極めた【合気使い】の勘違い冒険譚~俺の【合気】が最強過ぎると言われてもFランク冒険者にも劣る外れスキルでしかないんだが?~
空地大乃
プロローグ
第1話 外れスキル合気
神官の前には今か今かと待ちわびる子どもたちの姿があった。この世界で人は十二歳になる年、儀式によってスキルを授かる事ができる。
ここカンナの町では年三回にわけて儀式が行われていた。一月から四月生まれが対象の前期の儀式は既に終わっており、今は五月から八月が対象の中期の儀式が行われている。
自分の順番が回ってくるのを今か今かと待ちわびる少年少女の中に彼がいた。名はガレナ。
癖のある黒髪と黒目が特徴的な少年だ。冒険者に強いあこがれを抱く少年だった。冒険者という職業はこの世界においては人気職だ。危険を伴う仕事だが数多くの英雄譚を誇る冒険者も多く時折やってくる吟遊詩人が冒険劇を奏で歌う度に少年少女の瞳も輝きを増したものだ。
ガレナもまた様々な英雄譚を耳にし育った。故に彼も憧れた。それは珍しいことではない。そして冒険者を目指す彼にとってこの儀式は非常に大事な物だ。
一体どんなスキルが身につくかはその時にならないとわからない。一説では本人の持つ才能や培ってきた経験でもある程度決まってくると言われているがそれも確実ではなく、これといった法則があるわけでもない。
故に運の要素が大きいともされている。一体どんなスキルが得られるか――期待も勿論だがスキル一つで大きく運命が変わることもある為、儀式を受けて結果が告げられる瞬間は誰もが緊張した面持ちになる。
「ふむ。君のスキルは伐採だな」
「ゲッ! 畜生ハズレたーーーー!」
目の前で一人の少年が頭を抱えた。伐採は文字通り樹木を切り倒すのが上手くなるスキルだ。確かに一見すると当たりには思えない。
「そう気を落とすこともない。この伐採のスキルは進化数が4派生率が40%でレアリティもC+だ」
「え? マジで! やった!」
しかし途端に少年は目を輝かせた。スキルには性能を表す項目がある。それが進化数、派生率、レアリティだ。進化数はスキルを鍛えることでより強力なスキルに進化できる回数を表す。
派生率はスキルを使用している時に別なスキルに派生する確率である。経験した者の話によると派生すると閃いた感覚があるようだ。
レアリティはそのスキルの希少性を表している。最低がEで最高がSだがまれにSSやSSSもある。また同じスキルでも性能差が生じることがあり、それによってランクに+や-が付く場合もある。
そして――いよいよガレナの番がやってきた。
「それではこれよりスキルを授ける。準備はいいかな?」
「よろしく頼む」
神官に問われガレナが期待を込めて返事した。神官が杖を掲げる。
「神よその御心を持ってこの子羊にスキルを授与したまえ――」
神への言葉を口にした途端、ガレナの中に何かが入り込んできたような感覚が訪れる。
「ふむ。これで無事スキルが与えられたようであるな。ガレナよ今後は自分で意識することで己のスキルについて知ることが出来る。さてお主のスキルは【合気】とあるな――」
基本スキルは鑑定などの特殊なスキルを用いなければ他者からは確認出来ないが、儀式を行う神官は授けたスキルの詳細を知ることが出来る。
故にガレナの【合気】について確認した神官が険しい顔を見せた。
「合気、それが俺のスキル……」
ガレナは早速自らのスキルを確認してみることにした。
所持スキル
・合気
進化数0 派生率0% レアリティSSS
効果
合気によって受け流す。
「う~ん……」
説明を見てもガレナはいまいちピンっとこなかった。だが神官の目が途端に残念な者を見るような目になったことに気づいていた。
「このスキルはどうなんだろうか?」
「……私も長年この儀式を続けてきたが合気というスキルを見たのは初めてだ。だが性能は残念だが微妙だろう。受け流すというスキルなら他にも存在するがこの合気は進化数が0つまり今後進化しない。派生率も0%。これは今後これ以外一切のスキルを覚えることが出来ないことを意味する。つまり――完全なハズレスキルだ」
それが神官から伝えられた残酷な結果だった。
「このスキルで冒険者にはなれるのか?」
「……残念だが他の道を目指すと良いだろう」
それがガレナに突きつけられた厳しい現実だった。ガレナが授かったスキルを知った少年少女は憐れむような目を向けてきたり小馬鹿にしたりと様々な反応を示した。
「あら? おかえりガレナ。それでどうだったのスキルは?」
家に戻ると叔母のミネルバが微笑んで出迎えてくれた。ガレナが生まれて間もなく事故によって亡くなった両親の親代わりになってここまでガレナを育ててくれたのが彼女である。
