第37話 新たな火種




 国王・・・なんだか少しやつれたような気がするが大丈夫なのだろうか?


 国王ともなるとかなりの激務だろうし貴族達の機嫌取りもしないといけないみたいだから老体にはキツイのかもしれないな。


「密命の件ご苦労だった、しかし奴隷の取引を禁じているこの国で男爵が密かに奴隷の取引を行なっているとは・・・この件が表に出れば国が揺らぎ他国との軋轢を生みかねない・・・か」


「して、辺りに危険な生物は居なかったか?私たちとしてはそちらの方も心配でな・・・」


「私達も辺りは捜索しましたが危険な生物は発見出来ませんでした」


 この辺りはリゼと打ち合わせ済みだ、そもそも俺が召喚したモンスターだしいくら探してもいるはずがない。


「そうか、しかし男爵の件が知れたのは僥倖であった」


「此度の任務、まことに大義であった」


「「「「「「ハッ、ありがたく」」」」」」


 国王は言葉を続けとんでもないことを言う。


「また、其方達に頼みたいことがあってな・・・今は手隙の者がいなくてな、私が動かせる戦力がない状態だ」


「其方達に遠征任務を命じる、隣国のバルランド王国まで赴き奴隷達をできる限り保護してほしい」


 確かに動かせる人数が確保できても隣国まで赴くには食糧など様々な準備が必要になるし金もかかる、なら強力な個人を雇った方が遥かに効率がいい・・・と言う訳だ。


 おそらくここで俺の実力を測るという目的もあるのだろう。


「詳しい話は宰相に聞いてほしい、では活躍を期待している、以上」


 そのあと宰相からの説明を聞き次の日の朝、休む間も無く俺たちは隣国に向けて旅立つこととなった。


 今度の旅は長くなるかもだな。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「よし、この辺りで移動用の召喚獣を呼び出すとしよう」


 王都から少し離れた場所に移動しまず最初にしたことは移動用の召喚獣を呼び出すということだ、バルランド王国は普通の馬車で半月ほどかかるらしい。


「“常闇の黒馬“(コシュタ・バワー)!」


「ヴァルディ殿・・・この巨大な馬はッ!!?」


「あっ、この馬は!あの時の・・・」


 そうか、クレア以外に見せるのは初めてだったな。


「ここからバルランド王国までは遠いみたいだからな、この馬なら休憩が必要ない」


「王都一の馬だってここまで大きくないニャ・・・」


「休憩が必要ない馬ですか・・・サラッとおっしゃいますが、どんな馬でもそんなことはできませんよ?」


「馬・・・はじめて乗る・・・」


 どうやらルルははじめて馬に乗るらしい、なら俺と一緒の方がいいか。


 しがみつくことになるだろうしルルは体力がないからな、振り落とされでもしたら大変だ。


「ならルル殿は私と一緒に乗ろうか、皆も馬術の心得がなくてもその馬は私の命令で動くので心配はいらない」


「ルルさん・・・羨ましい、今度はボクも一緒に(ボソボソ)」


 巨大な馬に乗るのに苦労しながらも、なんとか全員が馬に乗り平原を駆ける。


「速い!!」


 確かに目が開けられないほど速いか、速度を緩めよう。


「すまない、少し速度を緩めよう」


「あ、ありがとうございます・・・」


 こんな感じで俺たちはひたすら馬で移動し、わずか8日でバルランド王国に着いてしまった。


 そこまで急ぐ必要もなかったがリゼ達にとってモンスターがうろついている場所での野宿はストレスになるだろう。


 それに冒険者とはいえルルは俺から見たらまだ子供だ、そんな子に長いあいだ野宿をさせるのは気が引ける。


「見えてきたな、あれがバルランド王国か」


「ぜぇ、ぜぇ、はい・・・あれがそうです・・・つ、疲れた」


 馬にしがみつくのにもかなり体力を使うだろうしな、負担をかけてしまったのは悪いがリゼ達の目の下にあるクマがどんどんひどくなっているのを見るとあまり悠長な旅はよくないだろうと判断した。


「急かしてしまってすまないな、だが今日は宿でゆっくり休める」


「もう少しの辛抱だニャ!」


 今まで二日程度で終わる依頼しか受けていなかったから・・・野営は冒険者に必要なスキルとはいえ、いきなり10日越えは身体も精神も保たない。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 街には無事入れた、検問場は国王から貰った王命の印であっさりと。


 街に入るのに少し時間は掛かったがなんとか昼前に入れたな、あとは宿屋探しだけか。


「ここも王都と変わらないくらい賑やかな街みたいだな」


「ええ、とにかく宿屋を探さないと・・・ん?あれは・・・何か揉め事でしょうか?」


 リゼは疲れた様子から一変し広場の奥を険しい顔で見ている。


 確かに何か騒がしいな、人が集まってよく見えないが、ここからでも騒ついているのが分かるほどだ。


「!!リゼ殿、私は少し様子を見てくる」


「リゼ殿たちは少し離れた場所で見ていてほしい」


 人だかりの隙間から見えたのが気のせいじゃなければ、放ってはおけない案件だ。


 まったくこの国は奴隷の取引が禁じられていないとは知っていたが、公然の場でこんなことが行われているとは・・・。

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