高魔力はお好きでしょ?

 焼毬やまりの試食会は、アリス達も加わって終始賑わっている。私は増えた人の分もせっせと『焼毬トリュフ載せ目玉焼き』を作って、やっとさっき配り終えたとこだ。


 厨房の隅で一息付いていると、フェネックそっくりの獣人女性スタッフが声を掛けてきた。やたらと大きな耳にツンと尖った鼻先を持つ彼女がここのスタッフだとわかったのは、みんなとおそろいの制服スーツを着ているから。


「お休みの所ごめんなさい。ギルドここの役員が試食したいと申しておりまして……三人分追加でお願いしてもよろしいかしら?」

「え、あっはい。構いませんよ」


 台所だけじゃなく、卵まで使わせてもらっちゃったしね。ここの偉い人が試食する用なら、優先して作ってあげないと。

 私はさっきと同じように、バターを溶かしたフライパンに卵を三つ割り落とす。弱火にして蓋を閉めた所で、フェネックねーさんが再び声を掛けてきた。


「私、カレンって言いますの。あなたのお名前をお聞きしても?」

「ああ、気軽に『ともっち』って呼んでください」

「トモッチさんね、わかりましたわ」


 カレンさんはにっこり微笑むと、焼毬が変化した時の状況について詳細を訊ねてきた。私が無意識に放った青い閃光の話をすると、ちょっと驚いた顔をする。


「それで焼毬の毒が消えたということは……もしかしてトモッチさんは、浄化魔法使い?」

「ええ、今まで使ったこと無かったんですけどね。そんなスキルもあるみたいで」

「焼毬の毒を消せるほどの浄化魔法なんて、本当に素晴らしいわ。使わないなんて勿体ない!」


 そう言うとカレンさんは、まるで自分の事のように嬉しそうな顔で笑ってる。それにしても……ふむ、あれがなのか。それにしても空飛んだり魔法使えたり、なんだかすごい世界だよねえ。

 そういえばゆっきーやハタやん、イッシーの能力って一体どんなんだろ? がぜん興味がわいてきたわ。うん、後で使わせてみよう。私は密かにそう決心した。



***



 そんなこんなで、カレンさんが出来上がった目玉焼きをトレーに載せ、厨房から出ていったのがつい一時間ほど前の事。そして今は私たちだけでなく、なぜかチーム勇者の面々までもそろって別室に集まっている。


 私は手元にある金属製のカードを眺めていた。そのカードは名刺より大きく、はがきより小さい中途半端なサイズ。一見銅板のようだけど、角度を変えるとうっすら金色の虹彩シラーが見える。――何か特殊な加工でもされてるんだろうか。


 カードをくるくる回して観察していると、向かいの席でカレンがにっこりと微笑んだ。


「ではトモッチさん。その板に正式なパーティー名を書き込んでください」


 カレンと名乗ったこのフェネックそっくりの獣人女性は、冒険者ギルドの会計部長だと名乗った。他の職員と同じスーツを着ているけれど、ジャケットの襟には金色のピンバッチがキラリと光っている。――うん、偉い人って感じ。


 彼女から差し出されたのは青い鉄筆ペン。金属製のそれをカードにそっと触れさせたら、何の抵抗もなく金属の表面がとろりと溶けた。それはまるで、アイスクリームの表面にを当てたみたい。私は慌ててペン先をカードから離した。


「うわあ、びっくりした! そっと書かなきゃ全部溶かしちゃいそう」

「ともっちすっごい! めちゃめちゃ魔力高いじゃ「黙ってろアリス」(むぐむぐ」


 急に大きな声を出したアリスは、さっそく白虎のナイジェルに捕まって口を塞がれている。――この子もほんと、懲りないわね。


「っていうかアリス、なんでこれで私が高魔力だってわかんの?」

「……そのペンは使い手の魔力によって出力が左右されるんですよ。そしてそのカードは、ペンを通して受けた魔力で形を変える特殊素材です。そして大抵はしか書けないのが普通ですから。その溶けっぷりをみれば、あなたが高魔力だって一目瞭然、てわけです」


 私の質問にさらっと答えてくれたのは、アリスじゃなくて青いトカゲ男。確か名前は……ロイドだっけ。表情の乏しいトカゲ顔で、面白くなさそうに私の手元を見つめている。


「へえ、ロイドさんは物知りなんだねえ」

「いや、このくらいは常識ですから。むしろなんであなた達、そんなことも知らないんですか?」

「……ロイド、そのへんにしとくっすよ。誰だって得手不得手はあるっす」


 ゆっきーの褒め言葉にツンで返したロイドを諌めたのは、ダークエルフのノエルだ。

 うーん、アリスへの対応も含めて考えると、ノエルってけっこう面倒見が良いのかもね、フォローが上手だし。ホストみたいなチャラい見た目だけど、人は見た目に寄らないとはよく言ったものだわ。


「あの……すみませんが、そろそろ書いてもらえませんか」

「あっごめんなさい」


 ほらぐずぐずしてたから、カレンに注意されちゃったじゃない!

 私があわててペンを持ち直していると、服をちょいちょいと引っ張られた。振り返って見れば私の服を摘んでるエルフなイッシーと、黒豹ハタやんが揃って笑ってる。


「慌てる必要ないでござるよー」

「それよりほら、集中してにゃー」

「うん、ありがと!」


 私は気を取り直して、ペンをしっかり持った。

 ――そう。私はこれからこのカードに、さっきみんなで決めた私達の『パーティー名』を書くのだ!

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