二十代半ばの叔母だが見た目にはかなり美しく凛々しくもぁる。亜麻色の髪は後ろで纏められていた。半袖のシャツに短めのズボンとラフな格好だがスタイルがよく胸も大きい為、妙な色気も感じさせる。
「合気というスキルだった」
「へぇ。それってどんなスキル?」
「それが――」
ガレナの説明を聞きミネルバは真顔になり、真剣な目でガレナに問いかけた。
「なるほどね。ガレナは冒険者になるのが夢だと言っていたけど……どうするつもりなんだい?」
ミネルバが問う。ガレナはまっすぐにミネルバを見て答えた。
「確かにハズレスキルと言われてるが、やれるところまではやってみたい」
「――そっ。なら止めないわ。自分が納得するまで試してみなさい」
ミネルバはやめろとは言わなかった。ガレナの意思を尊重したのだ。
そしてその日からガレナの修行は始まった。しばらくは町の中で合気を実際使ってみたり庭を使わせてもらいミネルバもよく練習に利用している木偶を相手に合気も試したりした。
「おいガレナ。お前何か特訓とかしてるんだって? 全く無駄なことはやめとけって」
ミネルバから頼まれ買い物に行った帰り、ガレナはライダンという少年に呼び止められた。
儀式の時、彼も近くにいたのだ。
「冒険者ってのは俺の初級剣術みたいに戦えるスキルや魔法でも持たないとなれないんだよ。そんな今後成長の見込めない合気なんてハズレスキルじゃどうしようもないぜ」
「知ってるかガレナ。ライダンはもう派生スキルを覚えたんだぜ?」
一緒にいた少年が自分の事のように得意がる。
「剣術みたいなタイプは派生しやすいんだったな」
「う、うるせぇ! ハズレスキル持ちが生意気だぞ!」
ライダンが焦った顔を見せつつ声を尖らせた。剣術や槍術などは確かに別のスキルに派生しやすいという特徴がある。
ガレナはただ知っていた知識を口にしただけだ。しかしライダンは別な意味に捉えたようだ。
「こうなったら俺が身の程ってのをわからせてやるよ。いっちょ俺と戦ってみようぜ」
木刀を片手にライダンが笑みを浮かべてガレナの正面に立った。
「それともそんなスキルじゃ怖くて戦えないか?」
「いや、ちょうどよかった。俺もどれぐらい合気が使えるか試してみたかったんだ」
「あぁそうかよ。だったらとっとと終わらせるぞ!」
ガレナが応じると早速ライダンが距離を詰め木刀を振り下ろしてきた。
「合気――」
しかしガレナは木刀の動きを読んで合気を発動させた。ライダンの攻撃が見事に受け流される。
「くそ!」
「合気――」
再度木刀で攻撃されるがそれも合気で受け流した。
「中々やるじゃん。だけど、逃げてばかりじゃ一生勝てないぞ!」
イタイところをつかれたなと感じるガレナ。合気はその性質上素手でなくてはいけない。だがただ受け流すだけでは相手に勝つことは難しい。
こうなったら相手が疲れたのを見て体術で攻めるか、とガレナは考えるがスキルもない以上どこまで通じるかは未知数だ。
「これで決めてやる」
「合気!」
「切り返し!」
相手の振り下ろしに合わせてガレナが合気を行使。だがタイミングから逃れるように剣の軌道が変化し脇腹に木刀が命中した。
完全なカウンターとなりガレナが地面を転がった。
「はぁ、はぁ。全く面倒な真似しやがって。でもこれで俺の勝ちだな」
「……あぁ。負けたよ」
ガレナは素直に負けを認めた。確かにライダンは派生スキルを覚えていると言っていた。それが今の切り返しなのだろう。
「これでわかったか? お前の合気は任意スキルだ。俺の切り返しも同じだが相手の攻撃に合わせないといけないお前のスキルではそれが欠点となるんだよ」
ライダンが得々と語る。そしてそれはガレナも痛感したことだった。ライダンが最初に覚えた初級剣術は常時スキルであり覚えてしまえば常に効果がで続ける。一方で任意は自分の意志で使うタイミングを決めないといけない。
その際にはスキル名を声にして発するのが望ましいとされる。一応は心で思うだけでも発動できるが効果が著しく落ちるのだ。
一方で声にする場合は声の大小でも効果が変わるとされている。
しかしガレナの合気の場合は声にすることで対処されやすい。完全に受け身なスキルであるからだ。任意スキルは発動直後に攻撃を受けるとカウンターという現象が発生しより多くのダメージを受けてしまう。
「ま、とにかく無駄な努力なんてやめておくんだな」
満足げな顔でライダンとその仲間が去っていった。一方でガレナは考えていた。確かにライダンの言う通りこのままでは冒険者は無理であるし、何より成長が見込めない。ライダンは諦めろと言ったがこの結果が逆にガレナの魂に火を付けた。
そして合気を更に使いこなすためにガレナはこの日から山に籠もり修業を続けるのだった――
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