第37話 俺に一体どうしろと
「と、いう訳で。セルジアート君、よろしくね」
「は、はぁ」
速達から戻ってきた俺は、何故かまた郵便局長室に呼び出された。
仕事の完遂は既に受付にて伝えたのだが、どうやら元々「帰ってきたら局長室に呼ぶように」と受付で言伝されていたらしい。
仕事の完遂を受けてという事でないのなら、理由は一体何だろう。
いやまぁあの局長は、一見するとおっとりとした人にも見えるのだが、その実意外とやり手である。
そもそも仕事を完遂していなければ戻って来はしないだろうという、俺の性格を予め読んで、そういった言伝をしていた可能性もある。
となれば、一概に速達の件とはまた別件で……という訳じゃないかもしれないか。
なんて思いながら、本日二度目の局長室の扉を叩いた。
「はい」
「セルジアートです」
「あぁ、入りなさい」
言われるままに、扉に手を掛ける。
開いた扉の向こうにいたのは、こちらに背を向け窓の外に目をやっている局長の姿と……。
「あれ、君は」
先程俺にあの速達の郵便依頼をしてきた、カイルの使いの人間だ。
ソファーに座っているが、先程見た時と比べると、背筋を伸ばし膝の上に手を置き、少し緊張気味だろうか。
それでも俺に向ける敵意の籠った視線は健在で、思わず苦笑が漏れてしまう。
「ちょうどよかった。彼女も十分ほど前に来たばかりでね」
「『来た』?」
来た、という事は、一度帰ってもう一度来たという事だろうか。
だとしたら、何故。
余程俺の仕事の結果が気になったのだろうか。
そう思った時に言われたのが、これだ。
「実はカイル大司教からの手紙を、彼女から言付かってね」
そう言って、彼はソファーの前にあるローテーブルを指し示す。
これは多分「確認していい」という事なのだろう。
そう判断してテーブルの傍まで足を進め、封蝋の既に空いている封筒を手に取り中から二つ折りの便せんを出して開く。
その手紙は、まず『ウラドヴェール辺境伯領、郵便局長殿』という宛名から始まっていた。
=====
ウラドヴェール辺境伯領、郵便局長殿
先程は、特殊な荷物の速達を引き受けてくださり、ありがとうございます。
『セルジアートへの依頼』というこちらの我儘な要望にも快く答えてくださったと聞いています。
助かりました。
これでこのウラドヴェールの平和にまた一歩近づいたと確信しています。
さて、今回は他でもありません。
この手紙を持たせたミリーティア司教についてです。
『グレゴリーの怒り』の調査中ではありますが、連日調査に勤しんでいた彼女に本日から三日間の休暇を与える事にしました。
しかし勤勉な彼女は、普通に休暇を与えても、勝手に調査を進めるような性格で、魔法回路を休ませる事ができるような、別の仕事を宛がう方がよいと考えました。
どうやら彼女が郵便屋の仕事、特に配達員の仕事に興味があるようです。
そこで私の既知でもあるセルジアートの仕事に同伴する許可をいただけないでしょうか。
同伴の際、彼女が無理なく役に立てる範囲であれば、作業を振っていただいて構いません。
また、『魔法回路を休ませる』と言っても、多少の魔法行使は誤差の範囲内ですので、セルジアートの仕事に同伴するのに必要な魔法くらいであれば、行使しても問題ありません。
セルジアートなら、彼女の事をうまく往なすと思います。
個人の休暇に口を出すのもどうかと些か思わないでもないですが、部下を休ませる事もまた上司の務め。
ご理解いただけると幸いです。
ウラドヴェール辺境伯領、教会 大司教 カイル
=====
「と、いう訳で。セルジアート君、よろしくね」
読み終わり若干の困惑を表情に出しながら手紙から顔を上げた私に、局長がまるでいつもの郵便でも頼むかのような様子で言ってきた。
つまり、配達員の真似事――体験をさせろという事なのだろう。
それ自体はたまにない訳でない。
ただしそれは、主に十歳未満の子どもに対してだ。
間違っても十代後半の婚姻適齢期をギリギリ越してしまわないくらいの、成人済みの女性相手などではない。
どのように扱っていいものか。
そんな困惑の中、局長が受け入れると既に決めてしまっている様子なので、どうにもならないと諦めた。
しかし諦めてみたところで、困惑が消える事はなく。
「は、はぁ」
口から出たのは、我ながら冴えない返事だった。
その声になのかは分からないが、彼女――ミリーティアはとても嫌そうに、フンと鼻を鳴らしたのだった。
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