第1章 融合
第1話 世界融合
——2035年 8月15日 午前0時、世界は完全に2次元と融合した。魔の国に重なったところには魑魅魍魎が跋扈し、聖なる地と重なったところはもともとあった建造物を文字通り潰して巨大な神殿が建ち、潰れなかった建造物も木々に侵食された。
2030年 12月 某日 21:20
——全ッ然増えねえ。
俺——
どうして絶望していたのか。その答えは簡単だ。「チャンネル登録者が増えないこと」。これが笑っちまうほどに増えない。最後の投稿から3週間経っているからかもしれんが、数字はデビューした時と同じ9人で止まっている。
「せめて多くの人に見てもらって、評価してほしいなー」
そんなことを思いながらスマホのニュースを眺める。
「速報です。先ほど、北極点で発生したオーロラが金色になり、地面まで伸びた後、南下しています」
「は?」
初老のアナウンサーが真面目な顔で意味の分からないことを言っていた。
後ろの映像には、確かに金色のオーロラが地面まで伸び、南へアニメのスキャンみたいに移動している。
しかし、俺はすぐニュースを閉じた。合成のフェイクニュースなんか見てられるか。
歯磨きをして寝ようと思い、洗面所へ向かった。
階段を下りる途中で光の壁が迫ってきているように見えた気がするが、照明からの光のいたずらだろうと思って無視。
——そろそろ髪切ったほうがいいよな。顔にかかるし。
「ん?」少し疑問が浮かんだ。目にかかる髪に見えるのは白っぽい色だった。俺は髪を染めたことなんか一度もないはずだし、地毛も暗闇にいたら見えなくなるほど真っ黒だ。
洗面所に立ち、鏡を見ると、自分が忌み嫌っていたほどの厚い唇の陰キャ顔ではなく、薄い唇に細い鼻梁、紫水晶色の気持ち程度にたれ目の優しそうな顔だった。髪もはねた銀髪になっている。
「……え」しばし固まった。
なんで俺の顔が「
俺は某動画投稿サイトで「淡霜ノア」としてVtuber活動を行っていたが、容姿が完全に配信の姿「淡霜ノア」になってしまっている。
「うっそぉ」信じられないなんてもんじゃない。言葉に言い表せないほど驚いた。
ほかにも俺のようになっていることを信じて動画投稿サイトを見る。ニュースは速報でも生放送中の出来事のものに速さで勝てない。
そして、深夜雑談中の大手Vtuberが配信で慌てふためく様子が確認できた。禁忌に触れないよう意識するのも忘れたらしく、今起こったことをどんどん話始めた。
「いや、あの! 皮膚の色が真っ白になってくんですけど⁉ え……ええ⁉ 待って、顔が! 顔が『
すごくわかりやすい。静の通知ONしといてよかった。
——まあ、何も解決はしていないのだが。
ほかの人の配信も見て、まず分かったことが1つある。
それ、はほぼすべてのVtuberの体にこの異変が起こっていること。もう1つは異変が起こったVtuberの一部は特殊能力を得ていること。しかも、Vtuberとしての『設定』がそのままできているということ。例えば、天使として活動していたVtuberは容姿が活動しているものになり、翼だか天使パワーだかで飛べるようになったということだ。
……安心してほしい。俺が一番理解できてない自信がある。
そして、今俺が直面している問題がある。それは、学校や家族になんて説明するかだ。「気づいたら変身していた」なんてオカルト研究部でもない限り信じない。
だが、テレビ会社の仕事が早ければこれは問題ないだろう。
しかし、少しでも遅れた場合だ。すなわち、朝のニュース一発目に出ていないということ。この場合、毎朝親父が見ているニュースの一発目に来なければ、俺が起きていく頃にはまだ確認されていない。つまり、朝のニュース一発目に出ていないということは家を追い出されることと同意義だ。
