第1ゲーム 4.12
【08時08分】
XY年後の日本は平和であった。
国民の記憶からあのパンデミックの記憶は薄れつつあり、地震や台風が引き起こす大災害もあれから久しい。
このそう遠くない未来の日本では、一人一台スマートフォンを持つことが義務付けた。これが議決された際には、キャッシュレス化の促進や行政の効率化といった目的が取り沙汰された。また、この政策に目を付けた大企業がこぞって携帯電話のサービスを開始し、瞬く間に価格競争に発展した。その一方で、政府は生活困窮者等に対しても、簡単な手続きを行うだけスマホを支給できる制度を設けた。
これほど政府が徹底している様を見て、疑問を抱える国民も一定数存在した。しかし、戦争ともいえるスマホの価格競争を前にして、それらはまるで蚊の鳴く声のようだった。
*
サー……。
櫻の花びらがひらひらと散る。
「きれいだなぁ……」
僕は思わず声を漏らした。
無数の花びらが散る光景に、生まれ故郷を思い出す。
春は出会いの季節というが、僕にとってはそうではない。なぜなら、飼っていた金魚が死んだから。何せ、移動距離が長かったからそのストレスだろう。非常にショックである。ばあちゃん家にいれば、父さん母さんに着いて行かなければ。
「あれ……侑斗くん?
可愛らしいよく通る声。
甘いフローラル系の香りが鼻に触れる。振り向くと、そこには一人の女子生徒がいた。ショートボブの髪形で前髪はセンターで分けられている。彼女は同じ高校の制服を着ていた。正直まだ見慣れない。
「ねぇ。私の名前、覚えてる?」
「えーっと。に……西山さんで合ってる?」
その時、ぱっちり二重の奥の澄んだ瞳と視線が触れた。
昨日自己紹介してもらったぞ。それでいて、もし自分の名前が覚えられていなかったらショックだ。
不安で思わず質問に質問で返してしまう。
「ううん、日向ね。
「オーケー、日向さんね。」
「うん。日向でいいよ」
「……」
「もう覚えてくれたよね?」
僕はうんと頷いて見せる。
しばらく日向と肩を並べて歩いた。「あのアイドルに似てるね」「前の学校で彼女はいたの?」「今日の朝ご飯何だった?」その間は無意識に、まるで脊髄反射で会話をしているようだった。
桜の花びらが散るのを見ながら歩いていると、鉄筋コンクリート造りの建物が姿を現した。その4階建ての大きな建物が、感傷に浸っていた僕の意識を引き戻す。
「少し急がないと……」
「もうこんな時間!?」
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