第13話 ヒュドラを倒す

『ファjlkfカfjkァfァfjァfジャlfジャlkjfkァfァアッfjァ!』


 ヒュドラから悲鳴が上がった。ヒュドラの全身が毒によって爛れている。死んでこそいないが相当なダメージなのは確かだろう。


「まさかヒュドラが自分の毒でやられるとは……」

「うむ。流石であるぞガレナ!」

「ガレナ……凄い――」


 ガレナの後ろではフラン達が彼の合気に驚き興奮していた。一方でガレナの表情にはどこか動揺が見て取れた。


「こいつ、まさか油断させようと?」


 ガレナが独りごちると、ヒュドラが鎌首をもたげ大口を開けた。喉からこみ上げた毒液が集束され一斉にガレナに向けて放出された。


 直前のように広範囲に広げる形ではなく一点集中され光線のように一直線に突き進む。威力を重視した攻撃だ。


「むぅ、流石にあれば不味いぞ!」

「そんな――ガレナ!」


 スライが緊迫した声を上げフランが悲痛な表情で叫ぶ。


 そしてヒュドラの毒液放射に対するガレナの選択は――


「合気――」


 そう合気だ。合気以外あり得なかった。ガレナにとって唯一無二の武器がこの合気だからだ。決してブレることなく己が培った合気一つを信頼し行使する。


 その結果――ヒュドラの毒液は漏れなく全て受け流され放出したヒュドラに戻っていった。しかも威力を遥かに増大させてだ。


『――――!?』


 今度は僅かな悲鳴すら上げることはなかった。己が放った物よりも遥かに威力が上がった毒液を喰らいヒュドラの全身が溶け煙へと変化していく。


 後に残されたのは紫色に輝く輝石のみであった。


「何とまさかヒュドラを倒すとは。しかも残されたあれは、魔石か?」

「うむ。ヒュドラクラスになるとやはり持っていたか」

「綺麗……」


 サリーがガレナの偉業に驚き残された石にも注目した。その石の正体はスライの言う通り魔石であった。フランもその美しさに感動している。


 一方でガレナは魔石には目もくれずヒュドラが消滅した場所を見つめ何から考え込んでいた。


「いやいや、素晴らしい。まさかここまでとは」

「ハイル! 無事でしたか」


 戦いが終わりハイルが姿を見せた。


「ハイル。一体今までどこに?」

「いや、それが恥ずかしながらヒュドラに驚いてしまいつい隠れてしまってました」

「――隠れる?」


 ハイルが答えるとサリーの眉が軽く跳ねる。


「仕方ありません。あれだけの魔獣ですから」

「いや本当に面目ない。しかしガレナ様は凄まじい強さですな」


 ハイルはパチパチと拍手しながら前に出てガレナの背中に向けて称賛の声を上げた。


「――そうか。そういうことだったのか」


 その時だガレナが得心が言ったようにそう口にした。


「うん? 何がそういうことだったのだ?」


 スライがガレナに対して不思議そうに問いかける。


 ガレナが振り返るとその先でガレナの視線とハイルの視線がぶつかる。


「どうやら――危うく騙されるところだったようだ」


 ガレナが答える。ハイムの顔を見つめながら――


「……はて? 一体何に騙されると?」

「そんなこと、とっくにわかりきっていることだろう? 全く上手く擬態したものだな」

「……ま、まさか!」


 ガレナのセリフにサリーが狼狽する。


「待て、ガレナは一体何を言っている?」


 スライは何が何だかわかっていない様子だ。そしてフランの目は見開かれわなわなと震えていた。


「――なるほど。まさかそこまでとはな。しかしこれでも完璧に仕事をこなしたつもりだが一体いつから私がおかしいと思っていたのかな?」


 全員の視線がハイルに集中する中、彼からガレナに質問が飛んだ。


「む、おかしい?」


 その反問にガレナは内心焦った。質問の意図が掴みきれなかったからだ。


 ガレナは看破したつもりになっていた。あのヒュドラは偽物に違いないと、そう考えていた。何せAランク冒険者ですら苦戦するという相手がこんなに弱いわけない、とそう思っていたからだ。


 故にあの発言だった。ヒュドラは偽物に違いなくきっと本物と同じように擬態してヒュドラだと思い込ませていたのだろうと。


 だがそんなことは腕利きの二人の騎士であればとっくにわかってる筈、と一連のセリフはそういった思考から出てきた物だった。

 

 故にガレナからすればハイルの質問には謎が多かった。とは言えガレナは素直だ質問の答えを頭を絞って考える。


「――そう言えばフランがハイルは馬と心が通じ合っていると言っていた。だが馬からは常にプレッシャーが感じられた。そこが(今思えば)おかしい」

「くっ! 確かに言われてみれば!」


 サリーがハッとした顔を見せた。フランが口元を両手で覆っている。


 そしてハイルは――


「ククッ、カカカッ、ア~ッハッハッハ! なるほどなるほどとっくに俺の正体に気がついていたってわけか」

「お、俺、だと? おいハイル一体何を言って」

「近づくな汚らわしい!」

「グボッ!」


 ハイルの変化を怪訝に思ったのかスライが近づき声を掛けるがその細腕からは信じられないパワーでスライを殴りつける。


 重量級のスライがしかも重厚鎧を着込んだその身が紙くずのように飛んでいき幹にぶつかりへし折った。


「スライ! くっ貴様やはりハイルではないな!」

「ん?」


 サリーが叫ぶとガレナが疑問符混じりの表情を見せた。


「ハハハッ、確かにバレてしまってはもうこの姿は意味がないか――」


 そしてハイムが己の顔に手をやり、ベリベリと顔面を捲った。中からは全く別人の顔が姿を見せ体色も青白い色に変化し目玉は逆に血のように真っ赤に染まっていった。


「全くまさかこの姿を見せることになるとはな」

「そ、そんな貴方は一体?」

「ハハッ、これは失礼したな。俺は魔人ガイサ。お前達を全員始末する者の名前だ。地獄に行っても覚えておくがいい」

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