第一章

悪役として

第一話

「……?」


 見慣れない天井、見知らぬ部屋。爽やかな朝日を感じで瞼を開けると身に覚えの無い場所にいた。

 何が起こっているのか分からず、しばらく呆然としていたが状況は変わらなかった。

 柔らかな寝具に肌触りの良さそうなカーテン、高級感あふれる家具。誰が見ても明らかに場違いだと指摘されそうだが、周辺には誰も居なかった。


(……何かのドッキリか?)


 とりあえず行動しようと立ち上がり部屋の四隅にあった姿見を確認すると、そこには黒髪の少年がいた。

 深みのある黒髪に青い瞳、パーツ一つ一つが整った作り物じみた顔。アニメやゲームの登場キャラと言われても差し支えない、自分とはかけ離れた姿がそこにはあった。


(何じゃこりゃーー‼︎)




✳︎✳︎✳︎✳︎




(えっ⁉︎ 何だこれ……ドッキリにしては出来過ぎだろ!)


 見た目が違えば歳も違う。十代過ぎと思われる少年は変わらず姿見の前に佇んでいた。


(……これはまさか、他人へ憑依したとうやつか?)

 

 いきなりこのような話をすれば頭がおかしくなったと思われそうだが、頬を叩き、飛び跳ね、珍妙なポーズをしても同じ動きをする鏡の少年。 


(どうやら本当にこの少年へ憑依したようだ)


 どれだけ悩んでも時間だけが過ぎていき、現状を受け入れるしか無かった。


(というかこの子は小学生くらい? 若干若くなったたけど学校とかあるのかな?)


 今の若い子の流行りは何だろうと、くだらないことを考えていた浩人だが、ドアに数回ノックがされ現実に戻される。


「おぼっちゃま、失礼致します。」

 

 声の主は若い女性のようだった。


(ヤバい⁉︎ 誰か来た! どうするッ⁉︎)


 焦っているうちに再びノックと声が掛けられる。このままでは騒ぎになると思いとりあえず返事をすることに。


「聞こえている。入れ」


(……ん?)


 今のは誰の声かと疑問に思ったが入室して来た女性の姿を見てそれどころではなくなった。


(メイド⁉︎ しかもおぼっちゃまって何⁉︎)


 女性はいわゆる『メイド喫茶のメイド』ではなく、本職を思わせる上質な服装をしていた。




✳︎✳︎✳︎✳︎




 女性の話を要約すると、朝食ができたから伝えに来たとのこと。部屋の状況や『おぼっちゃま』呼び、メイドの存在から 


(寝ぼけて夢でも見てるのか?)


と考える浩人。

 

 着替えを済ませ、とりあえず食事に行くことにした。

 食事の場にはすでに二人の男女が席についていた。服装はいかにも貴族と思わせるもので、容姿からも少年の両親だと見当が付くが浩人が気にした点はそこではない。


(貴族におぼっちゃま。なによりこの二人は……)


「遅れたようだなジーク。時間は金で買えんといつも言っているだろうに」


 神経質そうな男性が苦言を呈する。


「もうジークも十二歳。いつまでも子供のままではいけませんよ」


 男性に続いて女性も注意を促す。 

 厳しさの中に親が子を思う様子が垣間見えるが浩人は冷や汗が止まらなかった。


(ジークってことはやっぱり……)


 金髪に青い瞳、そして特徴的な形をしたネックレスを首に掛けた男性。艶のある黒髪で、煌びやかな装飾品を複数身に付けた女性。

 何度も目にした二人組の。状況は違うが、間違えようが無い程記憶に残った組み合わせ。


(こいつら『悪徳夫婦』じゃねーか⁉︎ そしてこいつは『悪逆非道』の……)


 RPGゲーム『ウィッシュソウル』。その登場人物で、主人公サイドと複数の因縁を持つジーク・ラギアス。そのジークに憑依したことを認識した瞬間だった。

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