第27話 ついてきたフラン

(うっかりしてたな――)


 ガレナは自分の手を握りしめるフランを見て弱ったなと頭を掻いた。


「フラン。ここから先は危険だ。俺が一人で行こう」

「ですが、町の人が危険に晒されているのに放ってはおけません。確かに私は戦えませんが避難誘導ぐらいは出来ます!」

「しかし……」

「それにガレナはこの町のことまだ詳しくないですよね?」

「う、うむ……」


 フランはどうやら一緒についてくるつもりなようだ。ガレナとしては悩みどころだが、町について詳しくないのも確かだ。


 それに戦闘時に避難誘導する者がいてくれればガレナも戦いに専念出来る。ただ前にやりあった魔人はたまたま戦闘力が高くなかっただけだろう。今回もガレナの合気が通じるとは限らない。


 そう考えるガレナだが、フランの真剣な目を見てしまっては駄目だともいいずらかった。


「――むちゃだけはしないでくれよ」

「はい!」

 

 こうしてガレナは改めてフランの手を握り町に向かう。合気を使った移動だ。空気抵抗を完全に受け流した上で体に伝わる衝撃さえも受け流す。


 その上で合気を利用した反発力で速度も上昇した。音を置き去りにするほどの俊足だが合気によってガレナとフランへの負担はない。


 こうして一気に町まで辿り着いた二人である――






◇◆◇


 逃げ送れてるものがいたら救助を優先させろ_! それと相手は強敵だ。一対一でやりあおうとするな!」


 スライが叫び騎士たちが力強く返事する。町に魔人が現れたと聞きサリーは報告にスライは騎士と兵を連れて町までやってきていた。


 だが状況は芳しくない。街に出た魔人はかなりの強さであり例え数の上で優勢であっても単純な戦闘力の差で簡単に覆されてしまう。


「ウァァア、人間ゴロス!」

「チッ、化物が!」


 魔人の一人が力任せに大槌を上から下に振る。スライは攻撃を見切りサイドステップで躱すが衝撃で体が流されそうになった。


「馬鹿力が! だがこいつらからは理性の欠片も感じられんな――」


 そのことに引っかかりを覚えるスライである。襲ってきている連中は魔人特有の青白い肌をしており額から一本角も生えていた。


 これはある程度魔人の特徴に一致する。ただ、それでも違和感はある。何より知性が感じられない。


「殺ス! 人間皆殺死!」


 スライと負けず劣らずな肉体を誇る魔人が近づき斧を振るった。


「鋼鉄筋!」


 しかしスライはスキルを行使し魔人の一撃を受け止めた。このスキルは筋肉を鋼鉄のように固くする。


「筋渾の一撃!」


 スライが大剣を振り下ろすと魔人が大きく吹き飛ばされた。倒れた魔人を認めスライが鼻を鳴らす。


「フンッ! どんなもんだ!」

 

 筋肉を誇示するようにポージングを決めスライが言い放つ。だが魔人が再び起き上がり大きく跳躍した。


「くそ、こいつまだ!」

「キェキェキェェエェエエエエ!」


 空中で魔人が手をかざすと火球が連射された。


「こいつ詠唱もなしで!」


 スライが地面を蹴りバックステップで回避行動を取るが幾つか被弾してしまう。


「くっ! この程度!」

「キヒィイィィイイイ!」


 火球でスライが怯んさ隙に、魔人が距離を詰め伸ばした爪を連続で振るった。


 上下左右斜めと続き空間に爪の軌跡が残る。


「ぐがああぁあ! うざったいわぁああぁあ!」


 大剣を振り上げ斜めに振り下ろす。相手の魔人が咄嗟に屈むと刃が角に触れパキィイィンと切り落とされた。


「ア、ガ、ガァアアァアアアア!」

 

 このハイルの一撃により魔人は倒れ動かなくなる。


「こ、これは――そうか!」


 事切れた魔人を見てスライは何か気がついたようであり――


「お前たち角だ! 角を狙え! 魔人は角が弱点だ!」

「角――そうなのか!」

「弱点が見つかったなら勝てる!」

「流石ロイズ騎士団にこの人ありと言われた豪傑の騎士スライ様だ!」

 

 周囲の騎士や兵士から称賛の声が上がる。スライもまんざらでもなさそうだ。


「やれやれ、やはりこいつらではこの程度か」

「ムッ! 何奴!」


 声に反応し振り返るスライ。視線を走らせるとそこに黒ローブを纏った何者かが立っていた。


「私は魔人イグル。冥土の土産に覚えておくといいだろう」

「戯言を!」


 魔人と聞くなり反射的にスライが飛び出し黒ローブの魔人を一刀両断にした。


「ふん。他愛もない」

「それは貴様だ馬鹿が」

「な、に?」


 再び耳に届く不気味な声。顔を向けると青白い肌をした魔人が立っていた。


「こ、こいつ、何だその姿は――」


 スライが怯む。魔人は全身に瘤がまとわりついたような体をしていた。


「ぶ、不気味な奴め」

「私は結構気に入ってるのだがね。それより私にばかり気を取られていいのか?」

「何だと? ムッ!」


 違和感を覚えたのかスライが自分の足元に目を向ける。黒い物体に蠢きスライの足元にびっしりと張り付いていた。


「な、何だこれは!」

「ククッ、私の可愛い下僕達さ。さぁ――喰らい尽くせ!」

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