第2話 マシェリー・フォン・オーウェルス

 マシェリー・フォン・オーウェルス


 彼女は乙女ゲーム『六人の魔王と藍の聖女イリス』通称『ロマンス』に登場するキャラクターで、立ち位置は主人公のライバルポジションの悪役令嬢を務める。

 彼女は魔法があるこの世界でも珍しく、普通は1つの属性を扱えるだけでもすごいのだが6つの属性を扱えると言うチートキャラクターだ。

 だがその性格と家柄が故に、碌に力の扱いを学ぼうともせず権力を行使し他人を痛めつける事を好む・・・という設定のキャラクターだ。

 そんな彼女は、平民だが特別枠で学園へと入って来た主人公のイリスが気に入らず、いつも通り権力を行使しイリスを痛めつけるのだが、色々な要因が重なり失敗に失敗を重ね、最後には必ず破滅を迎える事になる。


「俺がそのマシェリー・フォン・オーウェルスだっていうのか・・・?なんで・・・なんでなんだ!?」


「お嬢様、マシェリ―・オーウェルスでございます。・・・それと言葉遣いが悪うございます。それではまた御当主様と奥様にお叱りを受けてしまいます」


 俺が自分の現状に困惑と悲観をしていると、漏れ出た言葉を聞きつけたメイド服の女の子が助言をしてくる。


 今はそれどころじゃないんだ!と言おうとしたところで、ふと気づいた。


「・・・ノワール?ノワール・マクリス?」


「はい?何でございましょう?」


(ノワール!影のノワールだ!)


 このノワール・マクリスと言う・・・女の子?


(ええっ!?ノワールって男じゃなかったのか!?)


 このノワールと言う女の子、マシェリ―に仕える使用人兼護衛で、使う魔法と容姿、そして常にマシェリ―の背後に控えていた事から影のノワールとよく呼ばれる。

 ゲームに出ていた時は男の恰好をしていたので、俺もてっきり男だと思っていたのだが、実は女の子だった様で、そのせいで気付くのが遅れてしまった様だ。


(ノワールが女の子って・・・これは大発見!って今はそんな場合じゃない!)


 恐らく開発者以外は知らなかったであろう設定に気付き喜んだが、今はそんな事を喜んでいる場合ではなかった。


(何で俺はロマンスの世界にいるんだ!そして何で寄りにもよってマシェリ―なんだ!?)




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『六人の魔王と藍の聖女イリス』通称『ロマンス』


 舞台は中世ヨーロッパ風な魔法がある世界。


 ゲームの物語としては、この世界にいる赤・橙・黄・緑・青・紫と色の名前がついた六人の魔王と主人公のイリスが心を通わせ、その一人と協力して他の魔王を降し世界を平和へと導く、という感じになっている。

 因みにトゥルーエンドとして、六魔王全てと心を通わせ逆ハーレムハッピールートというものもある。


 物語の始まりはイリスが12歳になり国立の教育機関である学園に入る所からだ。

 学園に通いながら、ADVパートで魔王達と絆を交わし、RPGパートで自キャラの強化や攻略していない魔王を攻めたりしてゲームを進める。

 ある程度自キャラを強化しないとADVパートでのフラグが建たず選択肢が出てこない等、乙女ゲームとしては少し難易度が高いモノにはなっているのだが、推しの魔王の為ならば!と、女性達は嬉々としてRPGパートも進めていたという。


 だがそんな女性達の行く手を阻みヘイトを買う高き壁が存在した。


(それが6つの属性を操るチートキャラクター、マシェリー・フォン・オーウェルスとお付きのノワール・マクリス・・・そう、俺達でーっす)


 何故ロマンスの世界に居て俺がマシェリ―になっているのか、そんな事考えても一ミリも解らなかった俺は現実逃避し始めていた。

 その一環として長々とロマンスの設定等を思い出していたのだが、マシェリ―の事を思い出したら現実に戻って来てしまった。


(何で悪役令嬢なんだよ!男なんだから魔王にでもならせてくれよ!あぁぁ生まれ変わりてぇぇ!・・・生まれ変わり?)


