!!』
──いつの間にか【紅】の背後から静かに近づいてきていたのは、【黄】の少女。
そう、彼女は自身が探していた対象の視界を両手で覆い、驚かすように大声を響かせてきたのである。
……迂闊であった。
おそらく、服を確認している一瞬の隙に。
ウロチョロと付近を歩き回っていた【黄】の少女が、木の裏に隠れていた【紅】を発見してしまったのだろう。
どうやら、彼女は息を殺しながらそっと背後から近づき、そのようなイタズラを仕掛けてきたようだ。
……。
当然。
これには目覚めてから一度も変わり映えの無かった表情の【紅】も……。
つい、暗闇の中で狐に摘まれたような顔を作り出してしまった模様。
「えへへーっ、こんにちわー! 隠れんぼですか〜?」
……が、しかし。
そんな風にヘラヘラと笑っている、呑気な少女に……。
まもなく、予測不能の天罰が……。
「……っ!!」
「……へっ?」
その通り。
触れられた拍子に発生する驚きが、別の強い力を誘発させてしまったのか。
【紅】は咄嗟に、背後に立つ少女に向かって鋭い背面蹴りを繰り出してしまったのである。
無論、少女もまた。
軽い気持ちで【紅】の背後に立ってしまっていた内の一人だった。
故に、結果は……──
「ぎゃぶふぅーー!!!!???」
──当然ながら、直撃の一途。
顔の表面にまともな蹴りを食らってしまった少女は、弧を描くように宙を舞い……。
そして、そのまま顔から綺麗に地上へ着地してしまう。
……。
すると、【黄】の少女は。
顔を地面に伏せたままの状態で、次第にプルプルと体を振るわせながら、こう叫んだ──
「…………ぐすっ、うわぁぁーーーん!!!! 急に蹴ったぁぁぁぁぁ〜〜っ!!!」
──うつ伏せを維持したまま。
わんわんと赤ん坊のように泣き喚く、【黄】の少女。
しかし、蹴りを浴びせた加害者側である当の本人は、特に駆け寄って心配する素振りもなく。
「……」
ただただ、その場で静かに。
倒れ込んでいる少女を睨みつけているばかりのようである。
ただ、そんな空気も束の間……。
少女の泣き声に呼ばれるかの如く。
彼女が現れた茂みの方から、新たなる三人の来訪者達が、ゾロゾロと姿を現してきたらしい──
『──……オイオイ、なんの騒ぎだよ、こりゃ?』
そう、少女の現れた地点から、新たに登場してきたのは……。
色とりどりの『三人組』であった。
「……!」
加えて、彼らもまた。
【紅】や【黄】の少女達と同様に。
同じ紋章が刻まれる装束に袖を通していた模様。
更に一歩ほど引いた位置から、新たに現れたその三人組達を無言で観察し始める、【紅】……。
すると、まずは現れた内の一人が。
真っ先に、付近で倒れ込んでいる【黄】の少女に注目の眼を向けてきたようだ。
「……って、うおっ!? 【黄】の嬢ちゃんか!? そんな所で突っ伏して、何やってんだ……?」
一人は……。
この、やたらと体格の良い。
【
推定年齢は、三十代前後。
サッパリとした銀色の短髪と、ガッチリとした巨大な背丈が特徴的な、大柄の壮年男性である。
加えて、そんな彼は、地面に顔をつけたまま啜り泣いている【黄】の少女を発見するや否や。
すぐに彼女の元へ駆けつけて、軽々とその場から起こし始めた様子。
「よっと! ……ほれ、大丈夫かい?」
……何という腕力と身長だ。
目視だけでも、自身や少女達の倍近くの大きさがあるのではなかろうか?
『──どうしたんだろう、転んじゃったのかな?』
続いて、二人目は……。
この、物腰が柔らかそうな【
推定年齢は二十代前半。
背中まで伸びる長い菫色の髪と、慈愛に満ち溢れた雰囲気が特徴的な、美しき乙女である。
加えて、そんな彼女は。
【灰】の後ろに続くや否や。
自らの衣服に巻かれる腰布の一部を破り取り、それを優しく少女の鼻に当てがった模様。
「あっ! 大変、鼻血が出ちゃってるみたい! ……よしよし、お姉ちゃんと一緒に、あっちでお鼻を冷やしに行こうね」
……面倒見が良い性格なのだろうか?
肩を貸すように、そのまま少女と付近の小川へ歩いて行ってしまったようだ。
『──やぁ、やっとお目覚めみたいだね』
そして、最後は……。
この、端正な顔立ちを持つ【
推定年齢は二十代半ば。
チャラついた少し長い空色の髪と、飄々とした雰囲気が特徴的な、怪しい笑顔をもつ優男である。
しかし、そんな彼だけは。
直前の二人とは違い、姿を現すや否や。
一直線で【紅】の元へ歩みを寄せた模様。
「君だけ全然起きないから、少し心配してたんだ。 初めまして、【紅】のクールレディちゃん?」
初めまして……。
……【紅】の、クールレディ……?
うつ伏せで倒れていた少女を気にかけるよりも先に、ヘラヘラと孤立している【紅】の元へと近づく、【
すると、そんな【蒼】の青年は。
【紅】の隣に足を並べるや否や……。
突然、その手を細い腰にゆっくりと添え始めた模様。
「まっ、困惑してる頃だろうけどさ。とりあえず、ここは仲良くやろうね〜」
無論、許可もなく身体に触れられた【紅】は、先程の少女と全く同じ対処法をお見舞いすることにしたらしい。
「……っ!」
その通り。
強い嫌悪感を示すと共に放たれたのは……。
【蒼】の青年の顔を目標とする、例の容赦ない蹴りによる一撃だ。
……が、しかし──
「おっと、ハズレ」
「……!?」
──残念ながら、その結果は先程と異なり。
虚しいほどの大きな空振りのみで、終わりを見せることとなる。
「……っ!?」
……おそらく、青年の方が遥かに上手であったのだろう。
なんと【紅】による蹴りは、彼の恐るべき反射速度でアッサリと躱されてしまったようだ。
しかも、それどころか。
今は青年の素早い超反応によって。
そのまま流れるように、背中で両手を組み固められる始末である。
ただ、当の青年の方は特に怒りを主張することもなく。
欠伸を吐き出しながら、【紅】の拘束を前方に押し出すようにして、すぐさま解放したようだ。
「……あーあ、優しくして損したわ〜。お前、やっぱり『男』じゃん」
そして、文句の代わりに飛び出てきた言葉は。
何ともつまらさなそうな、そんな一言。
「え!? 男……!?」
すると、青年の残念そうな声を耳にした他の三人達が、その場で一斉に「えっ!?」──と驚きの声を上げてきたらしい。
加えて、そんな中でも。
最も素早い食いつきを見せてきたのは……。
やはり、初めに蹴りを浴びせられてしまった過去を持つ、【黄】の少女である。
「う、うそっ!? お、男の人だったんですか……!? そんなに細くて、女の子みたいな顔してるのにっ……!?」
……という訳で。
そのように指を震わせている【黄】の少女に対し、【
改め──『【
凍えるような冷たい口調で。
淡々と言葉を返すことにしたようだ──
『──……次に馴々しく触れてきた際は、その見極めの悪い眼球から真っ先に潰してやるから覚悟しろ』
「「「「……。」」」」
どうやら、【紅】の少年が発する初めての言葉は、周囲の空気に重みを与える為だけに使われたようである。
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