君のような女は僕がいなくても1人で生きていけるだろうと告げて逃げた夫が1年後、愛人を連れて泣きついて戻ってきました
結城芙由奈
第1話 リディア・クレメンス
それは4月のある日の出来事だった―。
「お帰りなさいませ、リディア様」
領地の視察から戻って来た私をこの屋敷に仕える執事…フレデリック・ユアソンが出迎えてくれた。
「ただいま、フレデリック」
彼は私が半年前にジルベール・クレメンス子爵に嫁いできた時に執事として抜擢された人物だ。彼はとても優秀な人物で、まだ若干27歳という若さで執事に選ばれたのである。そして彼はこの屋敷で唯一私の事を『奥様』と呼ばずに『リディア様』と呼ぶ数少ない人物でもあった。
「お疲れではありませんか?何しろ本日リディア様が赴かれた土地の領民達は気難しい者たちばかりと伺っておりますから」
「そうね…確かに相手をするのは少々疲れたけど…でも、大丈夫だったわ」
「左様でございましたか。疲れを取るのにはハーブティーが良いと思われます。すぐに温かい飲み物を御用意させて頂きますので、ティールームでお待ち下さい」
「ええ。ありがとう。では一度自室で着替えてからティールームへ行くわ」
「はい、ご用意してお待ちしております」
フレデリックに荷物を預けると、私は自室へ向かった―。
私の名前はリディア・クレメンス。年齢21歳。
夫のジルベール(24歳)子爵とは政略結婚で半年前に嫁いできた。そして…私達は正式な夫婦にはなっていない。何故なら結婚初夜からジルベールは私を拒み続けているのが原因だったからだ―。
****
レースの襟付きブラウスにロングスカートという服装に着換えたところでノックの音が聞こえた。
「リディア様。お着換えの手伝いに参りました」
私の専属メイドのセイラの声が聞こえて来た。
「入って大丈夫よ。でも、もう着換えは済んだけれどね」
「え?何ですって?失礼致します!」
セイラの慌てた声が聞こえた次の瞬間、扉が大きく開かれた。
「まぁ!リディア様!また私を呼ばずにお1人で御仕度をされたのですか?」
セイラは駆け寄ってくると私に尋ねてきた。
「ええ。そうよ?だってこの家に嫁ぐまでは侍女どころかメイドもつけずに何でも自分1人でやっていたから」
「ですが、今はクレメンス子爵家の奥様でいらっしゃるのですから。何度もお伝えしておりますが、これからは御仕度される時は必ず私をお呼び下さいね?」
セイラは念を押して来た。
「ええ、分ったわ。それじゃ…髪を結い直して貰えるかしら?」
「はい!喜んで!」
セイラは目をキラキラ輝かせると、ブラシを手に取った―。
****
温かい南向きのティールームにセイラを連れて行くと、既にフレデリックがお茶の準備を終えて、部屋で待機していた。
「ごめんなさいね、遅くなって」
「いいえ、とんでもございません。どうぞ、お掛け下さい。リディア様」
フレデリックが椅子を引いてくれた。
「ありがとう」
腰掛けて彼に礼を言う。
「いいえ、これも執事の務めですから」
そしてフレデリックはポットに入ったハーブティーを私の目の前に置かれたカップに注いでくれた。途端にハーブの良い香りが部屋に漂う。
「まぁ…とても素敵な香りね」
ハーブティーの香りを嗅ぐと、早速口を付けた。
「…うん。とっても美味しいわ」
そしてハーブティーを飲んで、落ち着いたところで私はフレデリックに尋ねた。
「ところで、ジルベールはどうしているのかしら?」
「「…」」
するとフレデリックはセイラと視線を合わせ、黙ってしまった。その様子で私は理解した。
「そう…また彼女が来ているのね?」
恐らく、夫は今愛人と2人で部屋で過ごしているのだろう。
私は溜息をついた―。
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