渡辺卓也⑤

彼女がビルから出てくるのを確認すると、急いでカフェを飛び出した。


朝とは違う店員が「ありがとうございました」と頭を下げてくる。


1日中座っていたせいか、腰に鈍い痛みを感じたが、そんなものに構っている暇はない。


朝と同じように、一定の距離を保ちながら、美咲の後を追いかけた。


彼女は少し急いでいるようで、電車を乗り換える時は見失わないか心配だったが、最後まで目を離さなかった。



彼女が降りた駅は、僕の家からも近かった。


同じ公立中学に通っていたので、実家が近くにあるということは予想していたが、そこに住み続けている保証はなかった。


しかし、おそらく彼女はまだ実家を出ていないということだろう。


駅からしばらく歩いたところで、美咲は商店街の中にある美容院へ入っていった。


予約をしていたから急いでいたのだろう。


店内に入ると、美容師と親しげに話している。どうやら、ここが彼女の行きつけのようだ。


僕は、近くにあるコンビニで立ち読みするふりをしながら、彼女が出てくるのを待った。



1時間ほどで彼女は出てきた。


肩にかかる髪はきれいに切り揃えられ、美しさに磨きがかかったようだ。


改めて僕は、彼女を手に入れたいという気持ちを強くした。


そのあとも追跡を続けていると、5分ほど歩いたところで、一軒家に入っていった。


表札には、彼女の名字である「田中」の文字がある。


ここが美咲の家と見て、まず間違いないだろう。


左胸に手を当てると、心臓が大きく脈打っている。


僕は、彼女との距離がどんどん近づいていることに、興奮を抑えきれなかった。



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