第26話 才能と夢
レオは、嘘は絶対につかない。
だから「鵜呑みにしない」と言ったら、事実そうするのだろう。
そこに関しては信用できる。
なら別に聞く必要ないだろとか、色んな視点が欲しいんなら自分の部下たちに意見を求めればいいんじゃないかとか、色々思わない訳ではないが。
「……ったく。的外れな事を言ってたとしても、俺は責任取らないからな」
ここにいるのは、俺とレオだけ。
そう思えば俺に意見を求めるのも少しは分かるし、気軽に無責任な事も言える。
仕方がないなと思いつつ、改めて俺も地図に目を落とした。
そして。
「多分これ、西側に何かあるんだろ」
率直な感想を述べる。
「何でそう思う? 魔物の討伐報告が集中しているのは南側だろ」
「南側は、元々魔物の出現が多かった。それに、見てみろ西は極端に魔物の討伐報告数が少ない。その上」
そう言って、地図に書き込まれている報告者――つまり討伐者の名前を指さした。
「この辺一帯の魔物を狩ってるのは、ジークだ。一体だけなら未だしも、あのジークが居座って集中討伐してる場所だぞ?」
「つまりここのは、他より強い……?」
「あぁ、多分な。それに、数が少ないのは強い魔物に、弱いのが追い立てられているか、共食いでもしてるかなんだろう」
「『魔物は基本的に、仲間意識ってもんを持ってない』か」
「そう。魔物は群れない」
そんな生体で生まれ落ちた瞬間から子ども時代に、一体どうやって生き延びるのか。
幼体の魔物なんて存在しないのかもしれない、なんて囁かれてもいるが、その真偽は未だに世界の謎だ。
……と、まぁ今はそんな事はどうでもよくて。
「魔物は生き物の命を食らう事で強くなる。それは魔物同士であっても成り立つ。これは研究で証明されている事実だ」
「じゃあお前は『この西で共食い現象が起きていて、だから強い魔物が数体現れた』って?」
「考えられる、ってだけだけどな」
その辺の答え――強い魔物が増えている原因は、今正にカイルが調べているところだ。
その解明は、あちらに任せる。
凡人の俺に分かる訳もない。
が、この地図を見て一つだけ確実に分かる事がある。
「少なくとも、通常時より周辺に強い魔物が多い」
「それは確かだな。俺も、領地防衛の都合上月に一度は冒険者ギルドから情報提供を受けているが、この一週間で既にひと月分の魔物討伐数に迫る勢いだ。強さで言えば、もっと顕著だな」
地図に書かれている討伐済みの魔物の名前は、どれも冒険者ランクC級以上推奨の魔物だ。
辺境であり近くに魔物の森がある町とはいえど、出現する魔物の討伐推奨ランクはDランク。
安全を心がけて場所を選べば、俺が一人で遭遇したってそれ程大きなリスクを背負わずに倒せるような魔物を相手にするだけで済む。
それが、Cランク以上推奨。
「俺も、一人で行けば気を抜けば怪我をするレベルの魔物か」
「お前は一人で行くような事はないだろ」
顎に手を当て真顔で言ったレオに、俺は思わずツッコミを入れる。
レオはこの領地の次期当主だ。
本人はこんなふうにマイペースだが、それは領主館内や、広くても町中だからこそできる振る舞いだ。
外となれば、話が別。
周りがレオの一人行動を許さない。
「まぁ、俺の強みは『個』じゃなく『群』だからな。流石に町の外でみすみす自分の強みを投げ捨てるような事はしない」
個で高みを目指すところは、早々に諦めた。
カラリと言外にそう言ってのけるレオは、清々しいくらいに自身を割り切っている。
ジークは剣の道で一騎当千。
カイルは圧倒的な魔法の才で秀でた存在だ。
それに対し、俺やレオは才能の面では間違いなく二人に劣る。
俺はその先を見出せずタダ人としての生活を受け入れたが、それでも尚夢を諦めなかったのがレオである。
人によってはそんなレオを「諦めが悪い」と言うかもしれない。
しかし元々領主として生まれながらにして民衆を導く責務を負った人間の諦めの悪さは、裏を返せば責任感の強さだ。
「俺はたった一人の跡取りだからな。それこそこの地を守るにあたって、命を落とす訳にはいかない。だからこそ、同じ志を持つ者たちの長として前線に立つっていう選択をした。足りない力を、他で補う。その代わり、共に戦う。俺は、今の俺が好きだ。これが俺にできる最大限だという自負が俺にはあるからな」
堂々たるその物言いや表情から溢れ出ている自信は、領の長に足る十分な資質だと思う。
レオが眩しい。
鎧の色ではなく。
元々派手好きなレオだけど、意外にも実質的で現実主義な面も持ち合わせている。
それでも尚たった一つだけ夢見た『英雄』という存在は、守る事が本質な領主とは正反対の、自らが誰よりも戦いの最前線で戦い、勝利し導く立場だ。
レオには、領主の素質がある。
少なくとも俺は、そう思う。
つまりそれは、領主とは正反対の『英雄』の素質には乏しいという事だ。
レオもこれで、それはよく分かっているんじゃないかと思う。
それでも胸を張って「『英雄』になる」と言えるのが、レオの真っすぐさであり強さだろう。
「お前はもう諦めたのか、セルジアート」
「……あぁ、俺はもう」
「本当に?」
まっすぐに見据えながら再度尋ねられ、思わず言葉に詰まってしまった。
俺にとってのソレは、一度見切りをつけた、既に過去の夢である。
俺の中の『英雄』という音は、少しの懐かしさと寂しさを感じる存在だけど、それだけだ。
「例えばさ、ちょっと深めの傷とかもさ、癒えればただの痕として残るだけだろ? そこに思い出はあるけど、痛みも熱もない……みたいな。俺にとって『英雄』っていうのは、今はもうそういう感じの――」
「あっ、いた! 坊ちゃん!!」
「ゲッ!」
ガサッという音と共に草をかき分けて、メイドが一人現れた。
ピンク色の頭の上に、青々とした葉が付いている。
おそらく所かまわず探したのだろう。
そんなルイサの登場に、レオは「しまった」と言いたげな顔をした。
そりゃあそうだ、先程隠れて彼女を撒き、今だって見つからないようにと、周りの目がないこの場所に来たのだ。
そして、何より。
「あ! 坊ちゃん、またつまみ食いしたんですね?!」
俺とレオの間に置いたハンカチ。
その上には、先程厨房から取ってきたマカロンが二つ残っている。
取ってきたのは全部で四つだが、レオと俺とで一つずつ食べていた。
しかし喋るのに夢中になって、半ばその存在を忘れてしまっていて……。
「こんなところで遊んでいないで、早く帰りますよ! 皆待ってるんですから!」
「遊んでない! ほら見ろ、セルジが冒険者ギルドから持ってきた地図を、こうして今確認していたところで――」
「それなら猶の事、戻らないとじゃないですか! 他の人にも見せないと!!」
ルイサは頬を膨らませ、プリプリと怒りながらレオの腕を容赦なく引っ張る。
そんなルイサの目が、俺を向いた。
「セルジアート様も、地図畳んでください! 一緒に行きますよ!」
「え、でも俺もう配達は済ませたし」
「いいから、すぐやる!」
「あ、あぁ」
有無を言わせない剣幕に、思わず体が従った。
面と向かって怒ったルイサに逆らうという選択肢を、俺もレオも当たり前のように持ってはいなかった。
慌てて地図を片付けた。
それに必死で聞こえていなかった。
「……古傷だって、うずく事はあるだろうが」
レオがそう、惜しげに言っていた声は。
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