第39話 小さな魔法使いの死闘

 突然聞こえた悲鳴、それは遠くからではなく近くから聞こえた気がして・・・


「うっ・・・ぎぃ・・・ア゛ア゛ア゛゛ァァァ!」


「マ・・・マルシア!?」


 悲鳴を上げていたのは・・・マルシアでした。


 そのマルシアの足には一本の矢が刺さっていて、直ぐに何が起こったのかが解りました。


「狙撃っ!サマンサとシーラも気を付けてくださいまし!きっとこれは・・・」


「あぴぇぇあああ!」


「ぎっ・・・あ゛あ゛ぁ!」


「きっとこれは・・・なんですぅ?お嬢様ぁっ!」


「がっ・・・!」


 サマンサとシーラに何が起こったのか伝えようとしたところで既に遅かったらしく、2人の悲鳴が聞こえたと思ったら急に腹部へ痛みが走り吹き飛ばされ、その後髪を掴まれ顔を上げさせられました。


「も~っ、勝手に出ちゃだめじゃないですかお嬢様。そのせいでお友達があんなことになっちゃいましたよ?」


「うっ・・・く・・・あぁ・・・」


 私の髪を掴んで耳元で喋った後、私にマルシア達の事を見せつける様にグイッとそちらへ顔を向けさせられます。

 すると・・・見てしまいました・・・。


「ぐぅっ・・・あぐぅ・・・」


「ひはっ・・・ひはいぃ・・・」


「・・・あぅぅ・・・めがぁ・・・」


 3人の少女の酷い傷を・・・

 マルシアは右足の膝を撃ち抜かれ、サマンサは両ほほをぱっくりと切り裂かれ、シーラは目の付近から血が流れ出ていて、3人が3人ともかなりの重症だと思われる傷を負っていたのです。


「レ・・・レッドォ・・・!」


「えぇ~?怒っちゃいましたぁ?でもお嬢様達が逃げるから悪いんですよ?そのままにしてたらちゃんと綺麗なままで売って差し上げたのにぃ。まぁでも、一番売れそうなお嬢様が無傷だからいいかぁ~!きゃはっ!」


「レッドォオォ!」


「レッド、黙ってさっさと動いて。さっさと連れ戻して処置しなきゃこいつらが死ぬ」


「解ったよイエロー」


 怒る私を煽る様に喋っていたレッドはイエローに言われ、マルシア達を回収しようとしていたカラーズの他の面々に合流しようとして私を引きずっていこうとしました。

 しかし私から意識をそらしたのがやはり爪が甘いと言う所でしょう、どうやって私達が脱出したのかを見せつけてやることにしました。


闇のだーく・・・ぼーる・・・」


「えっ・・・っぎゃあ!」


「レッド・・・?」


 レッドは油断していたのもあって、至近距離から無防備に私の魔法を受けて吹き飛んでいきました。

 髪を掴んでいたレッドが吹き飛ばされて自由になった私は、続いてまだ事態が飲みこめていなさそうなカラーズ達にも魔法を放っていきます。


「吹き飛びなさい!闇の大腕だーくはんず!」


「「「ガッ・・・!」」」


 闇の腕を魔法で作り出し、それでカラーズの面々をマルシア達から遠ざける様に吹き飛ばすと、私はマルシア達の方へと駆けていき様子を見ます。

 遠目に見ただけでも酷かったのですが、近くに寄ってみると更にその酷さが解ってしまい応急処置だけでもしなければ不味い事に気付きました。


「な・・・なにか!包帯とか入ってませんの!?」


 3人とも血が多く流れているので止血をしなくてはいけないのですが、アイテムボックスに入っているかは確認していません。

 なので急いで確認をすると、『ヒーリングポーション』が入っていることに気付いた私は心の中でガッツポーズをします。


(よしっ!包帯よりもいいものですわっ!)


 ヒーリングポーションは名前の通り傷を癒す魔法薬、実際に使っているところを見たことがないので効果の程は解らないのですが、少なくとも包帯を巻くよりかは効果があるはずです。

 アイテムボックスには5本入っていたので、その内の3本を引っ掴み・・・使い方が解らなかったので取りあえずマルシアの傷へとかけてみます。


(若干血の滴りが弱くなった気がしますわね。ならサマンサとシーラにも!)


 どうやら患部にそのままかける方法でも効果があったので、サマンサとシーラにも1本ずつぶっかけ、その後残り2本をサマンサへと渡します。


「サマンサ!もし誰かが不味そうなら追加で使って差し上げて!勿論貴女が使ってもらってもよろしいですわ!ですが残りは2本しかないので、よく考えてくださいまし!たのみましたわよ!」


