第26話 勘違いされ配下が出来てしまった話


「どうかね?どうやらこの中に君の処刑を望む者はいないようだが?」


「・・・ヒック・・・グスッ・・・私はッ・・・!」


「心は決まったか?」


「・・・はい!私はここで奴隷たちと一緒に暮らそうと思います、そしてこの村を元の状態まで・・・いや、それ以上の村にします!彼ら彼女らが今度こそ幸せに暮らせるように!」


「その調子だ、では私から君へ敬意を込めてプレゼントを」


 “ジャラジャラ”


「!!!!????」


「これは今、私が持っている全財産だ、これを使ってこの村の発展に役立ててほしい」


 まあ、これは全部盗賊の砦にあった物だからな・・・恐らく奴隷達を売って稼いだ金品・・・ならば彼女らが使うのが最も正しい使い方だ。


 奴隷達から様々なものを奪って稼いだ金だ、それを今奴隷達に返すのは至極正しいといえるだろう。


「騎士様・・・私もう一つ決めたことがあります・・・」


「ん?なにかな?」


「・・・(バッ)どうか貴方様に忠誠を誓わせてください、どうか私を・・・いや、私たちをヴァルディ様の配下にして頂きたく思います」


 !!?ん!??忠誠???配下?この子とんでもないことを言い出したぞ!!?ど、どうすれば・・・いや、この子の事だから何か考えがあっての事かもしれないし変に断る訳にも・・・。


「そうか、それはありがたい話だが、私は君達を配下にするつもりはない」


「!」


「君達とは良き友人になりたいと思っている、皆とは身分の差に関係なく良好な関係を築いていきたい」


「“今”はそれでどうかな?」


「はッ・・・!そういう事ですか・・・!承知いたしました!」


 やんわり断ったのは分かってくれたみたいだしこれで一件落着かな・・・あ、リゼ達に報告しないと・・・それにここではまだやることがある、しばらくはリゼ達とここにいることになりそうだな。


「では、今日のところは皆にゆっくりと休んでもらうとしようか・・・私は宝物を村長の家の地下に運ぶ」


「君も今まで疲れただろう?もう君達の悪夢は終わった、これからは幸せな日々が待っているだろう、だから今日は休むといい」


「ハッ・・・お気遣い感謝しますヴァルディ様」


「皆!今日は休んでくださいヴァルディ様もそう仰っています」


 村人達は各々、感謝の言葉を言いながら簡易テントの中へと入っていった。


 「では私も失礼します」


「いや、ちょっと待ってくれ」


「はい!何か気になることでもお有りでしょうか?」


 そういえばこの子の名前をまだ聞いていなかった事を思い出した、特殊な出会い方をしてるしトントン拍子できているから名前を聞くタイミングを逃してしまった。


「いや、色々あって君の名前を聞いていなかったと思ってな・・・」


「も、申し訳ございません!出会った時は気が動転してしまっていて・・・私は、シグ・アルヴィーゼと申します」


「シグ殿だな、ありがとう、明日から忙しくなると思うがよろしく頼む」


「手伝えることや困ったことがあれば遠慮なく言ってくれ」


「ご期待に添えるよう努力いたします!」


・・・・・・・・・・・・・・・・・


「さて、すっかり君を放置してしまった・・・すまない」


「ふん、子供扱いするでない!・・・それより人間の若造よ・・・お主大したものじゃな?」


「何がかな?」


「とぼけなくともよい、全て予定通りなのじゃろう?あの小娘から配下になりたいと言われた時お前は断り友人になりたいと言ったな?」


「ああ、確かに言ったが・・・」


「あの言葉の裏には違う意味があった・・・小娘が注目を浴び敬意の念を抱かれているなか公然に配下にすると言ってしまえば村人達は困惑し反発する可能性がある・・・」


「そうなるとお主にとって都合が良くない、だからあの小娘を村のトップに据えお主に忠誠を誓っている小娘のみを背後から操りこの村を実質支配下に置く・・・だからこそ”村人の前では”、という意味で“今は”などという言葉を使った・・・そんなところじゃろ?」


 正直1ミリもかすってないけどめちゃくちゃドヤ顔してるし違うとも言いづらいな・・・っていうかそんな意味があったのか!!?。


 どれだけ深読みしてるんだよ・・・。


「ご想像にお任せするよ」


「フン、食えない男じゃな・・・」


 とりあえず今更撤回してまた深読みされたらややこしくなるしそういう事にしといた・・・。


「ところで、君はどうするつもりだ?帰る場所があるなら送るぞ?」


「お主、本当に変わった人間よな・・・それなら心配いらん、儂にはもう帰る場所などありゃせん・・・」


「なら、しばらくこの村に居ないか?」


「なんじゃと?お主・・・本気かえ?儂は出来損ないとはいえ竜の血を引いておる、このような村吹き飛ばす事くらい容易いのだぞ?」


「そのような化け物をこの村に置くと?」


「ハハ!君のような可憐なレディが化け物?それこそ何かの冗談に聞こえるがな?」


「なっ・・・///お、お主もしかして儂をみくびっておるのか!?」


「いや、年長者には敬意を払う、みくびるなどとんでもない」


 おそらくこのドラゴンは敵になり得ない、もし村人を殺すつもりならとっくにしているだろう。


 唯一敵対する理由があるとすればここにある宝物だが・・・襲ってくる気配は全く感じられない。


「くふふ、アッハッハ!・・・お主・・・気に入ったぞ!よかろうならば儂も今からお主の配下じゃ!よろしく頼むぞ主人様?」


 今日だけで何人配下ができるんだ・・・なんで気に入られたかも分からないし、もう訳が分からない・・・。


 もういい、今日は考えるのをやめよう、身体的な疲労はないが精神的には疲れる・・・多分ご先祖様レベルで年上だろうけど見た目は完全に幼女だ・・・幼女を配下にしたなんてリゼ達に言ったらどうなるか・・・考えるだけでも億劫だ。

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