第30話 殺人鬼4
「イブリース?」
「えーっと、もしかして明日斗くんって、物凄く強かったりする?」
「ん? 知らん」
昔から喧嘩とかはしたことがない。
下手に殴ると相手が死にそうだし、殴られても殴り返さないようにはしている。
特異体質だから傷もすぐ治るし、争い事にまで発展しないのだ。せいぜいが「気持ち悪い奴」で終わる。
だから、自分が強いかどうかは知らない。
明晰夢の中でなら無敵に近かったが、現実では分からないな。
「じゃ、じゃあ、運動神経が凄く良かったり?」
「体育の成績が良かった事はないな」
下手に接触すると、相手を怪我させてしまいかねない。だから、スポーツで激しく動いた経験がない。
道具を使ったスポーツとかだと、すぐに道具を壊してしまうので、これもまた全力を出せない。だからか、学校での体育の成績は芳しくなかった。
というか、サッカーボールやバレーボールって何であんなに脆いんだ?
唯一、得意なのが長距離走だが、これは息を荒げて一生懸命不格好に走るクラスメートを後ろから追い込むのが大好きなため、タイムに関してはお察しだ。
要約すると、総じて体育の成績は悪い。
運動神経があるのかどうかについては、全力で動く機会がないので分かないというのが答えである。
「いや、どう見ても平均的な人間の動きじゃないからね! 手だって炭化して無いし! ……って、手? ――手ぇっ!」
イブリースが大袈裟に騒ぐので、視線を向けてみると右手の甲のミミズ腫れから血が滲み出してきている。
「傷が治らないとか珍しいな」
やっぱり、さっきの炎は普通の炎とは違うということなのだろうか。何かしらのトリックだと思っていたのだが、そうではなかった?
そういえば、さっきイブリースが魔法がどうのこうのと言っていたような?
まぁ、その辺は大した事じゃないだろう。
パンチで消えるような脆弱な代物が、こうアニメや漫画で大活躍の『魔法さん』なわけがないからな。
むしろ、問題なのは……。
「とりあえず、悪魔が下半身だけでも生き返るかもしれないから、下半身も粉微塵にしておくか……」
「生き返らない! 生き返らないから! これ以上の残虐行為はやめてあげて!」
どうやら生き返らないらしい。
俺は死体への興味をすぐに失った。
そんな事よりも、屋上で待つ悪魔の処断をしなくては……待ってろよ、グラシャラボラス!
「じゃあ、この生ゴミは放置して、階段で行くか」
「それだけ? それだけなの? もっと他に色々と聞きたい事があるよね? というか、むしろ、私が聞きたいんだけど?」
「そんなのは後でも良いだろう」
「良いかなぁ……」
「これから二十階分の階段を上っていくんだぞ? その時に話しても全然遅くないだろう」
俺が非常口の扉を親指で指し示すと、イブリースは盛大なため息と共に俺の言葉を肯定してくれるのであった。
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