 時間が無いため一方的にまくしたてた後、サマンサの体に触れたままカラーズを吹き飛ばした方へと向き魔法を使って追撃を仕掛けます。


雷の渦さんだーぼるてっくす!」


 初級の雷魔法ですが、そこそこに強力で範囲も広い魔法を放ち攻撃を仕掛けますがこれだけでは安心できません。

 なので放てるだけ魔法を放っていきます。


「ブラックホール!・・・発動しませんか・・・なら影の千槍!・・・もだめですの?なら・・・闇の渦!」


 ですが、今の私にどれくらいの魔法が放てるのかが解らなかったので適当に詠唱をしていきます。

 結果は、恐らく初級ならいけるという感じだったので、使えるところまで使っていきます。


「闇の渦!闇の渦!闇の渦!闇の渦!・・・・・」


 雷の渦の闇魔法版、闇の渦を連続で使いカラーズに攻撃を仕掛けますが、正直当たっているのかダメージになっているのかも解りません。

 しかしとにかくこのチャンスに攻撃を続けなければ勝ち目がないと思ったので、がむしゃらに魔法を放っていくと・・・


『ズゴゴゴゴゴ』


「・・・っ!」


 魔法の向こうから岩の波が押し寄せて来たので慌てて避けます。

 幸いにも雷の渦を放った後に場所を移動していたのでマルシア達は巻き込みませんでしたが、あれを食らったら私でもひとたまりもないでしょう。


「お・・・お前まだ精霊の儀うけてないはずでしょ!?何でっ!」


「レッド、今はそれよりどうにかするのが先だ。ブラウン!」


「応!」


 恐らく先程岩の波を使ってきたカラーズの1人でしょう、ブラウンと呼ばれた人物が何かを唱えながら地面に手を着くと、先程と同様岩の波が私を襲ってきます。

 先程は何とか避けれましたが、今度は先程より範囲が広いので避けれないと考え、ならばとこちらも魔法を使います。


闇の大腕だーくはんず!」


 岩の波にぶち当てる様に闇の大腕を使い、強引にせき止めます。上手く相殺出来た様で、岩の波は私に届く前に止まり、私には傷1つありませんでした。

 しかしそれなら数で攻めると言わんばかりに、カラーズの他の面々から魔法が飛んできます。


「・・・っく!闇の大腕!闇の大腕!っきゃぁ!」


 1発2発なら何とか相殺出来たモノの流石に数が多く、近くに被弾した魔法により私は吹き飛ばされてしまいました。


「・・・っく!まだ・・・まだぁ!」


「いーえ、終わりよ。動いたら・・・殺すよ?」


「・・・っ!」


 未だ負けるわけにはいかない!近くにいる3人の少女の事を思い立ち上がり、再び魔法を使おうとしたのですが、首筋にひやりとした感触を覚え動けなくなります。


「魔法を使えるのには驚いたけど、所詮ガキよね。懐に潜りこんだらどうとでもなるわ」


「・・・」


 レッドはそう言ってピタピタと首筋を刃物で叩いてきますが・・・その通りです。所詮私はまだ8歳の少女、動き自体はそこまで早くなく体力もないので近接戦闘は不可能です。

 それを覆すほどの魔法の才は確かにありますが、それもまだ未熟も未熟、3流盗賊団の魔法使いにも勝てません。


「という事で、ジ・エーンドね。大人しく売られなさいお嬢様ぁ?魔法で変化させていたと思っていたその髪や瞳も本物だと解ったし、高く売れるわよアナタ?」


 カラーズの者達は私の髪や瞳が魔法で変化させたものだと思っていたみたいでした。まぁ確かに本当にこんな色をしていたら5色も6色も魔法の属性がある事になりますから、普通は信じられませんよね。

 しかし私のこの髪色は目立ちますから、絶対に噂が漏れる筈。一先ず大人しく売られ、オーウェルス家の救出を待つと言う手も・・・


(でもあの3人が無事に助け出されるかはわかりませんし、それに売られ先次第では・・・まぁそれは私にも言えますわね)


 ゲームですと牢屋に入れられて『捕まっているんです』と台詞を言うだけで済みますが、ここは現実、下手をすれば変態の玩具になって・・・


(でもここからどうしたらいいんですの・・・とてもじゃないけど巻き返せませんわ・・・)


 私達が脱出を成功させる道は敵と遭遇せずに逃げ切る道しかありませんでした。なので敵に見つかった時点でほぼほぼ詰みが確定していたのです。

 ワンチャン魔法で仕留められると言う未来もあったのでしょうが、結果は先程の通りで、多少怪我は負わせても倒すまでには至らず、私の魔法は全くの無力でした。


(所詮8歳児ですのね・・・悔しいですわ・・・)


 魔王に成ると息巻いても、中身は元平凡な人間と失敗する事が確定していた悪役令嬢、気持ちと実力が釣り合ってくれませんでした。


 ・・・と、自分では思っていたのですが、敵側はそう思わなかったみたいで・・・


「いやレッド、そいつは殺しておこう。危険だ」


(・・・えっ!?)


「なんで?高く売れるよきっと?」


「また逃げ出されてもあれだしね。魔法も使えるなら余計にだよ。ココの近くだと魔法使いを監禁して置けるところないし」


「あー、確かに?」


「あれだったら・・・剥製とかにして売ったらいいよ。それか瞳だけとか」


「あー!確かに!」


(・・・まじですの?)


 3流盗賊団とか言っていましたが、こいつらちゃんとやばい奴でした。


「んじゃあサクッとやっちゃって・・・死体だけもってかえろっか」


「ああ、商品はあの3人だけでいいでしょう。多少傷ついてるけど元がいいから売れるはずだ」


「だね」


 私は何も言う事も出来ず、話はあっという間に進み・・・



 レッドの持っていたナイフが私の首へと吸い込まれ・・・



「んじゃお嬢様、まったね~」



 そんな言葉が聞こえたと思ったら私の視界は・・・黒くなりました。



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 マシェリーより:お読みいただきありがとうございますわ。 

 「面白い」「続きが読みたい」「・・・え?」等思ったら、☆で高評価や♡で応援してくだされば幸いですわ。

 ☆や♡がもらえると 私は安らかに・・・


 マシェリーの一口メモ

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