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僕はやっぱり死神だ。だって、僕の大好きな人がまた死んでしまったから。その人も僕の事を心から愛してくれていた。いつも優しくて僕を見守っていてくれた人。育ての親の未可子さん。僕はお母さんをふたりも亡くすなんて思いもよらなかった。
恋ではなかったけど、血の繋がらない母と子でもお互い好きになれば僕の法則は発動してしまうらしい。
これだけ続いたらこれは偶然では済まされない。なんで未可子さんまで僕は失わないといけなかったのだろう。
「透ちゃんのママになれてよかった」
僕の事を好きすぎたのが悪かったんだ。僕も未可子さんのことが大好きだった。
僕が学校で死神といわれても、家に帰れば未可子さんは僕に安らぎを与えてくれていた。あの八の字に下がった眉毛。常に僕を心配しているようにみえて、常に愛情を感じさせてくれた。
実際、本当の母親以上の愛を僕に与えてくれた人だった。
だから未可子さんを失った時、ショックが強すぎてその後の中学の時の記憶が飛んでしまっている。中学三年生の時の記憶が特にあやふやでどうやって卒業したか覚えてないくらいだった。
僕はこの時、大切な人を失う辛さに耐えられなかった。これ以上大切な人を失ってしまったら、僕は生きていけそうもない。
自分の家族までも死んでしまったことで、クラスメートは僕を強く死神と信じ込んだ。その頃の記憶が曖昧だが、僕の周りは面白いほど人が避けていたのだけは覚えていた。
未可子さんが死んで再び独身に戻った父は、仕事の関係でよく色んなところに飛ばされた。父にとっても悲しかったみたいで、気を紛らわそうと自ら出張を志願していたようだ。高校受験を控えていた僕は、転々と移動する父についていく事ができず、そこで未可子さんの母である
その寿美さんというのが僕がばあちゃんと呼ぶ人である。
僕は死神を隠して新たな土地で静かに暮らす。そして間違いが二度と起こらないようにばあちゃんにはそっけなくする。
娘の未可子さんが育ての親とはいえ、血の繋がらない赤の他人が押しかけて無愛想にしてたら好きになることはないだろう。
一応父がお金を払っているので、ビジネスと割り切っていると思う。お陰で僕も遠慮なくつれない態度を取れるというものだ。
これで僕は大切な人を失わない、人との付き合いを排除した生活ができる……はずだった。
それなのに、僕は女の子から手紙を渡されてしまった。
教室に入って目立たなく席につき、僕は鞄からあの桜色の封筒を恐々と取り出す。裏も確認してからまさに封を切ろうとした時、
「透、おはよー」
僕は咄嗟に封筒を隠そうとする。でも神野は目ざとくそれを僕から奪い取った。
「あー、何これ。もしかしてラブレター?」
「まさか……」と白を切った僕だが、神野に誤魔化したって無駄なことは分かっていた。「とにかく返せよ」と何気ないふりをして催促する。
「いいじゃん、大親友なんだから」
「おい、いつ僕が神野の大親友になったんだよ」
「初めて会ったときからに決まってるじゃん。俺がそう決めたんだ」
白い歯を光らせるようにキリッとした笑みを僕に見せていた。
僕は友達なんて作るつもりなんて全くなかった。それが男であっても、僕は人を好きになる事を恐れていた。
「だから、俺には近づくなって言ってるだろう。不幸になるぞ」
そう何度もそっけない態度をとって僕は断ってきた。
「そんな風に脅してもだめだ」
「脅しているんじゃなくて、本当なんだ」
僕は過去の大切な人たちを自分のせいで失った事をまだ言った事がなかった。神野は僕の理由を知らないから冗談だと思って面白がっている。
一体僕の何がよくて神野は僕を親友と決め付けるのか。入学して早々いきなり近寄って馴れ馴れしい態度には圧倒された。僕は無になろうとしていたのに、神野のせいでいつも騒々しくなってたまらない。
睨んでも、怒っても、脅しても神野には全く通じない。僕のひ弱な頼りない部分がいまいち信憑性に欠けて結局僕は神野の押しに負けてしまう。
「いいから早くそれ返してくれ」
「それじゃ俺にも見せてくれよ」
「わかったよ」と僕は簡単に折れてしまった。
手紙を再び手にして、僕はため息をついた。
「で、なんでそんなかわいらしいものを持ってるんだ?」
かわいらしいものと神野に比喩された手紙を見つめながら、僕は今朝の事を説明した。
「おっ、あのお嬢様学校の女子高生からか。やるな、透。とにかく開けてみろよ」
好奇心一杯に神野はニタついて僕に催促する。
「でも僕は告白されても絶対断るから」
ラブレターと僕はすでに決めつけ、そして封筒の封を切った。
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