異世界飲兵衛放浪記 〜上野で昼から呑んでた四人の中年がまとめて異世界転移! そしたら異種族変身&性転換ってどういう事!?〜

月岡ユウキ

それはある日、突然に

 私は友野真里とものまり、48歳。たった今、軽い頭痛と倦怠感で目が覚めたところ。

 突っ伏していたのは居酒屋のテーブル。頭を上げると、目の前には飲みかけのジョッキと、食べかけの串焼きが数本乗った皿が見えた。


(やば……寝ちゃってたのかな)


 昼から飲んでいたのは上野のもつ焼き屋。お店に迷惑かかってなければいいんだけど……。

 まあでも私の他におっちゃん三名の飲み友達がいるから、きっと大丈夫だろう。とりあえず、起きて謝らなきゃね。


 身体を起こすと、そこは見覚えのある和風の個室……のはずなのに。


(は……?)


 全然見覚えのない、洋風な店内。火の入ったランプがあちこちに置いてあり、温かみのある雰囲気だ。カウンターや他のテーブルには、たくさんの人がいて賑わっているけど、明らかに人間じゃないやつもちらほら見える。


 何あれ、まさか獣人? 犬っぽい顔つかあれ犬だよ犬。何二足歩行してんの? しっかり服まで着ちゃってさ。

 んでその隣の兄ちゃんは、鎧着て剣とか持っちゃってるけど、それ何かのコスプレですかドラ○エですか?


 ほかにも露出度の高い踊り子っぽい女性とか、でっかいとんがり帽子を被った魔法使いっぽいおじいさんまでいる。まあ普通の人もたくさんいるけど、共通してるのは、みんな私のことは全く気にしてないし、なんなら見てもいないってこと。


(レイヤーさんたちの打ち上げ会場? いやいつ店替えしたの……私、全然覚えてないよ? やばいなマジで飲みすぎた??)


 改めて自分の座っているテーブルを見た。広い丸テーブルは四人掛け。目の前にはさっきまでの私のように、三人の人? が突っ伏している。


 テーブルには人数分のジョッキやグラスが置いたまま。大きめの皿には串焼き肉や卵焼き、そしてスティック野菜やきゅうりの一本漬け? まである。

 ――店の雰囲気に全く合っていないけど、共通してるのは全部飲みかけ食べかけ、ってこと。


 さっきまで私と一緒にいたのは、数年前にSNSで知り合ってから意気投合し、以来飲み友達になったおっちゃんら三人のはずだ。彼らは年齢性別の隔たりなく、気楽に誘い合って一緒に飲める貴重な友人たちである。


 なのに今目の前にいるのは、右にはやたらと図体のでかい黒髪ストレートロングの……たぶん女。つかほんとにでかいなこいつ。なんか背中とかほとんど丸出しで、肩には綺麗な赤っぽい鱗が生えてる。そしてやたらと露出度が高い。


 向かいには耳のながい金髪の……少女? これっていわゆるエルフ? やだ本物?? 面白いから耳引っ張ってみたいけど、ちょっと距離的に届かない。


 んで、左隣には黒毛の猫っぽい獣人。こいつも結構でかいけど、ツヤツヤした毛並みがめっちゃ綺麗。あ、いま耳がピクって動いた。うわー長い尻尾もある。


 触りたいモフりたいって思ったら、もう勝手に手が動いてた。猫っぽい獣人の耳をつつく。起きないから頭撫でてみて。そしたら長い尻尾が動いたので、そっと掴んでちゅるんって撫でたら、ブワッて全身の毛が逆立ってそいつは飛び起きた。


「んがあっ!?」

「うわああっ!?」


 あーびっくりした。急に大声出すんだもん。ほら他の人たちも注目してるよ恥ずかしい。


「あのー……」


 お、喋った。猫が喋ったよ。しかもなんか艶っぽい声しちゃってさ。いや、よくみたら猫じゃなくて黒豹だわ。金色の瞳がギラギラと輝いてる。


 腰下はクロップド丈のカーゴパンツに黒い編み上げブーツ。上半身はチューブトップの上に短い丈のジャケットを羽織ってる。で、思わず目線がいくけど……乳でかっ! 黒い体毛に包まれてはいるけれど、そのでっかい胸はちょっとジャンプしたらチューブトップからこぼれちゃいそうだ。

 すると黒豹ねーちゃんは怪訝そうな顔をして、胸ばかり見ている私に尋ねた。


「すみませんけど、どちら様で?」

「え、私? 友野というものですが……」


 あれ、なんか自分の声が変。妙に低い……酒焼けか?


「は?……まさか、?」

「え??」


 なんでこの黒豹ねーちゃんは、私のあだ名を知ってるんだろう?

 確かに私はおっちゃんら三名から、ともっちと呼ばれていた。でもその呼び名は、おっちゃん達の他にはSNS上での知り合いしか知らないはずで。


「なんで私のあだ名を知ってるんですか?」

「いや本当にともっちなの? まじで??」

「ええ、そうですけど……」

「オイラだよ! 波多野だよ!」

「え……?」


 黒い女豹が名乗ったその名は、よく知っている。波多野英樹はたのひできさん 47歳。四人のうちで唯一の歳下男子だ。


「ハタやん、何その格好! すっごいじゃん、特殊メイク!?」


 ゲラゲラ笑いながら頭を撫でる。うんいいモフっぷり。もう一回尻尾をやんわりつかんでちゅるんと撫でたら、また全身の毛が逆立った。――実に面白い。


「いやそれやめて!? なんかゾワってするからゾワって! っていうかね、ともっちの格好も大概だから! てか何それ? その背中のって本物!?」


 黒い女豹なハタやんが、私の背中をすっごい勢いで指差してる。は? 何なのよって振り返ったそこには、白くて大きな翼があった。


「――へ?」


 何これまじ天使。いや使い方間違ってる気がするけど、でもまじ天使だわこれ。意識すれば簡単に片翼が横に広がる。


「ちょっとお客さん困りますよ! ただでさえ狭いんだから、お店の中でそれ広げないでください!」

「あっはいごめんなさい」


 ジョッキ五つ持って移動中の、猫型獣人の店員さんに怒られた。翼が進路を塞いじゃったからね、ごめんなさいね……ってそうじゃなくて何これ!


「すっごいこれ、ほんとに飛べるのかな、ねえねえ」

「知らんわ! つかオイラ何これ。このでかい乳……うわ本物っ!」


 自分の乳を揉んで喜ぶハタやんは、四人の中で唯一の独身だ。別名、貴族。でも最近は頭髪の寂しさが気になるお年頃で。


「ハタやんすごいねー。よかったねフサフサだよー」

「フサフサっていうな! モフモフって言ええええ!!」

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