 頭の中で嘆いていたのだが、それで閃いた。


 これは所謂・・・転生というやつか?


 俺はゲームや漫画が大好きな所謂オタクという奴だ。その中に転生物と言われるジャンルがある。

 異世界に生まれ変わりそこで成り上がるとか、突然死んでしまい神様に力をもらい異世界へと飛ばされて無双する等だ。

 その中には、死んで生まれ変わったらゲームやアニメのキャラクターだったと言うのがあるのだが・・・俺の今の状況はまさにこれっぽい。


(いやまてよ・・・)


 しかし待てよと俺の中のガイアが囁く。

 転生物ではあるのだが少し違うジャンルに『転生・恋愛』というものが存在するのだが、これには『転生したら乙女ゲーのヒロインだった』とか『転生したら悪役令嬢だったが攻略対象と恋人になる』とかがある。


(つまり悪役令嬢になってしまった俺は、魔王と恋人になる可能性が?)


 これが所謂『転生・恋愛』ジャンルならそれもあり得るかもしれない。


(それは流石にごめん被る!!)


 俺は寒気を覚え頭をブンブンと横に振りまわした。それを見てノワールがまた心配しているが、俺にはそれに構う余裕がなかった。


(そうだ!よくある悪役令嬢回避フラグ!)


 男と恋愛なぞまっぴらごめんな俺が知恵を振り絞り、考え付いたのはそれだった。


(主人公と対立して嫌がらせをするから駄目なんだ!ネット小説でも主人公と仲良くして破滅回避とかあった気もするし!)


 大人しく過ごせば破滅もしないしいいのでは?と考えるのだが・・・


(いやまてよ・・・?)


「ノワール・・・今オーウェルス家とアークレッド家って仲がよかったりする?」


「半月程前からよろしいですね。現在も御当主様はアークレッド家へとご訪問中でございます」


(あかーーーん!)


 マシェリ―の事を思い出していたら、破滅の要因の一つとしてアークレッド家と共謀しての闇取引というのが出て来た事を思い出した。

 全てのルートでこれが明るみに出るという訳ではないのだが、不味い事には違いなかった。


 それによくよく考えれば、主人公と対立せず学園を無事に卒業し、アークレッド家との闇取引が明るみに出なかった所で、国の公爵家であるオーウェルス家の息女である自分は強制的に結婚させられるだろう。

 そうなると自分は男と夜を共にし・・・


「アッー!」


「お嬢様!?」


(よ・・・夜のレスリングは勘弁だっ!)


 このまま行くと俺は強制的にメスになってしまう。それは流石にごめん被る!


 だが・・・


(かといって家を出たところで連れ戻される未来しか見えないし、この世界で俺は1人生きていけるのだろうか・・・)


 現実的に考えると、公爵家令嬢の自分が家を出たところで国に手配書等が回り連れ戻されるだろうし、ゲームとして知っているだけの異世界で自分一人で生きていけると思えない。よしんば世界の事は追々理解できるとしても、自分の身分の事はどうにもならなさそうだし・・・。


「ど・・・どうなされたのですかお嬢様?ご機嫌でも悪いのですか?ならまた魔王ごっこでもなさいますか?」


「いやしないし・・・。っていうか何で魔王ごっこ・・・ふむ」


 俺が一人で百面相しているとそれが機嫌が悪くなっていると感じたのか、ノワールが遊ぶことを提案して来たのだが、その提案して来た遊びを聞いてふと思った。


(魔王・・・魔王ね・・・)


 何故魔王ごっこ等という不思議な遊びをしていたのかはさておき・・・


 魔王、それは絶対的な力を持った者達。

 ロマンスの魔王は一般にファンタジーに出て来る、魔物を操って国を壊滅させたりするとかではないのだが、立ち位置的には似ている。

 何物も逆らえない力を持つモノ、一国の王でさえも気を遣わなければいけない存在。


「そうだな・・・うん」


「?」


 半端に力を持った破滅する運命の悪役令嬢よりよっぽどいい。


「ノワール・・・俺、魔王になる」



 俺は・・・悪役令嬢は嫌なので、魔王になろうと思う。



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 作者より:お読みいただきありがとうございます。

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