第5話 Loved Ones 2
3:
「はあああああああああああ!」
麻人が叫び、それに応じて黒刀が巨大化する。
自信の何倍にも膨れ上がった黒刀を振り上げ、一気にサイクロプスへ全力で振り下ろす。だが、やはりサイコキネシス――力場の壁がその刃を阻んだ。
それでも麻人は全力で押し込む。
サイクロプスが両手で巨大化した黒刀を受け止め、白羽取りのような姿勢で両者が拮抗。
麻人が叫んだ。
「セイバー2!」
呼び声を待っていたかのように、セイバー2凉平がサイクロプスの至近距離まで迫っていた。
凉平が両手を突き出して、叫ぶように呪文を唱える。
「閃光砲!(シャイニングドライバー)」
巨大なレーザー砲と呼ぶべきか、光の柱のようにも見える光熱波が、凉平の両手から放たれる。そして至近距離でその光熱波がサイクロプスへ直撃する。
麻人がその直撃にあわせてサイクロプスから離れた。
さらに――誠一郎の援護射撃。ファイアボールマグナムが六発立て続けに撃ち込まれた。
だが、至近距離にいた凉平が気配を察し、バックステップで距離をとった。
もうもうと立ち込める煙の中から、全身が焼け焦げたサイクロプスが現れる。
「これでもだめか」
麻人が黒刀の大きさを元に戻し、構え直す。
サイクロプスの皮膚は、浴びせられた高熱の連続で焼け焦げていたが、再生能力で焼け焦げた部分がぼろぼろとこぼれるように剥げ落ちて、新しい皮膚が現れる。
サイクロプス――シックスが叫ぶ。
「ははっ! これが散々手こずらせてくれたソーサリーメテオか! 楽勝じゃないか!」
サイクロプスが両手を広げた。向けた先は麻人と凉平。
「くらえええええ!」
サイコキネシスの渦――激しい力場の嵐がサイクロプスの両手から放たれる。
その大きな力場の嵐に、麻人と凉平が回避をする余裕も無く、きりもみしながら吹き飛ばされた。
「お前もだ! 特にお前は! うざったいんだよ!」
サイクロプスが誠一郎へ突進した。
シックスの体だった時に、誠一郎にはサイコキネシスが効かないと分かっているのか、誠一郎へは接近戦で挑みかかる。
「体内調整!(キュア)」
呪文の発動と共に、誠一郎の筋肉が盛り上がった。
「あああああああああ!」
大声で叫びながら、誠一郎へサイクロプスが巨大な拳を振り下ろす。
その拳を、誠一郎は両手で受け止めた。受け止めなければ全身が粉々になっていただろう……そんな勢いで放たれた拳を、強化した体で誠一郎は受け止めきった。
足元が埋まるほどの衝撃。
さらにサイクロプスの追撃。今度はアッパーカットのように拳を下側から振り上げる。
誠一郎が即座に呪文を唱える。
「完全回復!(ライフセイビング)」
ドゴンッ!
重く激しい拳の圧力が、誠一郎の全身に襲い掛かる。
サイクロプスが拳を振り上げきり、誠一郎がなすすべなく宙に舞い上がった。
さらにサイクロプスが跳躍し、誠一郎へ三度目の拳を殴りつける。
すさまじい速度を持って誠一郎が地面に叩きつけられた。
だが、地面に伏した誠一郎の体は淡い緑の光に包まれている。
誠一郎が素早く立ち上がった。
攻撃を受ける直前に発動させた呪文――ライフセイビングの効果で、サイクロプスから受けた攻撃を即座に回復させていた。
「くそっ!」
サイクロプスが忌々しく歯噛みする。
誠一郎が起き上がると同時に走り出し、サイクロプスから距離を取った。さらにファイアボールマグナムの弾幕も加えて移動する。
サイコキネシスの壁を貫通する火炎球を両腕で防ぎ、耐えるサイクロプス。
いつも僕は君を見ていた。いつまでも見ていることができた。
時間を忘れるほどに。
そして君も僕を見下ろしていて、いつまでも見つめ合っていた。
時間を忘れて。寂しさも、何もかもを忘れて。
彼女だけが、ナンバーセブンだけが僕だけの安心だった。
静かな、そして幸せな時間だった。
4:
シュウジが叫んだ。
「ああもう! まどろっこしいいいいい!」
全身から紫電を迸らせ、バチバチと大気を弾けさせる音が鳴り響いた。