ああ、今すぐテレビ会社に殴りこみたいくらいにこの情報を仕入れてほしい。
——翌日、恐れていたことは起きなかった。さすがテレビ屋魂。珍事件は逃さない。だが、テレビを見ない習慣かつ起きるのが俺より遅い妹には
「誰⁉」と言われた。そのあとに「どこの学校? 好きな人とかいるの? よければ連絡先交換しない?」と言われた時にはかなり引いたが。
登校し、教室に入る。そして、前の席にいる親友、
「よお」
「は? 誰?」
忘れてた。俺見た目変わってるんだった。
「俺だよ。石田だよ」
「嘘つけ」
「嘘じゃねえよ、佐々木」親友の名前を言う。すると、佐々木は少し信じたようで、確認の段階に入った。
「……オレの誕生日は?」
「2月28日」
「オレの好きな色は?」
「緑。もっと言うと浅葱色」
「……正解だ。お前、ホントに石田だったのか?」信じられないという顔だった。
「そうだよ。お前、誰かの深夜配信で変になったVtuber見た?」
佐々木はVtuberの熱狂的信者なので誰かので見てるだろう。
「そういえば
説明しておくと、使乃とはある大手事務所所属で、佐々木の推しの配信者だ。フルネームだと「
声が遠くなって激突音が聞こえたのは、おそらく能力に目覚めた組で、天使だったから翼が生えて飛んだのだろう。制御ができなかったのは運がなかったとしか言えない。
「ああ、それそれ。俺の知るVtuberでこの異変が起こっていない奴はいなかった」
「マジで? それやばくねえか?」姿が変わった相棒に話しかけられた時からこいつの顔はずっと疑っているままだ。
「だろ? 幸い、テレビ屋魂が働いてくれて俺は平気だけどさ」
「そういえば、お前、その姿だったら妹にモテるんじゃねえか?」佐々木はニヤニヤしてる。あーすっげーこいつのこと殴り飛ばしたい。
「今朝在籍校と連絡先、恋愛事情聞かれた。兄妹だから連絡先もすでに交換済みだし在籍校はアイツも一緒だし」
「恋愛事情は?」
「殺すぞてめえ」
結構キレた。シバいたろか。
「そんな顔すんなって。ちびるだろ」
ちびって恥かけこの野郎。
「妹には教えなくても、オレには——ナンデモアリマセン」
途中からは俺が殺気を込めて睨んだからだろう。
「よろしい」
そういえば、このクラスで変わってるやつって他にいるのかな。そう思っていたら、その疑問は一瞬で回答された。
「おはよー……」萌え系とか言われていそうな声の主は、赤色のポニーテールで、目も薔薇のような赤の、活発そうな外見の女子だった。
「「誰?」」
「まあそういうよね……。わたしは
「うっそお・・・・・・」
目の前の活発そうな女子がは、俺の記憶にあるおっとりした感じの焦げ茶のロングストレートで黒目の女子ではないことが信じられなかった。しかも、暁ユウナと言えば日本で最大手クラスの事務所のスカウトを断ってなお、その事務所からのスカウトが続くというレベルのVtuberだ。俺とは雲泥の差どころか星雲と泥の差だ。
「お前、Vtuberやってたの? 俺知らなかったよ……」
「それはそうだよ。だって、家族でも親にしか言ってないもん」
「なんで黙ってたんだよ。あとお前3人家族だから親とお前以外いないだろ」
「ごめんごめん。で、あなたは誰?」
「あ……ごめん、名乗ってなかったか。俺は佐々木和樹だよ」
「カブトムシの成長みたいな変化だね」
「たとえが特殊だな! あとお前今ディスったろ!」
だれがカブトムシの幼虫だよ!
「お前らどっちもカメレオンが天敵を見た時の100倍くらいの変化だよ」
「うるせえ!」俺が言ったのとかぶって井上が「うるさい!」と言った。
——そして、それから3か月が経った。
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