第8話 ある少女の恩返し





 俺は目線を逸らし真後ろを向きながら内心初めて見る裸の女体に戸惑っていた。


「(アレも性欲もない状態でよかったな・・・まあ、あったところで行動する勇気はないけど・・・)」


「い、いえ・・・ボクの方こそ顔を洗うなんていいながら申し訳なかったです」


「心配して頂けたんですね・・・///」


「もちろんだとも、君達には無事に帰ってもらいたいのでな」


「私は戻って火の勢いを強めるとしよう 冷えてしまっては大変だ」


「あ、あのヴァルディ様・・・もう少しお話しして頂けませんか?///」


「だがよいのか?君は・・・」 


「いいんです・・・ヴァルディ様はお優しい方ですし酷いことはしないでしょう?」


「それはどうかな もしかしたら君に酷いことをするかもしれんぞ?」


「酷い事しようとする人はそんな事言いませんよ?」


「そうか 君がよいなら付き合おう 面白い話は出来ないがな」


「フフッ ありがとうございます!」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「そうしたらリゼが怒ってしまって!」


「それは大変だったな・・・リゼ殿の感情が豊かなのは今日話していて思ったが、フフ そんな事まであったとはね・・・」


「さて、そろそろ上がらないと身体が冷えてしまうぞ? 続きは焚き火の近くでするとしようか 」


「はい ボクもすぐに向かいますね」


「ああ、ではまた後でな」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「ヴァルディ様、お待たせしました 」


「ああ、戻ったか 暖かいミルクを用意しておいたのだが、如何かな?」


「!ありがとうございますヴァルディ様 これもさっきの空間からですか?」


「ああ、その通りだ」


 ルーシャは湿った髪で水滴を滴らせながら温めたミルクを受け取ると すぐに飲み始めた・・・。


「君の事はここにいる皆が知っているのかね?」


「はい・・・みんな知っています」


「女性の君が男のフリをするのは辛いだろう? そこまでの理由があるのか? 言いたくないなら言わなくてもいいが・・・もし辛い事があれば話くらい聞けるぞ 」


「私たちは会って間もないが一緒に旅をする身だ 誰かに話して楽になるという事はよくあるだろう?」


「もし話してくれるならここで聞いた事は一切口外しない事を誓おう」


「ヴァルディ・・・様・・・」


「実はボク・・・昔から冒険者に憧れていたんです でも女の身で冒険者になってもパーティーに入れてくれる人は・・・いません」


「もし、いたとしても身体目当ての人達ばかりです・・・だから男装をしてボクを入れてくれるパーティーを探していたんですが それでも身体も小さい 力も人並み以下 そんなボクを入れてくれるパーティーはありません」


「入れてくれた人達もたまにいました ボクは荷物持ちも一晩中火の番でも何でもしましたが 最後には用済みだとか役立たずとか言われてパーティーを追放され続けました それで冒険者を辞めて田舎に帰ろうと思っていた時にこのパーティーに出会ったんです」


「はい・・・皆さんには悪いですが このパーティは王都で最弱とか雑魚パーティーだとかで有名なパーティーだったんです 実はボクもそう思ってましたいつも依頼に失敗して帰ってくるパーティーだと」


「でも最後に一回でも普通の冒険をしてみたいと思ったしこんなボクに声をかけてくれたんだから入ってみようと思い加入したんですが・・・ハハッ 噂通りのパーティーでした喧嘩はしょっちゅうだし 魔獣にはコテンパンにやられるし・・・でも・・・ここの居心地はどんな場所より心地よかったんです」


「男装をしている理由はもう一つあって・・・冒険者にとっては印象が大事です 個別の依頼は強そうな人にくるし弱そうなパーティーにはきません・・・それが女だらけのパーティーならなおさらです」


 この世界は男尊女卑の傾向が強いみたいだな・・・中世ならこんなものなのかも知れない、このパーティーも色々苦労してきたのだな。


「だからボクに居場所をくれたこの人達に少しでも恩返しがしたくて 男装して少しでも強いパーティーに見せようとしたんです」


「このパーティーの人達は皆さんそれぞれとある事情を抱えています・・・だから時にはその助けにもなってあげたいんです」


「なるほど・・・そんな訳があったのか ルーシャ殿は随分仲間想いなのだな」


 俺もパーティーを追放され続けた身だからな この子とは境遇が少し似ているのかも・・・。


「言ったのは私だが 私に話してもよかったのか?」


「はい・・・ヴァルディ様には命を救って頂きましたし、お人柄も多少分かっているつもりです、私も皆さんと同じでヴァルディ様を信用していますから」


「そうか・・・嬉しい話だが、そこまで信用されると少々くすぐったいな」


「話してくれてありがとう、ところで・・・もうじき太陽が昇る頃だがルーシャ殿はもう寝なくてもよいのか?」


「はい もう少しヴァルディさんとお話ししていたいかなって・・・///」


 “はぁ? 俺たちのパーティーに入りたい? 冗談だろ? お前みたいな雑魚となんてチャットもしたくねぇよ”


 初めてだな、誰かにこんなことを言われるのは・・・。


「ヴァルディさん・・・?」


「あ、ああ 私もルーシャ殿達とお話ができてとても嬉しいよ」


「私でよければいくらでもお話しさせて頂くよ、ルーシャ殿は話が上手いからつい聞き入ってしまう」


「フフ、本当ですか? ありがとうございます、じゃあ次は・・・」


 


・・・・・・・・・・・・・・・・


「・・・で依頼には失敗してしまって・・・」


「そうだったか・・・」


「う・・・ん・・・」


「クレール殿おはよう よく眠れたかな?」 


「ヴァルディ殿・・・おはようございます・・・あ、朝!?」


「ヴァルディ殿もしかして寝ておられないのですか!?」


「中々寝付けなくてね ルーシャ殿に話し相手になってもらっていたから退屈はしなかったよ」


「そうですか・・・朝まで眠ってしまうとは面目ないです・・・」


「うにゃ〜なんニャ なんニャもう朝かニャ?」


「おはようクラレット殿」


「ヴァルディさんおはようニャ!」


「ヴァル・・・ディ・・・さん?おはようございます」


「・・・ねむ・・・い」


「クレア殿にクルーシェ殿もおはよう よく眠っていたな」


「わ、私よだれとか垂らしてませんでしたか!?」


「いや大丈夫だ 少女らしい寝顔だったとも」


「〜〜〜〜ッ」


「さて!皆んな川で顔を洗ってこい!王都に向けて出発するぞ!」


「「「「「は〜い(ニャ)!」」」」」

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