序章──〈第1の世界〉

 〈1〉【生誕せし希望】


 目の前に広がりし世界。


 それは、どこまでも続きゆく。

 果てのない──【あか】の世界であった。


 目──。

 四方を囲いしは、変わり映えのない単色ばかり。

 前後左右のどちらに眼球を転がそうとも、そこには血溜まりの如き、一面の【あか】しか存在していない。

 

 耳──。

 耳元に鳴り響くは、無が奏でし高音ばかり。

 静寂すぎるが故に生じてしまう、この煩わしい耳鳴りも、今は却って煩わしい。


 身体──。

 自身を飾るのは、指先の一つすら満足に動かせない四肢ばかり。

 込められたはずである全身への力は、何処かに虚しく消え失せてしまう。

 

 頭──。

 自身を司る脳内は、常に呆けたままを維持するばかり。

 どれほど懸命に思考を巡らせようとも、その脳裏に蘇るモノは皆無のようだ。


 ……果たして。

 自身は、何者であるのだろうか?


 男? 女?


 人間? 動物?


 生者、死者?


 それとも、それ以外の得体の知れない。

 ……『何か』?


 ……この問いかけを繰り返すのは……。

 これで、もう何度目になる?


 ……。


 分からない。


 自分という『存在』が、何であるのか。

 はたまた、何であったのか。


 全く以って。いつまでも。

 一向に、分からないままなのである。


 ……。


 ──すると、そんな赤く染まる世界の片隅にて。

 突如、一際に存在感を放つ〈何か〉が、ポツリと小さく姿を現してきた模様。


 ……間違いない。


 アレは──『光』だ。


 そして、そんな光にも……。

 この【紅】き世界と同様。

 己を象徴せし、唯一の色がある。


 そう、『光』の名は──【しろ】……。


 やがて、この世界にある全てを覆い尽くさんとする、かくも儚き──【しろ】の色である。



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