咲と

「それで颯斗先輩何処に行きますか?」

「服を買いに行きたいなぁ」

「あれ? 有栖ちゃんとの買い物では見なかったんですか?」

「有栖先輩が張り切りすぎて俺の服なんて見る時間なかったんだよな……」

「じゃあ咲が颯斗先輩の服、見繕いますよ! 颯斗先輩、服なんてあんまり買わないでしょうし」

「それ有栖先輩にも言われたけど俺ってそんなに服持ってないのか?」

「年5着で回す人が普通に服を持っていると思っていたことに咲は驚きなんですが……」

「実際、服なんてそんなに必要ないと思ってたからなぁ」


今まで服なんて持っていても休日は大智と遊ぶか家で勉強するかの2択だったわけで。

平日は制服を着ればいいことがさらに拍車をかけていた気がする。


「ともかく今日は颯斗先輩には咲の着せ替え人形になってもらいます!」


◆◆◆


「で、どうしてこうなったんだ?」


俺は横でぐったりとベンチに項垂れている咲にそんなことを問う。

理由ははっきりとわかっている。


「咲が悪かったです……。まさかお化け屋敷があると思わないじゃないですか」


そう、咲が服を買いに行く前に見かけたお化け屋敷に入りたいと言い出したのだ。

大方俺の怖がる姿が見たいという魂胆だったのだろう。

だが俺は怖いものが存外にない。

お化けなんてものははなから信じていないし、超常現象なんて全部科学で証明できると思っている。

それに対して咲は怖いものが苦手だったようで。


「それでどうする? そこまで腰抜けちゃったら歩くのも一苦労だろ」

「そうですね……。申し訳ないですけど今日はこの後、何処かで食事でもして帰りましょう」


俺としては別に構わないが、項垂れる咲の姿を見て少し放っておけない気持ちになる。


「咲、良ければなんだけど面白い店があるんだけど」

「面白い店ですか?」

「そう、カップルしか来店できないと言われるカフェなんだよ。咲さえ良ければだけどどうかな?」

「颯斗先輩、それって……」

「いやそういう意味はないんだ。ただあまりに咲が落ち込んでるからさ」

「ですよねー。颯斗先輩のことだからそうだと思いました。いいですよ。付き合ってあげましょう」


こうして俺と咲はカップルカフェへと行くことになった。


◆◆◆


「いらっしゃいま……。お客様2度目のご利用ですね。前の女の人どうしたんですか?」


前に接客をしてくれたハゲマッチョの人が今回も接客をしてくれるらしい。

わざわざ耳元で話してくれるあたりいい人なのだろう。


「前の人とはお付き合いしてたわけではないので」

「では今回のこの方が本命と?」

「いえ、そういうわけでもないんですよね……。説明が少し難しくて」

「なるほど。事情は大体わかりました。刺されないようにだけ気をつけてください」


それだけ言うとハゲマッチョの人は普通の接客態度に戻っていった。


「うわぁ! 颯斗先輩見てください! このパンケーキ揺れてますよ! 映えですよ! 映え!」


やっぱり女の子ってこういうものに惹かれるのだろうか?

前食べたパフェと比べても遜色のないサイズのパンケーキを見て俺はガッカリと肩を落とす。

これを今からあーんの交換で食べ切らないといけないのか……。


「じ、じゃあ颯斗先輩、早速」


そういい咲がフォークを差し出してくる。

プルプルと揺れるパンケーキが早く食べて欲しそうな顔をしていた。

仕方なく俺はフォークを口に入れる。

半日の間にあーんを2回も3回もやるのは世界広しといえど俺だけだと信じたい。


「颯斗先輩も早く咲にあーんしてくださいよ」

「はいはい」


そして俺はフォークを咲の口元まで運ぶ。

咲は元気よくパクリとフォークを口に含む。


「美味しいですよ、これ!」

「それは良かったよ……」


俺は何故か徒労感で一杯だった。



 —————

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