第2章
第41話 第2章 プロローグ
温かい日差しを感じる4月の初頭、立派な石畳の道を1人の少女が歩いていた。
「今日から私も学園生かぁ・・・」
少女の名は『イリアス・ロバニエル』、今年学園へと入る新入生だ。
「はぁ・・・」
彼女は憂鬱そうにため息を吐くが、これは仕方のない事だった。
「・・・厄介な方達に目を付けられなければいいなぁ」
彼女が今日から入学する学園は王国唯一の国立学園で、平民も入学は出来るのだが、王国に所属する上位から下位すべての貴族の子息・子女達もこの学園へと集まる為、平民であるイリアスは、上位貴族の子息・子女に目を付けられ酷い目に合わないかと心配しているのだ。
「願わくば無事平穏に卒業できます様に・・・もっと願うなら・・・す・・・素敵な恋人とか見つかったら嬉しいなぁ~・・・なんて・・・」
学園は学問の場ではあるのだが出会いの場でもある。
特に貴族出身の者はコネクション作りも大事である為、彼ら彼女らは学園での交流を盛んに行っているのだが、その交流によって婚約者が出来る者も多数いる。
そしてごく一部だが、平民でもここでの出会いから平民同士で恋人関係になったり、凄い者だと貴族と婚約関係になる者もいたりする。・・・まぁ平民と婚約するのは下位貴族の次男や3男ぐらいだが。
「・・・って言っても、恋愛なんてしてる暇はないかぁ・・・なるべくいい成績で卒業して、いい条件の所へ就職したいしね。よし、がんばだぞ私っ!」
平民で学園を出会いの場にしているのは一部と言ったが、これは教育の度合いや卒業後のコネによるところが大きかったりする。
貴族の場合だと予めある程度勉学を治めてから学園へ来たり、卒業後も家の紹介で仕事があったりするので恋愛をする余裕もあったりするのだが、平民だと『勉強は最初から』『卒業後の就職は学園の成績が響く』となっているので、恋愛にうつつを抜かしている暇が無かったりするのだ。
それも裕福な商会の子供とかならば問題なかったりするのだが、イリアスは極々普通な家の子なので、余裕はそれほどないのだ。
「でも、夢を見るくらいならいいよね。例えばそう・・・あんな感じのカッコイイ人に求婚されちゃったりして・・・」
イリアスは離れた場所にいる集団の人物をチラリと見やる。
「カッコイイなぁ・・・」
その人物はまるで王子様と言わんばかりのルックスをしていた。
すらりとした体型に凛々しい顔をしていて歩く姿勢もとても綺麗、髪と瞳の色こそ少し残念な色だが、それを除けばまさにパーフェクトだった。
「そしてあれだけカッコよければ人も寄ってくるよね・・・。あ、でもあの色だと貴族様の可能性は低いし、私もお知り合いになれるかも?」
本日は新入生しか登校しない日であったことから、その人物も新入生だと思われた。なのでイリアスはさり気無く挨拶だけでもして、あわよくば知り合いの関係になり、そこからステップアップしていければ・・・と淡い期待を抱いた。
「・・・チャンスは逃すべからずよね」
イリアスだって夢見る乙女、もしかしたらあの人が自分の運命の人かもしれないと思い勇気を出してその人物へ声をかけた。
「こ・・・こんにちは~・・・」
しかしイリアスには1つ大きな失敗があった。
「・・・はい?」
それは、その人物がカッコいいと思うばかりに、周りにいる人達が見えていなかった事だ。
「誰ですアナタ・・・?」
「・・・ぴぇっ!」
イリアスは、そこで初めてその人物の周りにいた人達に気付き焦ってしまう。
その人物の周りに4人の少女が居たのだが、恐らくだがその4人は貴族だったのだ。何れの人物も少し派手な装いをしており、イリアスに『誰?』と言った少女は特に派手で、ウェーブが掛かったツインテールが特徴的だった。
「えっ!?あっ!あの・・・私・・・」
「・・・」
焦るイリアスをツインテールの少女はジロジロと見て来たかと思うと、持っていた扇子を口元で広げて突然笑い出した。
「ノ~ッホッホッホッホ!」
「「「クスクス・・・」」」
ツインテールの少女が笑い出したと同時に、周りにいた赤・黄・青の髪色をした少女達も小さく笑い出し、イリアスは心の中で『っひぃ!?やってしまいましたぁぁ!』と内心パニックを起こしてしまう。
しかしここでおかしな動きをしようものなら余計に不況を買ってしまうとイリアスは考え、少しでも印象がましになる様に直立不動になって次の言葉を待つことにした。
「貴女・・・あてぃくしが誰か知っていて?」
「申し訳ございませんっ!私は無学な平民でございまして!貴女様の事を存じ上げておりません!」
イリアスはここで嘘をついてもまずいと思い盛大に震えながらも正直に答える。
実はイリアスには少々事情があり、世間の噂等に少し疎く、かろうじて自分の住む王国の国王の名前を知っているくらいだったりするのだ。
「あてぃくしが誰だか知らない・・・?」
「ぴっ!申し訳ございません!」
ツインテールの少女はイリアスの答えが気に入らなかったのか、聞き返してくる。
その少しドスが聞いた様な声に怯え、何もできないでいると・・・
「ちょっと頭が高いんじゃないの?・・・ねぇ貴女達?」
「「はい」」
「あわ・・・あわわわ・・・」
ツインテールの少女が周りにいた2人目配せをすると、その2人はイリアスの肩に手を置いて強制的にイリアスを土下座の体勢へと変えた。
その最中にチラホラと通行人・・・イリアス達と同じく新入生が、『うわ、あいつ終わったわ』という様な表情をしながらそそくさと通り過ぎていったのをイリアスは見てしまい、絶望してしまう。
お父さん、お母さん、折角学園に入れてもらったのにごめんなさい・・・とイリアスが心の中で両親に謝ったところでツインテールの少女が再び笑った。
「ノ~ッホッホッホ!そうですわね、折角ですから貴女にあてぃくしの名前を教えて差し上げるわ!光栄に思うのですねぇ!」
ツインテールの少女はそう言った後、少し息を溜めて口を開く。
「ノ~ッホッホッホ!そう!あてぃくしの名はアー・・・・「オ~ッホッホッホ!
