文化祭当日と可愛い先輩
「にしても有栖さんと一緒に回れるなんて幸せだなぁ……!」
「もう大智君、子供みたいにはしゃいじゃって。じゃあ颯斗君、私達ちょっと回ってくるね」
大智と有栖先輩が文化祭の喧騒へと消えていく。
今の俺にはただそれを羨望の眼差しで見つめることしかできなかった。
「文化祭、ね。俺も少しは楽しめたらいいんだろうけど」
大智と有栖先輩が2人きりであるということが心配で堪らない。
もし場の空気に流されて2人のよりが戻ってしまえば俺は用済みになってしまう。
そんな考えがずっと頭をよぎって離れない。
有栖先輩がそんなことをするはずないと俺は誰よりも知っているはずなのに。
「颯斗先輩じゃないかにゃ」
聞き覚えのある語尾が聞こえた気がする。
だが今の俺はそんなことを気にしている場合ではない。
「おい! 颯斗先輩、あーしを無視するとはいい根性してんじゃねぇか!」
「聞こえてはいるが、敢えて無視をしているんだ。宮渕咲、わざわざ何回も話しかけてくるなよ」
「はぁ……。本当に颯斗先輩はいい度胸してんな」
「急に何だ? 俺を褒めたところで何も出てこないぞ。それに俺はお前のことが好きじゃない」
「褒めてねぇよ。そういうところが昔から」
「なんだ? 後半何も聞こえなかったけど」
「何でもねぇ。じゃああーしはこれで行くわ」
それ言うと宮渕咲は何処かへいってしまった。
大方、大智でも探しにいったんだろう。
にしても先輩ね。懐かしい響きだ。
◆◆◆
「颯斗君、お待たせしたかな!?」
「今きたところです……って、それどうしたんですか?」
いつも通りなやりとりをした後、顔を上げた俺の視界に入ってきたのは綺麗な純白のドレスを見に纏った有栖先輩の姿だった。
「実はクラスの出し物が女性のお客様限定の劇だったんだけど、それのお姫様役で。服飾をやってくれた子が似合ってるから是非もらってくれって押し付けられちゃって。きてきちゃったんだ」
その人の気持ちはとてもわかる。
異常なまでに白いドレスの生地が有栖先輩の漆黒とも言える髪の色、それに夕日と相まってとても映えていた。
「それで颯斗君、どうかな? 男の人に見せるのは初めてなんだけど……」
「決まっているじゃないですか。とても綺麗です。思わず見惚れてしまいそうになるぐらいには」
「颯斗君ならきっとそう言ってくれると思ってたよ。さて、高田颯斗さん。私と一緒に踊ってくれませんか?」
いたずらに成功した子供みたいな顔をした有栖先輩から正式にキャンプファイヤーでのダンスのお誘いを受ける。
当然、俺にそれを断る理由なんてなくて。
差し出された有栖先輩の手を取る。
「勿論、喜んで」
◆◆◆
「こうやって端で静かに2人で踊るっていうのも悪くないね」
俺と有栖先輩は大智やその他の人間にバレることを危惧し、キャンプファイヤーから少し離れた位置で踊っていた。
「そうですね。俺としては有栖先輩のこの姿が他の男に見られなくて安心しているところですよ」
「颯斗君、もしかして嫉妬でもしてくれてるの?」
「い、いやそういうわけじゃないですけど。ただ他の人にこんな綺麗な有栖先輩の姿を見られるのは嫌だなと……」
「安心してよ。私も颯斗君以外にはこんな姿見せるつもりはないから。勿論、大智君にもね」
頬を少し赤く染めながらそんなことをいう有栖先輩はとても愛おしかった。
だけど、同時に手が届かない場所にまたいってしまいそうな輝きや儚さも確かにそこにはあって。
「それは嬉しいですね」
ヘタレだとは思うが今の俺にはそう返すのが精一杯だった。
—————
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