第30話 嫌な予感
『カヤ』の村はここから馬車で30分程の場所にあった。
その間、私はドナルド先生から家畜の育て方について色々と教えてもらった。餌の与え方や世話の仕方…そのどれもが理にかなった素晴らしい方法だった。
「流石はドナルド先生ですね」
「いえいえ、私が獣医師として働けるのも領主様がお金を援助してくださっているお陰です。それに『シェロ』の村に学校を幾つも建てて頂いたので、私の仕事ぶりを見て獣医を目指したい子どもたちが増えたのですよ」
「そう、それは良かったわ」
馬車の中で会話をしながら思った。やはりジルベールをあの村に置いてきて正解だったと。あの男がここにいれば、こんな話をすることも出来なかっただろうから。
そして馬車は『カヤ』の村に到着した―。
****
「お待ちしておりました!領主様っ!」
村の入口では既に『カヤ』の村の村長さんが私達を待ち受けていた。
「こんにちは、村長さん」
まだ年若い村長さんに挨拶をすると、早速私はドナルド先生を紹介した。
「こちらは『シェロ』の村の獣医をしているドナルド先生よ。家畜の事はやはり専門の先生に尋ねるのが一番だと思ってお連れしました」
隣に立つドナルド先生を紹介した。
「初めまして、ドナルドです」
「おおっ!まさか専門家の先生に来て頂くとは…ありがとうございます」
村長さんが恭しく頭を下げた。
「いいえ、それでは早速問題のある家畜がいる場所へ案内して頂けますか?」
ドナルド先生が村長さんに言った。
「ええ、勿論です。それで領主様はどうされますか?」
村長さんが尋ねてきた。
「ええ、本当は私も立ち会いたいのだけど、用事があるから失礼させていただくわ。申し訳ないけれども家畜の件が片付いたらドナルド先生を『シェロ』の村まで送り届けて頂けますか?」
「ええ。それは勿論ですが、もう行かれるのですか?少し休憩されていってはいかがでしょう?」
「ごめんなさい、本当に今日は都合が悪いのよ」
村長さんの言葉はありがたいが、私には気がかりな事があった。何しろジルベールを『シェロ』の村に置き去りにしてきているのだ。ジルベールがおかしな事をしでかす前に早い所回収?してクレメンス家に連れ帰らなければならない。
「それなら仕方ありませんね…ではまた是非お時間のある時にいらして下さい。この村の特産物を是非味わっていただきたいので」
『カヤ』の村の収入源は主に畜産物で成り立っている。特にチーズやミルクは絶品だ。
「本当?その時は楽しみにしているわ」
そして村長さんやドナルド先生に別れを告げて私は再び『シェロ』の村へと引き返した―。
****
『シェロ』の村に到着した私は馬車を村の入り口で待たせて、ジルベールを探すことにした。本当ならあんな男、捨て置きたい。けれどもこの村に残していけば何を口走るか分からない。
「全く…首に縄でもつけておけばよかったわ…」
その時小さな子供を連れた若い母親にすれ違った。
「まぁ、領主様。こんな辺鄙な村まで足を運んで下さったのですね?」
「ええ、ちょっとした用事があってね」
すると母親が言った。
「あ、でも丁度良いところでお会いしましたわ。実はこの村で唯一の食堂で妙な若い男が無銭飲食をしてちょっとした騒ぎになっているんです。どうやら余所者のようなのですが…妙な事を口走っておりまして。申し訳ありませんが様子を見に行って頂けませんか?」
「え?見かけない若い男に無銭飲食…?」
何故だろう。果てしなく嫌な予感しか無い…。
「分かったわ。すぐに行くわ!」
そして私は急ぎ足で食堂を目指した―。
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