ツインテールの少女が高笑いを決めた後に名前を言おうとした時、突如離れた所からもう1つ高笑いが聞こえ、ツインテールの少女の名乗りに言葉を被せて来た。
イリアスはこの時『ひぃぃ・・・新しい貴族様が参戦して来たぁ・・・これ以上私にどうしろって言うのぉ~・・・』と心の中で号泣していたのだが、その心の内はすぐに戸惑いへと変わった。
「その前に・・・貴女、大丈夫ですの?」
「・・・ふぇ?」
新しく表れた人物がイリアスを気遣う様な声をかけたかと思うと、「「っきゃ!」」という声と共に押さえつけられていた体が軽くなったのを感じ、体がぐんっと浮き上がり立った姿勢に戻ったのだ。
「・・・ふぇ?ふぇ???」
「怪我はないかしら?」
姿勢が戻って混乱しているところに後ろから声をかけられたので振り向くと・・・イリアスはあまりの衝撃に叫んでしまう。
「ふぇぇぇええ!?」
「?」
なんせ、イリアスが今まで見たことがない、これぞ『お嬢様』と言う人物が居たからだ。
「エ・・・エレガントすぎます!」
その『お嬢様』は姿もそうなのだが、佇まいも普通と違っていた。
唯こちらを見て立っているだけなのだが、その姿勢・所作が美しく、神秘的な容姿と相まって女神かと思うほどだった。
「な・・・七色の色彩・・・もしや・・・しかし美しいわ・・・」
「ふ・・・ふつくし・・・っは!?ア・・・アーデリンド様、不味いですよ。きっとこの方はあの・・・」
その圧倒的オーラに、イリアスにいちゃもんを付けていたツインテールの少女達も圧倒され、ぼそぼそと何やら小声で言いあっていた。
そして何かを決めたのか、頷いていると思ったら・・・
「ノ~ッホッホッホ!そう言えば急いでいるんでした!あてぃくし達はこれで!あ、ノワール様、またお会いいたしましょう!・・・それではっ!」
「「「御機嫌ようっ!」」」
一方的にまくしたて、校舎の方へと足早に去っていった。
「・・・えぇ?」
イリアスはそのあまりにも早い変わり身にポカーンとしてしまい、すぐ横に『お嬢様』が居るのも忘れて呆けてしまったのだが、肩にポンと手を乗せられたことで現状を思い出した。
「・・・っは!?あ・・・あの!私・・・!」
「よろしくってよ。災難でしたわね」
「は・・・はい・・・ありがとうございました。あ・・・!あの、私イリアス・ロバニエルって言います!」
そこでイリアスは助けられたことに気付き、『お嬢様』にお礼を言って自分の名前を告げる。
覚えてもらえないとは思うがもしかしたら記憶の片隅にでも残ってくれたら嬉しい、そんな事を思うほどこの『お嬢様』に惹きつけられたのだ。
『お嬢様』はそれを知ってか知らずか、イリアスの心を悶絶させるような特大級の笑顔を見せてから口を開いた。
「私の名はマシェリー・フォン・オーウェルスと言いますわ。よろしくお願いいたしますわね」
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マシェリーより:お読みいただきありがとうございますわ。第2章開始ですわよ!
「面白い」「続きが読みたい」「時間飛んでんねえ!」等思ったら、☆で高評価や♡で応援してくだされば幸いですわ。
☆や♡がもらえると 私の9~11歳編が見れますわ。
マシェリーの一口メモ
【第2章、学園編が始まりましたわ。因みにですが、学園は必ずしも12歳で入るという訳ではなく、遅い方なら18歳で入る方もいましてよ。これは貴族の付き人問題の為の措置でもありますわ。】
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