第10話 4人のメイド達

 午後1時―


 料理長に命じて簡単なサンドイッチの昼食を食べた後、私とフレデリックは今後の予算編成について執務室で話し合っていた。


「でも良かったですね…持っていかれてしまった財産が金庫の中だけで」


「ええ。流石に銀行の預金までは頭が回らなかったようね。念の為に銀行に確認しておいて良かったわ。でもまだまだお金が足りないわね…」


預金残高が記された書類を見ながら私は頭を悩ませた。


「どうするのですか?…領民達から税収の時期を早めて貰いますか?」


「それだけは駄目よ。お金が無くなってしまったのは彼らのせいではないのだから。全ては愛人に現を抜かしていたジルベールのせいなのに」


その時―


コンコン


扉をノックする音が聞こえた。


「…誰か来たようですね。対応します」


席を立ったフレデリックが言う。


「ええ、お願い」


フレデリックは扉に向かい、ガチャリと開けるとそこには4人のメイドたちの姿があった。確か彼女たちは昨日廊下ですれ違った時に私に陰口を叩いていたメイドたちだ。4人共イザベラのお気に入りのメイド達である。恐らく私に文句を言いに来たのだろう。


「何ですか?君たちは…今、奥様は仕事中ですよ」


「ええ、ですからこちらに来たのです。先程22時までこちらで仕事をしていると言ってましたよね?」


黒い髪の毛を両サイドで結んだメイドが話している姿が目に入った。うん、あの気の強そうな目は覚えている。背後に立つ3人のメイドにも見覚えがあった。


「え…?」


フレデリックの怪訝そうな声が聞こえてきた。


「いいのよ。フレデリック。彼女たちを通してあげて」


「は、はい…」


彼は返事をすると、4人のメイド達を執務室に通した。彼女たちは次々と部屋に入ってくると、執務室の机に向かっている私の前にやって来ると足を止めた。


「それで?私に何の話があってここへ来たのかしら?」


すると先程の黒髪メイドが言った。


「話ならあります。おおいにありますよ。他の人達は騙せたかもしれませんが、私達の目はごまかせませんよ」


「貴女は確か…」


「はい。私はカレンって言います。私と後ろにいる3人は皆イザベラ様と仲良しなんですよ」


挑戦的な目で嫌味たっぷりな言い方をするカレン。


「カレンッ!奥様の前でなんて口の聞き方をするんだっ?!」


フレデリックがカレンを叱責する。しかし、私はそれを静止した。


「いいわ、私なら大丈夫よ。フレデリック。それで…カレン?だったかしら。話の続きを聞かせてくれる?」


手を組んで、顎を乗せるとカレンを見た。私のそんな態度が気に入らないのか、カレンは悔しげな眼差しで私を見ると言った。


「いいですか?私達は…貴女がこの屋敷に来る前から、イザベラ様のお世話をしてきたんです!あの方こそ、このお屋敷に相応しい方だと思っています!貴女達もそう思うわよねっ?!」


カレンは後ろにいる仲間のメイド達に同意を求める。


「ええ、そうよ!」

「イザベラ様は美しくて、お優しい方だわ!」

「私達の女主はイザベラ様ですっ!」


それを聞いたカレンは満足気に腕組みすると言った。


「どうです?お聞きになったでしょう?」


何故かその顔は勝ち誇ったかのように見える。


「そう?それで?」


私は表情を崩さずに言う。


「え…それでって…?」


「だから、他に話はあるの?」


「え、ええ!あります!今朝の発表で、ジルベール様がイザベラ様とこのお屋敷の金庫から全財産を奪って逃亡したとおっしゃりましたが…真っ赤な嘘ですよね?!本当はあの方々を追い払ったのでしょうっ?!」


あろうことか、カレンというメイドはとんでもないことを言ってきた―。






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