それに気付いた麻人凉平誠一郎の三人が、ほぼ同時にサイクロプスからさらに大きく距離を取った。
シュウジが両手を空に掲げ、巨大な雷光球を作り出す。
「くらえええええ! 大雷破!(ライトニングパニッシャー)」
雷光球が上空に放たれ、サイクロプスの真上に届いたところで、雷光球が巨大な雷となってサイクロプスへ撃ち落とされる。
爆発。鼓膜を脅かすほどの爆音。そして閃光。衝撃。
もうもうと立ち込める土煙。
「どうだぁ!」
全力で放った一撃に、荒い息を立てながら高らかに叫ぶシュウジ。
それでも――
サイクロプスは健在だった。
「うそ……だろ」
シュウジが膝を突いた。全力で能力を開放した反動で、シュウジに大きな疲労が重くのしかかる。
過呼吸になりそうなほどの荒い息を立てるシュウジ、くらみそうになる眩暈を頭を振って、再度立ち上がる。
丁度サイクロプスも立ち上がるところだった。
その隙間に、麻人と凉平が素早く入り込む。
「閃光刃!(ライトブレード)」
「はぁ!」
サイクロプスの懐に入った二人が、サイクロプスを中心に交差し、その分厚い胸板を×の字に切り裂く。
だが浅かった。
一切の手加減の無い二人同時の攻撃でも、サイコキネシスの壁が消えた隙間を狙っても、サイプロプスの体はさらに強靭だった。
彼女がいなくなった。
奪われた!
彼女の移送中に襲撃され、ナンバーセブンが奪われた。
なんてことだ!
彼女を取り返さなければ。
相手はソーサリーメテオ。裏社会の暗殺組織。裏社会の脅威。
それでも取り返す。
彼女を、絶対に取り戻す!
たった一人の僕でも、彼女を救いだしてみせる!
「いくぞ! とっておきだ!」
凉平が片腕をサイクロプスへ突き出す。
そして詠唱を始めた。
「翔けろ――」
片腕から光の帯が後ろへ伸び、光の粒子を撒き散らせて激しく輝く。
「銀翼の剣!」
凉平の腕が光をまとって大剣を成す。
「疾光剣!(ブーステッドソード)」
呪文の開放と共に、凉平が高速で飛翔する。
文字通り飛ぶような高速の移動。光熱をまとった光の剣でサイクロプスへ斬りかかる。
その勢いはサイコキネシスの壁も突き破り、サイクロプスの身を裂いた。
ほぼ直角鋭角的な軌道修正で、さらに凉平が何度もサイクロプスと交差し斬りかかる。
深く浅くも、サイクロプスの体が斬り刻まれる。
だが――
トドメとばかりに高速移動を上乗せして放った光剣の突きを、サイクロプスは自身の腹に突き刺さると同時に掴み取った。
凉平がさらに光剣を押し込む。サイクロプスが耐える。
膠着状態が続くかに見えた、だが。
「ああああああああああ!」
サイクロプス――シックスが叫びながら腹に刺さった光剣を引き抜き、凉平ごと高く持ち上げ、そのまま地面へ叩きつけた。
凉平が激しく地面に叩きつけられ、肺から息を吐き出す。
「このぉ!」
サイクロプスが足を振り上げ、凉平を踏み潰そうとする。
そこへ、サイクロプスの背中に誠一郎のファイヤーボールマグナムが立て続けに叩き込まれる。
バランスを崩したサイクロプスが凉平を踏み潰し損なった。
凉平に黒い縄が絡み付いて体が引っ張られていく。
見れば、黒刀を縄状に変化させた麻人が凉平を素早く回収していた。
「貴様らぁ!」
シックスが大声で四人へ怒鳴り散らす。
そこへ麻人が仕掛ける。
「挟め!」
サイクロプスの足元の瓦礫――麻人が支配した石材が動き出し、サイクロプスの両側に巨大な石版が現る。そして素早くサイクロプスを挟み込んだ。
「圧縮!」
麻人が突き出していた片手を強く握ると同時に、サイクロプスを挟み込んだ石版が球状の形になって縮む。
「爆破!」
命令通りに、サイクロプスを覆っていた石材が大爆発を起こした。
「やったか……」
目を覚ました凉平がうめくように確認する。
「……いや」
麻人が否定した。
それでも――ここまででも、たとえそれでも、
サイクロプス。ナンバーシックスという少年は立ち上がった。
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