誘拐未遂と調査

「颯斗君、遅いね」

「咲達に顔を合わせづらいんだと思う。咲もカッとなって言い過ぎちゃったし……」


 颯斗君の帰りを待っていると不意に玄関のベルが鳴る。

 颯斗君が帰った方と思い、扉を開けたその先にいたのは私のお父さんの弟子だった人達だった。


「お嬢様、お館様の命令なのですいませんが眠っていただきます」


 まずいと思ったその瞬間、咲ちゃんが飛んできて弟子達を殴り飛ばした。

 正直少し驚く。


「有栖ちゃん、逃げるよ!」

「う、うん!」


 咲ちゃんに手を引かれ、私と咲ちゃんは走り出す。

 色々と頭の中に疑問はある。

 お父さんが急にこんなこと言うのなんて普通はあり得ないとか颯斗君はどうしたのとか。

 だけど今はそんな事を言っている暇はない。

 とにかく逃げないとどうしようもないことになる、それだけはなんとなくわかっているからだ。


 ◆◆◆


「はぁはぁ、とりあえずここまできたら大丈夫、だと思う」


 走り出した私と咲ちゃんはとりあえずまだ契約中で偶々鍵を持っていた大智の家に転がり込んだ。

 咲ちゃんは困った時に使っていいと大智から鍵を預かっていたらしい。


「とりあえず食べるものもないし電気、ガス、水道も今は止まってる。色々と不便だけど数日なら過ごしせると思うんだ。だからその間になんとか颯斗先輩を探すしかない」

「そう、だね……。お父さんが急にこんな事するなんて思わなかった。とりあえず颯斗君に電話してみるね」


 私は急いで颯斗君に電話をかける。

 お父さんに電話をかけても取り合ってもらえない確率が高い以上、颯斗君にかけるしか選択肢はない。


(お願い颯斗君、出て!)


 不安からか心の中で何回も神様に祈る。

 幼い頃から神様なんていないと教えられてきたけどこんな時ぐらいは頼らせて欲しい。

 コールの音が永遠に響いている、そんな感覚に陥る。 

 そして長いコールの後、電話が繋がった。


 ◆◆◆


 有栖先輩のお父様にあんな事を言われた以上、家にも帰る気にはなれなかった。

 勿論、咲や有栖先輩と顔を合わせるのが辛いというのもあったがそれ以上に今の不甲斐ない自分を誰にも見て欲しくはない。


「ネカフェにでも行くか……」


 幸いにして両親が残してくれたお金がある。

 数ヶ月外で過ごしても問題はないだろう。

 こうして俺は寒空の下、駅前のネカフェへと向かった。


 ◆◆◆


 スマホが鳴っていた。

 相手の名前は有栖先輩。

 大方、咲に俺の話を聞いたと言ったところだろうか。

 電話に出るのすら少し億劫だ。

 だけどネカフェでいつまでもスマホが鳴っているのは周りに迷惑かもしれない。

 そう感じた俺は数コールの後、電話に出た。


『颯斗君! 今何処にいるの!?』

『駅前です。それでどうかしたんですか? こんな時間に』

『実は颯斗君の家に小鳥ヶ丘の、お父さんの元弟子達が私を実家に連れ戻そうとしてきて……。何か知らないかな?』


 俺は少し戸惑う。

 俺に有栖先輩を会わせない為とはいえ、あのお父様がそこまでやるのかと。

 しかも有栖先輩には爺と呼ばれるお爺さんがいたはずだ。

 迎えにくるならからだろう。

 しかも元弟子とくると色々と引っ掛かりを覚える。


『俺は有栖先輩のお父様から2度と有栖先輩に会わせないと、そう言われました。だからそれで連れ戻しにしたのかなと思ったんですけど……』

『何か引っ掛かるよね。私を迎えにくるなら爺が来ればいいはずなのに』


 どうやら有栖先輩も同じことで引っ掛かっているらしい。


『俺、もう一度だけお父様に会ってみます。有栖先輩は咲も一緒なら咲となんとか数日逃げて下さい』

『わ、わかった! とりあえず全力で隠れて逃げるよ。決着がついたら連絡してね』


 それだけいうと電話は切れた。

 俺は覚悟を決める。

 もう一度あのお父様と話し、事情を汲み取らねばならない。

 もう一度お父様と話し、有栖先輩とどうにか会えるようにならないといけない。

 そんな二つの目標を掲げて俺はもう一度小鳥ヶ丘家の屋敷を訪ねた。



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